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2020年3月、シャルル・ド・ゴール空港は廃墟のように静かだった コロナ禍に緊急帰国した留学生が漫画でつづる“あの頃”の記憶

ついに日本へ帰国。

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 2020年3月。フランスに留学中だった筆者は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミックに直面。大学が休校になり、留学プログラムも中止になってしまいます。

 急きょ日本に帰国することを決断し、1日半でむりやり荷造りと部屋の片付けを終わらせた筆者。60キロ超の荷物を抱え、無事に日本へたどり着くことができるのでしょうか? 全7回の連載完結編です。

前回の記事はこちら

書いた人:SONO

 1995年生まれ。漫画家。

 キリスト教、歴史を題材にした漫画を執筆している。著作に『教派擬人化漫画 ピューリたん』(キリスト新聞社)がある。

Twitter:@0164288

退寮手続き

 徹夜作業のおかげで、見違えるほどきれいになった私のお部屋(元・汚部屋)。「もしかして入居した時よりきれいなんじゃないか…!? 寮の人、はやくチェックして! そして褒めて!」と期待しつつ、退寮手続きのために受付へ。すると、その思いに反して「帰国するんですね。じゃあこの書類に記入して。出て行く時、鍵だけ返却してください」と、めちゃくちゃアッサリした対応を受けました。

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 恐らく、緊急事態のため手続きが簡略化されていたのでしょう。外出制限のため、寮の運営側も清掃や受付業務を縮小しはじめているという情報もありました。せっかく気合いを入れて掃除したのに……。

 カギを返却後、近くの学生寮に住んでいるフランス人友人宅へ。お別れにプレゼントを交換しました。その際に、教会に返しそびれたゴスペルクラブのローブを預け、外出制限が終わったら返却してもらうようにお願いしました。快く引き受けてくれた友人に感謝です。

さようなら、フランス

 友人宅を出発し、いよいよリヨン・サン=テグジュペリ空港へ向かいます。まず、地下鉄(メトロ)で国鉄の中心駅「パール・デュー」へ。そこから、路面電車の特急号「ローヌエクスプレス」に乗ります。

 正直、帰国までの過程で一番過酷だったのは、この寮からリヨン空港までの道のりです。両手に23キロのスーツケース2つ、今にも破けそうなパンパンの紙袋、背中には15キロ以上詰め込まれたリュックサック。総重量60キロ以上の荷物を抱え、電車を乗り継ぐのはものすごくハードでした。

 普段のフランスならば、重い荷物を持って行動していると駅員さんや通行人が手伝ってくれることが多いのですが、パンデミック下では駅員さんもソーシャルディスタンスを保って行動しており、通行人はそもそもおらず……。ヨタヨタと空港までたどりつき、飛行機の席に座った時には疲労が限界に達しており、「さようなら、リヨン」などと感慨を持つ余裕もないまま、気を失うように眠っていました。

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 眠っている間に、いつの間にかパリに到着。シャルル・ド・ゴール空港は、今までに見たことがないほど静まり返っていました。普段はにぎやかな免税店やカフェ、レストランも、全面的に閉鎖されています。人通りもほとんどありません。「もしここで倒れたら、発見されるまで時間がかかるだろうな~」という不穏な妄想とともに、日本行きの飛行機の搭乗口へ向かいます。

 この日の帰国便の搭乗者は、わずか十数名のみ。普段は狭くて苦痛な3席連結シートも、両隣が空席なのでのびのびと使うことができました。心配していた「飛行機内の3密」も避けられ、間違いなく人生で一番快適なフライトだったといえるでしょう。

日本に着いたけど……

 日本に着いてまず驚いたのは、検疫の簡単さ。新型コロナのPCR検査を受け、結果が出るまで数時間待たされると覚悟していたのですが、実際には、検査が義務付けられているのは「体調不良の人」「感染症危機レベル3に達した指定地域に滞在歴がある人」など、特定の条件に当てはまる人だけでした。私が滞在していたフランスとスイスのフランス語圏は指定地域ではなく、簡単な質問票に記入・サインするだけで解放されました。

 次に驚いたのは、人の多さ。空港でも全てのお店が営業を続けていて、マスクをつけた人々が集まっています。この時期、日本ではまだ緊急事態宣言が出されていなかったので、当たり前なのですが……。外出制限令下のフランスの、廃墟のような静かな街を見た後では、そのにぎやかさに衝撃を受けました。

 空港から自主隔離先までの移動は「公共交通機関を避けて」という指示があったので、父が自家用車で迎えにきてくれました。ただこれはとても幸運なケースで、同時期に緊急帰国した留学生の中には、公共交通機関を使わないと自宅に帰れない人も多く、空港近くのホテルで自主隔離の2週間を過ごすケースもあったようです。

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 なにはともあれ、予約しておいたウイークリーマンションへたどり着き、特に症状は出ないまま、隔離期間の2週間を過ごしました。

おわりに

 この記事を執筆するにあたり当時を振り返ってみると、当時の自分自身の考えの甘さや、楽観的すぎる姿勢に驚かされます。それでも、そのときの自分は、限られた情報の中で自分なりに考え、善き行動をしているつもりだったのです。あれから1年以上たち、「今の自分ならこんな行動はしない」という私は、すっかり「アフターコロナの私」であることを実感します。それだけ、コロナウイルスが人を変え、世界を変えたということでしょう。

 この4コマ日記連載は、今回で最終回。筆者の身の丈レベルの生活描写ばかりで、当時のヨーロッパ・フランス情勢を知りたい人にはあまり役に立たなかったかもしれません。でも、私は「私の目線を通した世界」を記録に留めておきたかったのです。最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。

これまでの「帰国日記」

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