庵野秀明は再び、何を作ろうとしているのか? エヴァ完結に備え「トップをねらえ!」「ふしぎの海のナディア」を見る(2/2 ページ)
今だからこそ見よう。
「トップ」に続く重厚なSF描写、既存作品やTVCMのパロディー、人の死を手を抜かずに描くしっかりした作品づくり。そして何よりヒロイン・ナディアの造形が目立つ。
褐色の美少女キャラクターという当時としては珍しい設定に加え、基本的に不機嫌で他人は信じず、周囲との対立を恐れずに自分の意見を曲げない、非常に不安定な性格は一歩間違えば視聴者から反感を買いかねないところ。しかしナディアは「思い通りにならない嫌なやつ」として描かれているわけではなく、作中何度もセリフとして繰り返されるように、14歳の彼女は「徹底的に子供」として描かれる。
そして「ナディア」の特徴として、子供は子供である、と同時に、「大人が大人である」点がしっかり強調して描かれていることが挙げられる。これがエヴァンゲリオン(特に新劇場版)との最大の違いだといって差し支えないのではないだろうか。
グランディスはナディアの相談相手または反面教師として機能し、サンソンが与える助言はジャンにとって本当に大切なものを気付かせてくれる。言葉少ななネモ、また一癖あるキャラクターのエレクトラも同じく、ジャンとナディアを決して危険な目には遭わせようとしないという一線は作中を通して絶対に守り通している。シンジを積極的に戦線に向かわせるネルフの面々とは好対照である。
責任を取るのも子供たちを守るのも大人の仕事、というのを前提にキャラクターたちが動く。だからこそ第15話のようなショッキングなシーンもあるものの、大人・子供誰が見ても感動できるストーリーとなっている。
監督を樋口真嗣に交代した「島編」は今でもファンの語り草だが、徹底した大人の不在からくる混乱という観点ではそこまで不必要だとは考えない。所々にしっかり伏線も入っているので、「23~34話は全部飛ばしていい」という言説には注意してほしい。
最後に、本作の英語版タイトルは「ブルーウォーターの秘密(The Secret of Blue Water)」である。だが作中では結局ブルーウォーターが何でどのようなものなのかがはっきりと明示されていないところや、ノーチラス号に最大の危機を与えるネオ・アトランティス側の兵器名にU字磁石型の「スーパーキャッチ光線」(元ネタは「ガメラ対宇宙怪獣バイラス」)なんてものを出してしまうあたりに、今にも通ずる監督のほのかな遊び心を感じなくもない。
当時の少年少女たち、大きなお友達を大いに沸かせた本作。良質の冒険活劇、あるいは「エヴァ」の前身として、その完結の前に見ておく価値は確実にある。抜けるような青空に始まる爽やかな名作を存分に楽しんでほしい。
(将来の終わり)
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