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大統領「われわれは戦争中だ」 コロナ禍で様変わりしていくフランス――日本人留学生が漫画で描く2020年春の記憶

ついに、外出制限開始。

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 2020年3月、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行が原因で、多くの留学プログラムが中止になり、緊急帰国を余儀なくされた学生が続々と日本に帰ってきました。

 かくいう私もその1人。帰国直後は、念願の留学がこんな形で終わってしまったことがショックで、なかなか筆が進まなかったのですが、ようやく当時を振り返ることができるようになってきました。

 この連載では、マンガと文章で、フランス・リヨンでのコロナ流行当初の雰囲気や、帰国までの流れをお伝えします。

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前回の記事はこちら

書いた人:SONO

 1995年生まれ。漫画家。

 キリスト教、歴史を題材にした漫画を執筆している。著作に『教派擬人化漫画 ピューリたん』(キリスト新聞社)がある。

Twitter:@0164288

外出制限(コンフィヌモン)の開始  

 3月16日、午後8時。フランスの大統領マクロン氏が、テレビ中継で新型コロナウィルス対策について演説を行いました。私の寮にはテレビがなく、フランス語の聞き取りにも自信がなかったので、フランス人の友達の部屋でこれを聞くことにしました。

 マクロン氏と内務大臣カスタネール氏は、コロナ流行の状況や対策についてさまざまな説明をしましたが、話題の中心は「外出制限(コンフィヌモン)」の実施についてでした。

 基本的には外出や移動を控えること。例外として許可されるのは、生きていくための最低限の外出のみ。例えば、(1)テレワークできない職場への出勤、(2)生活必需品の買い物、(3)医療業務、(4)子どもの保育・脆弱な人の支援、(5)人間やペットの健康維持の運動、など。

 外出時には自筆でサインした「外出証明書」を携帯すること、警察と憲兵隊による検問を行い違反者には38ユーロの罰金を課すことなど、外出する際のルールも定められました。外出制限期間は最低15日間で、感染拡大が続けば延期もありうるとのことでした。

 マクロン氏は「われわれは(ウイルスとの)戦争中なのだ」という合言葉を繰り返していました。言われてみれば、確かにこのものものしい雰囲気は開戦前夜のようです。学生はほとんどが母国や実家に帰ってしまい、大学も寮も人気がない。外出制限はまるで戒厳令。第二次世界大戦の直前にヨーロッパに留学していた人は、こんな空気を味わっていたのかな……。

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家族とのLINE

 外出制限が開始された3月17日。日本の外務省は「全世界」を「感染症危険レベル1」に引き上げました。ここにはもちろん、日本も含まれます。

 いま、フランスから日本へ帰国したところで、危機レベル2の地域からレベル1の地域に帰るだけ。しかも、帰国後は「自宅など」での自主待機が求められる。実家に帰って家族に感染させる可能性があるなら、このままフランスで寮に閉じこもってる方がマシ!……当時の私は、そう考えていました。

 日本へ帰国後、実家へ戻らずに、ウィークリーマンションやホテルで2週間の自主隔離期間を過ごすという案もあったのですが、その費用は決して安くはありません。外出制限が始まったいま、公共交通機関で空港まで行き、パリの空港で乗り継ぎを行うというリスクを犯して帰国し、ウィークリーマンションへ……? 私には、それは無駄なリスクと無駄な出費だとしか思えませんでした。

外出制限下のフランス

 外出制限2日め(3月18日)、スーパーへ食材の買い出しに行きました。プリンターがないので、「外出許可書」は公開されているフォーマットに沿って手書きしました。書類を握りしめ、やや緊張しつつスーパーへ向かいます。

 ところがその道中、私が目撃したのは、「運動」のつもりでのんびりお散歩する人々……集合住宅の窓から爆音の音楽を流してパーティーしている人々……。さすがに住宅街は静まり返っていたのですが、普段から人々の憩いの場であるローヌ川沿いは、ずいぶん賑やかだったようです。案の定、翌日には川沿いに進入禁止のバリケードが張られることになりました。

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 パリなどの他の都市も同じような状況だったらしく、大統領はふたたび演説を行い、感染防止対策の重要性を強く訴えました。

 一方で、このころから本格的に「新しい生活様式」が導入されはじめました。スーパーでは入場人数の制限がかかり、店の外には長蛇の列が。店内放送では「社会的距離(ディスタンス・ソシアル)」が呼びかけられ、店員さんはマスクに手袋といういでたちになりました。行列に並ぶのも、マスクや手袋をするのも、フランスではかなり珍しい光景で面食らってしまいました。

運命の電話

 3月20日、早朝。指導教官への近況報告の通話を終えたところに、またLINE電話がかかってきました。表示を見ると、母親から。

 母とはおととい電話で話したばっかりなのに、どうしたんだろう? 私が外出できなくて退屈しているだろうから、おしゃべりに付き合ってくれるのかな? と、はじめは能天気にかまえていました。しかし電話に出てみると、母の声はいつもとは違う真剣なトーンだったのです。

「いま、時間大丈夫?」

「いいよ、どうしたの?(むしゃむしゃ)」

「……え、もしかして何か食べてる?」

「うん、りんご。これ朝ごはん」

「……ホントに、帰国する気ないんだね」

「えっ? それ、どういう意味……??」

 このわずか数十分の電話で私の運命が変わってしまうなんて、このときの私は知るよしもなく……。

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 なんだか雲行きが怪しくなってきました。私は無事にフランスで留学を続けられるのか? そして、健康に外出制限令を乗り切れるのか!? 次回へ続きます。

第5回に続く

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