皆さん、永久機関は好きでしょうか? 私は大好きです。
永久機関とは、文字通り、永久に動き続ける装置です。それも、ただ動き続けるだけではありません。そこから何らかのエネルギーを取り出せるような装置です。もう少し正確に言うと、「外部からエネルギーを一切供給することなく、永遠に動き続け、しかもそこから外部にエネルギーを取り出せる装置」のことを(第一種)永久機関と呼びます。
これは夢のような装置です。なぜなら、一度その装置を作って動かしてしまえば、そこから無限のエネルギーを取り出せるからです。石油も原子力も必要ありません。世界中のエネルギー問題が一発で解決します。
当然、太古から多くの人々がその制作に挑んできました。例えばこんなものが有名です。
「ロバート・フラッドの循環式ひき臼」では上部の樋に水がたまっており、落下する際に水車が回転。その水車によって、今度は螺旋状のパイプが回り、水を上部の樋にくみ上げます。そして、その水はまた落下して水車が回り、螺旋状のパイプが回り、また水がくみ上げられ……そのついでに、水車の回転で石臼を回せば、人間が何もせずとも永遠に粉をひき続けることができるのです!!
しかしこの装置は、実際には動きません。
なぜならば、水をくみ上げるためには水車を何回転もさせる必要があり、そのために必要な水の量と、それでくみ上がる水の量が、全く釣り合わないからです。要するに、水はどんどん落ちるのに、ほんのちょっとずつしかくみ上げられないわけですね。
歴史上、有象無象の永久機関が考案されてきましたが、いずれも何かしらの理由で実現できませんでした。そうこうするうちに、科学者たちは「エネルギー」というものの存在に気が付き、「エネルギー保存則」というものの存在にも気付きます。そして、こう結論付けました。
「永久機関は、エネルギー保存則が成り立たないから、作製できない」
とはいえ、永久機関は夢のある話なので、現代でもいろいろな装置が考案されています。また、“一見、作れそうな永久機関”は結構あり、それが実際にはダメな理由を考えるのは物理の勉強や頭の体操になります。
もちろん「エネルギー保存則が成り立たないから」で説明できてしまうのですが、その一言で片付けてしまうのはナンセンスです。全ての永久機関はエネルギー保存則を持ち出さなくとも否定できますし、そもそもエネルギー保存則の発見には永久機関の開発が関わってきています。エネルギー保存則で永久機関を否定するのは、順序が逆だと言わざるを得ません。
それに科学理論というのは、極論すれば単なる経験則です。もしかしたら、過去の人々が失敗しただけで、次こそは本当に永久機関が作れるかもしれないじゃないですか!
何にせよ、永久機関にチャレンジすることは無意味ではありません。失敗したらその理由を考えることで勉強になりますし、成功したらノーベル賞どころの騒ぎではありません。
というわけで、今回チャレンジしてみたいのはこちらの永久機関「ボイルの自己循環フラスコ」です。
永久機関作ってみた
器の中に水がたまっており、器からは十分に細い管が伸びています。水は「毛細管現象」により器の上部まで上昇し、管の先端から滴り落ちる、という理屈。毛細管現象とは、水などの液体が細い隙間に入っていく現象のことで、身近なところで言うとぞうきんが水を吸い上げる現象です。
もしこの永久機関の作製に成功したら、世界中のエネルギー問題が解決し、私の名前が歴史に残ることになります……が、もちろんこの装置も現実には動かないと言われています。しかし、それはなぜでしょうか?
水が持ち上がらないから? ――しかし我々は、ぞうきんが水を吸い上げることを知っています。
では、水が管から落ちないから? ――しかし我々は、ぞうきんから水が滴り落ちることも知っています。
それでも、動かないのはなぜなのでしょうか。実際に作って考えてみましょう。
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