【寄稿】狂気のパズルゲーム「The Witness」をクリアして、文字通り“世界の見え方”が変わる体験をした話
ねとらぼ副編集長・池谷による勝手に寄稿(転載)シリーズ。2本目は、これまた現在(12月25日時点)セール中の傑作パズルゲーム「The Witness」をオススメする記事です。
※この記事はねとらぼ副編集長・池谷が個人的に参加しているnote「ゲームライターマガジン」から転載したものです。
最近クリアした「The Witness」(※)というゲームがものすごい傑作だったので、その興奮を忘れないうちにここに書き留めておきます。Outer WildsといいThe Witnessといい、わずか半年ほどの間にマスターピース級のゲームに立て続けに出会ってしまい、若干脳がバグった状態で書いてますが許してくれ……最近口を開けばこのゲームのことばかりツイートしているのも僕の頭がおかしくなっているからです。
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実際のところ、ゲームとしての評価のみならず、あらゆる創作・表現の一つの到達点と言ってしまってもいいと思う。それくらい強烈な体験をしたよ、という話をこれからします。
世界の見え方が変わるゲーム
そもそもなんで4年も前のゲーム(※The Witnessは2016年発売)を今ごろやってんだという話ですが、Outer Wilds以降自分の中で「ナラティブ的なやつ」への関心が再燃していて、その流れで遊んだうちの1本がこれだったというだけです。
もともとこの作者の前作(Braid)が大好きで、The Witnessも発売後すぐに買ってはいたんだけど、ちょっと触った程度では面白さが分からず(あとパズルが難解すぎて)そのまま積んじゃってたんですよね……。
――で、クリア後の率直な感想を言うと、自分的には生涯ベスト5に入るレベルの大傑作だった。実はクリアしたのはもう1カ月くらい前なんだけど、今でも気付くとこのゲームのことを考えてしまっていて、「クリア後もこんなに一つのゲームについて考え続けている」というのは、自分としてはちょっと味わったことのない体験だった。特に「後遺症」の大きさで言えばOuter Wilds以上だと思う。
何がそこまですごかったのか。
一言で言うと、
クリアする前と後で、確実に自分の中の「何か」が変わる
――というところだと思うんですよね。「脳に変容をもたらすゲーム」というか、もっとハッキリ言ってしまうと、このゲームをクリアすると、目に見える現実の景色が変わる。
一つ例を挙げると、The Witnessをクリアした人にこういう写真を見せると、半分くらいの人は「ウワアアアアア!!!!」ってなって死にます。
あるいはこれとか。(汚染度★★★)
こんなんとかも。(汚染度★★★★★★)
いや、さすがに3枚目はだいぶ症状が進んでると思いますが、普通の人は「見えない」のが正常なので安心してください。もし「見えて」しまったなら……ご愁傷様です。
テトリスにハマった人が高層ビルの谷間にブロックの幻を見るように、「あれを意図的に引き起こそうとしたらどうなるか」というのがこのゲームの1つのテーマだと自分は感じた。「いやそれただのミーム汚染やん」と言われそうだけど、それだけではないと思う。ゲームというか、もはや一種の社会実験、あるいはインスタレーションと言ってもいいのかもしれない。
言葉による一切の説明を省いた「オープンワールド+一筆書きパズル」
順番がだいぶ前後してしまったけど、ゲーム内容についてもちゃんと説明しておきます。
「The Witness」は、「Braid」の作者、ジョナサン・ブローが2016年にリリースした作品。現在はPS4、Xbox One、PC(Steam / Epic)、スマートフォン(iOS / Android)と、けっこういろんなハードで遊べます。ちなみに過去、PS PlusとEpicでは無料配布されたこともあるので、小まめにチェックしている人ならライブラリに入っているかも。
ゲーム内容はざっくり言えば「オープンワールド+パズル+脱出ゲーム」。プレイヤーは自分が誰なのか、ここがどこなのかも分からないまま謎の孤島に放っぽり出され、島内をさまよい歩きながら、あちこちに置かれたパズルや仕掛けを解いていきます。以下はSteamのゲーム紹介文。
目が覚めてみると、あなたはたった独りで謎に満ちた奇妙な島にいます。驚きと挑戦が待ちうける島に。
自分が誰なのか、どうしてここにいるのかも分からないまま、あなたは探検を始めます。謎解きの手掛かりを見つけ、記憶を呼び起こし、無事に家に帰れることを願いながら。
ユニークなのは、言葉や文字による説明は一切なく、ストーリーはもちろん、パズルの解き方のルールですらプレイヤーが自分自身で見つけなければならないこと。パズルは基本的に全部「一筆書き」がベースになっていて、エリアごとに新しいルールが追加されていき、どんどん複雑になっていく。
簡単なパズルから順番に解いていくことで自然にルールが理解できる場合もあるし、時にはパズルの「外」にある景色(木の枝とか)が重要なヒントになっていることもある。パズル自体の難易度はかなり高く、遊んでいるとわりと頻繁に詰まるので、プレイヤーはやがて周囲のあらゆるものに目を光らせ、全てがパズルの手掛かりなんじゃないかと疑うようになっていく。一部では「難しすぎる」「難しいというより苦行」といった声もあるけど、恐らくこれも「全てが疑わしい状態」へプレイヤーを追い込むための仕掛けの一部なんだろうと思う。
ナチュラルに人を狂わせるゲーム
で、ゲームとしてはひたすらパズルを解いていけば一応のクリアにはたどり着けるんだけど、それだけではこのゲームは終わらない。取りあえずのエンディングを迎えても「プレイヤーは誰で、この島はなんなのか」「そもそもこのゲームは一体何なのか」といった大きな謎は残る。
明確なストーリーやテキストこそないものの、手掛かりになりそうなものは島のあちこちに転がっている。語り口としてはいわゆる「環境ストーリーテリング」というやつですね。大きなものでは、廃墟となった町とか、放置された人工物、砂漠の遺跡……小さなものだと、なぜか屋外に放置されているクッションとか、カード、コップといった小物、あとは「意味深な石像」とか「角度を変えると人間に見える木」とか、それこそ枚挙にいとまがないほど。唯一の文字(音声)情報として、島のあちこちに置かれたオーディオログを見つけると、アインシュタインや莊子といった偉人たちの言葉が再生できるんだけど、これも意味があるんだかないんだかよく分からない。
一ついえるのは、この自然豊かで美しい孤島は、明らかに「何かの目的」があって作られているということだ。しかし、一体誰が、何のためにこんな島を作ったというのか。
見かたによっては全部が怪しく見えるし、もしかしたら本当に何の意味もない、単なる雰囲気作りのオブジェなのかもしれない。困ったことに、中には本当にパズルの役に立つ(あるいはそれ自体がパズルになっている)ものもあったりするから余計に紛らわしい。「どうせ意味なんてないんでしょ」と思いつつ、疑うことをやめるわけにもいかない。途中、もしかしたらこのゲームには意味とかストーリーなんてものはそもそも存在せず、「人間はすぐ意味がないものに意味を見出だそうとしてしまう」というのがこのゲームのテーマなんじゃないかとさえ思ってしまった。
こういう環境に長時間さらされると人間はどうなるのか。一言で言うと、頭がおかしくなります。いやマジで。人間、「意味がありそうでない情報」と「一見無意味そうに見えて実は意味がある情報」をごちゃまぜにして大量に浴びせられると、ガチで何を信じたらいいか分からなくなるんですよ……オエエッッ!!(思い出し嘔吐)
で、この病状がさらに進んでいくと、現実に戻っても至るところに「○と|」を見いだしてしまうWitness廃人が出来上がるわけです。最後まで遊んだ人なら分かると思うけど、これが「意図的にそうなるように作られている」のは明らかで(ゲーム内でもそういう描写がはっきりとある)、自分の場合「汚染度」で言うとテトリスなんかよりもはるかにヤバかった。
実は全部がちゃんとつながっていたという感動
さて。
結局のところ、そこまでしてこのゲームが描こうとしたものは何だったのだろう。
さっきも書いた通り、途中までは半分本気で「人間はすぐ意味がないものに意味を見出だそうとしてしまう」というのがテーマなんじゃないか、あるいは「意味がありそうでない情報と一見無意味そうに見えて実は意味がある情報を混ぜて与えると人間はおかしくなる」という社会実験なんじゃないか――とまで思っていたんだけど、クリア後、ゲーム内のあるメッセージを見て「これが答えだったのか!」と急に目の前が開けたような気がした。
これか。これが最後のピースか!!!!!!
ここからはあくまで僕の考え・解釈ではあるけれど、多少のネタバレも含まれるので、見たくない人はここでブラウザバックして、とっとと自分で遊びましょう。
――――― 以下ちょっとだけネタバレ注意 ―――――
そのメッセージとは、「LOOM」などで知られるゲームクリエイター、ブライアン・モリアーティによる2002年のGame Debelopers Conference(GDC)講演「詩篇46篇の謎(The Secret of Psalm 46)」だった。元の講演は1時間近くあるんだけど、なんとゲーム内のある場所に行くと、まるっと全部聞くことができてしまう。
ここでは詳しい内容は書かないが、これ、単純に講演としてめちゃくちゃ面白いので、気になった人はぜひここまでたどり着いて、自分の耳で聞いてみてほしい(なお、かなりゲームをやり込まないと見られない)。
自分はこれを聞いて、これまでゲーム内で見てきたこと、偉人たちの言葉、意味深なオブジェ、現実世界に戻ってもちらつくパズルの断片――全ての要素がようやく全部つながったと感じた。「これこそがこのゲームのテーマだったのか!」と感動し、同時にそこから逆算するような形で、今まで拾ってきた偉人たちのオーディオログも、実は全て同じことについて語っていたんだ、ということに気が付いた。
カンのいい人ならもっと早い段階で気付けたと思うんだけど、自分にとってはこの「詩篇46篇の謎」がテーマ説明として最も分かりやすかった。クレジットを見ると、テストプレイヤーの中にちゃんとブライアン・モリアーティの名前が入っていて、その点からもこのメッセージが他とは一線を画していることがうかがえる。
では、そのテーマとは何だったのか。あえてはっきりとは書かないが、それは科学のことかもしれないし、この世界の法則、あるいは宇宙や宗教、神、禅、哲学といったもののことかもしれない。それらは全然違うもののように見えて実はつながっていて、たった1つのことを、こんなにもいろんな人がいろんな視点から語っている――ということ自体が既にこのゲームのメッセージの一部なのだろう。この世には本当に奇跡のような偶然があって、それは本当に奇跡なのかもしれないし、本当にただの偶然なのかもしれない。
ネタバレついでにちょっと余談。自分がこのゲームで一つだけ後悔しているのが、トロコンまで遊んだところである程度満足してしまい、チラッと攻略を見てしまったことだった。自分はあの終わり方でもちゃんとオチは付いていると思うけど、これから遊ぶ人は、ゲームの説明文をよく覚えておいてほしい。
“自分が誰なのか、どうしてここにいるのかも分からないまま、あなたは探検を始めます。謎解きの手掛かりを見つけ、記憶を呼び起こし、無事に家に帰れることを願いながら――”
このゲーム、ストーリーらしいストーリーはほとんどなく、確かにジャンルとしてはOuter Wildsのような「アドベンチャー」よりも、純粋な「パズル」に限りなく近い。でも、説明文には「記憶を呼び起こし」「無事に家に帰れることを願い」とある。ここまでにたどってきた道筋で、それは果たされていただろうか……?
「半信半疑」を楽しめば、目に見える世界はきっと変わる
僕が好きな言葉に「半信半疑」というのがある。TBSラジオ「東京ポッド許可局」で、プチ鹿島さん(@pkashima)が言っていた言葉だ。
森達也さんの本『オカルト』を読んで、思うところがある鹿島局員。
鹿島局員のモットーは、半信半疑。
全てを信用したらオカルトを超えてカルトに、全てを否定したら味気ない。
半分信じて、半分疑うドキドキ感が大事。
(東京ポッド許可局 2013年6月1日 第9回)
一種の職業病のようなもので、ネットの仕事に長く関わっていると、どんな情報もまずは疑ってみるようになってしまう。いやいやそれじゃつまんないでしょ。半分信じるくらいが面白いんだよ――。そう思うようになったら、いろんなことがちょっと楽しくなった。
このゲームをクリアした人がよく言う「あらゆる○と|がパズルに見える」というのは恐らく、本当のテーマへ至るための過程でしかなくて、作者が描きたかったのはきっとその先にあるのだろう。言葉にしてしまえばなんてことはない、でも、このゲームを最後まで見届けた人なら、既に身をもってそれを体験し、誰よりも深く理解しているはずだ。
目となる者(The Witness)がほんのちょっと視点をずらすだけで、世界はいかようにも変わって見える。
これからも現実世界で「○と|」を見つけるたびに、このゲームのことを思い出すだろう。
The Witness、傑作だった。
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