【あの現象はこんな数式】フィギュア選手は腕を縮めると高速回転し、地球は太陽の周りを回り続ける「角運動量保存則」
身近なところから、宇宙レベルの話まで1つの数式で説明してみる。
私達の身の回りには、数式が潜んでいます。今回はスケールの小さな現象からスケールの大きな現象まで、さまざまなものを冒頭にあげた式一本で説明して見せましょう。
オリンピックなどで、フィギュアスケートを見たことのある人は多いでしょう。氷の上を滑る選手たちは、ジャンプをしたりターンを決めたり、高速でスピンしたりします。
ところで、こんな現象を見たことがないでしょうか。
腕を広げスピンする選手。ところがその選手が腕を縮めると、回転が急速に早くなる――。
いったい、どうして早くなるのでしょうか。これは、冒頭にあげた数式「角運動量保存則」によって説明できる現象です。
フィギュアスケートで腕を縮めると回転が早くなる理由
角運動量保存則とは、「外部から力が加わらない限り、角運動量は変化しない」という法則です。(物理学では、変化しないことを「保存する」と表現します)
角運動量とは、「物体の回転の勢い」のようなものです。物体の回転が早いほど、物体が重いほど、そして回転半径が大きいほど、角運動量は大きくなります。
ここでいう「回転半径」とは、回転の中心から物体までの距離のことです。フィギュアスケート選手で言えば、体の中心から手の先までの長さが回転半径です。
フィギュアスケート選手が腕を縮めると、(手の)回転半径が小さくなります。すると、角運動量は小さくなるはずです。
ですが、角運動量は保存します。半径を小さくしつつ、角運動量を保つためには、回転を早くするしかありません。これが、フィギュアスケートで腕を縮めると回転が早くなる理由です。
回転の中心に向かう力であれば、角運動量は保存される
しかし、「そうは言っても、加速させるには何か力がいるはずだ。その力はどこから来るのか?」と疑問に思うかもしれません。そんな鋭い方は、次のような簡単な工作をしてみましょう。
ストローを5センチ程度に切り、ひもを通して、先端に5円玉をくくりつけます。そして、5円玉をぐるぐる回しながら、ひもを引っ張ってください。回転半径が小さくなると、急激に5円玉の回転が早くなるはずです。
※人や物にぶつからないように注意してください。顔にぶつかるとかなり痛いです(経験談)。
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このとき、ひもを引っ張るには、思いのほか大きな力が必要なはずです。この力こそが5円玉を加速させる力です。フィギュアスケートでも同様に、腕を縮める力が回転の加速に寄与しているのです。
実はこのことは、冒頭の数式からも分かります。こんな式でしたね。
真ん中にある「×」はかけ算……ではなく、「外積」と呼ばれる演算記号です。難しいので説明は省略しますが、この式では次のような意味を表すのに使っています。
「物体にかかる力が、回転の中心に向かう方向であれば、角運動量は保存される」
ひもを引っ張る力は、回転の中心に向かいます。したがって、式から、角運動量が保存されることが分かります。しかし力が加わっている以上、加速せねばなりません。だから5円玉は加速するのです。
宇宙レベルでも当てはまる角運動量保存則
ところで、現実にはフィギュアスケート選手も5円玉も、途中で回転が止まってしまいます。これは摩擦や空気抵抗などの「中心に向かない力」が加わるためです。
では、摩擦も空気抵抗もなかったら、物体はずっと同じ回転を続けるのでしょうか?
その通りです。摩擦も空気抵抗もない宇宙では、人や5円玉よりもずっと大きなものが45億年間も回り続けています。
そう、地球です。
地球は太陽の周りをぐるぐる回り続けていますが、これは角運動量が保存されているためです。他の惑星の引力などの影響によりわずかに変化しますが、少なくとも私たちが生きている間は、太陽の周りをほぼ同じ軌道を通って回り続けることでしょう。
フィギュアスケートや5円玉、はたまた地球の動きまでもが全部同じ数式で表せるなんて、面白いと思いませんか?
(キグロ)
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