シャーロック・ホームズに登場する“チキンカレー”ってどんな味?歴史料理を再現している人に聞いてみた(1/2 ページ)
日本のカレーのルーツはイギリスにあった。
『シャーロック・ホームズ』には、19世紀イギリスの料理がたくさん登場しています。どんな食事だったのか気になりませんか? なかでも意外と思えるメニューはカレーです。どんな味がしたのでしょうか。
「シャーロック・ホームズは何を食べていたのか」について、世界各国の歴史料理を再現するプロジェクト“音食紀行”を主宰する遠藤雅司さんに聞きました。
遠藤雅司さん
歴史料理研究家。世界各国の歴史料理を再現するプロジェクト「音食紀行」主宰。著書に『歴メシ! 世界の歴史料理をおいしく食べる』(柏書房)、『英雄たちの食卓』(宝島社)、『宮廷楽長サリエーリのお菓子な食卓』(春秋社)。『Fate/Grand Order 英霊食聞録』にて監修担当。
シャーロック・ホームズ「カレーはアヘンの味をごまかすのにちょうどいい」
――シャーロック・ホームズには、どんな料理が登場していますか?
作者のアーサー・コナン・ドイルは1859年5月22日生まれです。ですので19世紀後半から20世紀頃のイギリス料理が出てきます。例えば、『ボヘミアの醜聞』という作品にはコールド・ビーフ(冷製のローストビーフ)が登場します。
「コールド・ビーフとビールを一杯いただこうということさ」と言うと、ホームズは呼びりんを鳴らした。
(『ボヘミアの醜聞』より)
他には、ヤマシギという鳥のジビエ料理のようなものとか、キジ、フォアグラのパイ、ベーコンエッグ、ローストビーフのサンドイッチなど、いろいろ登場します。あと、カレーも出てきます。
――カレーですか?
「海軍条約文書事件」にはチキンカレーが、「白銀号事件」にはマトンカレーが登場します。アヘンのニオイをごまかすトリックに使われたりもするんです。
「粉末アヘンはけっして味のないものではありません。まずくはないが、それとわかるものです。普通の料理に混ぜたのでは、食べると絶対にわかってしまうから、それ以上は食べようとはしないでしょう。カレーはアヘンの味をごまかすのにちょうどいい手段だったのです。」
(「白銀号事件」より)
――そのカレーは、日本で私たちが食べているドロッとしたタイプのものですか?
とても近いものです。というのも、19世紀のイギリスのカレーが、明治期に日本にもたらされて、独自に発展して今の形になったからです。
ところがイギリスでは、ホームズの時代のカレーは今では廃れてしまっています。今もイギリスではカレーは国民食と言われるほどですが、食べられているのはインド風のものです。英国人が選ぶ好きな英国料理ランキングで、堂々の第1位が本格的インドカレーのチキンマサラだったりします。
――遠藤さんは、実際に再現もしたんですよね?
当時の料理書に掲載されていたチキンカレーを再現しました。玉ネギ2個、リンゴ2個にココナッツミルクが入るので存分に甘みがありますが、カレー粉を入れるのでカレーらしい味になります。ほかにはチキン、トマトケチャップ、薄力粉、チキンスープストックが入っています。
――作ってみた印象はいかがでしたか?
日本のカレーライスは独自に進化しているので違うものになっていますが、ルーツではあるんだなと感じました。当時の料理書には、いわゆる「バーモントカレー」じゃないんですけど、リンゴを切って鍋で炒めて蜂蜜を加えて、カレーパウダーを入れるレシピもあるんです。
※ハウス食品によると、「バーモントカレー」の「りんごとはちみつのアイデアはアメリカのバーモント健康法から」とのこと。
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