ニュース

「グッバイ、ドン・グリーズ!」レビュー 「よりもい」ファンの期待に応えた“疎外感”に向き合う傑作アニメ映画(2/3 ページ)

和製「スタンド・バイ・ミー」であり、その先の飛躍もあった。

advertisement

 この魅力は今回の「グッバイ、ドン・グリーズ!」にもしっかり引き継がれている。キャラクターが個性的なのはもちろん、前述したように誰も経験しないような冒険を通じて、実は誰もが持つ悩みが描かれていることもそうだ。さらには、「遠い場所や時間に想いを馳せる」ことも共通していたのだから。

(C) Goodbye,DonGlees Partners

 「よりもい」にあった、少女たちが過去に起こった、避けられなかった悲劇について、どのように向き合い、そして歩み出したのか……その過程および結末にある、かけがえのない「友情」、はたまた「出会い」そのもの、さらには全ての人を祝福するような物語の精神性は、「グッバイ、ドン・グリーズ!」にも完全に通じている。

 「グッバイ、ドン・グリーズ!」の劇中のメッセージはてらいがなく、なんなら少し説教くさくもあったりするのだが、その「ど直球」ともいえる優しさこそが、「グッバイ、ドン・グリーズ!」の最大の美点。しかも、歯が浮くようなセリフに対して「お前、実はモテるだろ」となじったり、語られた奇妙な体験について「なんだよ、そのファンタジー」と返すなど、照れ臭さや現実離れした出来事そのものを、くだけたセリフで飲み込みやすくしているのも上手いところだ。

advertisement
(C) Goodbye,DonGlees Partners

男女問わず共感できるポイント

 「グッバイ、ドン・グリーズ!」が「よりもい」と異なるのは、言うまでもなく男の子たちを主人公としたこと。いしづか監督によると「私の目から見ると、男の子同士がバカやっている姿ってうらやましさもあって、そんなところをちょいちょい入れたい」という意向もあったそうだ。例えば序盤で主人公たちがやる「イタズラ」は、男の子がおそらくは一度はやってみたいと思うことだろう。

 さらに、いしづか監督は「グッバイ、ドン・グリーズ!」における男女問わず共感できるかもしれないポイントとして「誰もが仲間といるときははしゃいでいるけど、クラス全員が揃っちゃうと意外と居場所がないような気がした」とも語っている。

(C) Goodbye,DonGlees Partners

 こうした疎外感が、誰もが持つ普遍的なものだからこそ、その悩みに寄り添いたいといういしづか監督の気概が、作品内から伝わってきた。劇中の主人公たちの「わちゃわちゃ」が本当に楽しそうだからこそ、それと相対する疎外感が切実に伝わるようにもなっていたのだ。

 あえて気になったことを指摘するならば、終盤の展開に「情報」が欠けていると感じた点だ。ネタバレになるので詳しくは書けないのだが、おそらく誰もが気になることが、明確にならないまま、物語が結末まで進んでしまうのだ。これは観客に想像をしてしてもらうためであり、情報を限定しないことで、普遍的な物語としての強みが増しているとも言えるのだが、どちらかと言えば「あれはどういうこと?」というモヤモヤが感動を損ねてしまいかねない、もったいなさのほうが際立ってしまっている。

 そんな欠点もあるものの、「グッバイ、ドン・グリーズ!」はオリジナルのアニメ映画として堅実に作られた、95分という短い上映時間とは思えないほどに充実している、人によっては一生の宝物になるかもしれない、優れた作品だ。コロナ禍でどこかへ出掛けることが難しい今だからこそ、彼らの一度きりの冒険の物語が、より尊いものに思えてくることだろう。ひとりでも、多くの人に見てほしい。

advertisement

ヒナタカ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

記事ランキング

  1. 「大物すぎ」「うそだろ」 活動中だった“美少女新人VTuber”の「衝撃的な正体」が判明 「想像の斜め上を行く正体」
  2. 猫だと思って保護→2年後…… すっかり“別の生き物”に成長した元ボス猫に「フォルムが本当に可愛い」「抱きしめたい」
  3. 川で拾った普通の石ころ→磨いたら……? まさかの“正体”にびっくり「間違いなく価値がある」「別の惑星を見ているよう」【米】
  4. 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  5. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  6. 中村雅俊と五十嵐淳子の三女・里砂、2年間乗る“ピッカピカな愛車”との2ショを初公開 2023年には小型船舶免許1級を取得
  7. 「壊れてんじゃね?」 ハードオフで買った110円のジャンク品→家で試したら…… “まさかの結果”に思わず仰天
  8. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  9. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  10. なんと「身長差152センチ」 “世界一背が低い”30歳俳優&“世界一背が高い”27歳女性が奇跡の初対面<海外>