とらのあな「ほぼ全店閉店」衝撃発表の理由とは? 店舗事業撤退の裏側を聞いてみた(2/2 ページ)
「とらのあなといえば同人ショップ」のイメージからは変わっていきそう。
委託サークルもユーザーも女性が8割を占める、とらのあなの現状
──そんな中で、池袋店のみ拠点を残したのはなぜでしょうか?
これは単純に、この拠点だけしっかり採算が取れていたからです。
──以前に話をうかがった際、「女性ユーザーの通販利用が伸びている」とおっしゃっていました。なので、女性ユーザーが多いであろう池袋店で採算がとれているというのはちょっと意外なのですが……。
おっしゃる通り、通販の女性ユーザーは増加傾向にありますし、池袋店は女性向けメインの店舗です。なので、「女性向けは通販、実店舗とも伸びている」という状況ですね。女性向け同人誌に関しては、サークル様から預かっている同人誌の数も伸びています。男性向け同人誌の取り扱いをやめているわけではないですし、通販では現在も両方継続して扱っています。そうでありながら、比率的には女性向けの方が増えているというのが現状です。
──そんなに女性向けが伸びているんですか……! とらのあなというと基本的には男性向けの同人誌ショップという印象でした。
店舗では男性向けの取り扱いが多かったので、その印象で間違っていないと思います。ただ、数字の面ではかなり差がありました。最近急にそうなったわけではなく、2011年以降くらいから徐々に女性向けの比率が高まっていって、2018年くらいからは反転しています。取り扱いサークルに関しても、また販売数に関しても現在は80%くらいが女性向けです。非常にありがたいことではありますね。
──80%ですか! そんなに差が……。そこまで女性向けで売り上げが出ているなら、閉店せずに全店を女性向けにするという方向でのリニューアルも考えられそうですが。
そういった議論もなかったわけではないんですが、実際のところ「池袋ならでは」という地域特性みたいなところが強いんです。実際、秋葉原の店舗を「秋葉原店B」という形で女性向け店舗にしたこともあるし、他の拠点でも女性向け同人誌は取り扱っているんですが、やっぱり進捗率、来店率に関して池袋店のみが結果を残している。街全体の集客の効率だったりとか、利用するお客様の客層だったりという点がニーズに合致していないと、来店までの道のりは遠くなるのかなという認識です。
「同人誌ショップ」のイメージから変化しつつあるとらのあな
──店舗がなくなると今後とらのあなは大丈夫なのかな、という疑問もあるんですが、現状虎の穴の親会社であるユメノソラホールディングスの収益の柱はどこなんでしょうか?
現在のメイン事業として大きな位置を占めているのは、やはりとらのあなです。それに続くのがゲーム会社のアクアプラス、あとは(婚活サービスの)「とら婚」ですね。一番収益が大きいのはとらのあなの通販事業で、次がファンティア。とらのあなの収益で言うと、通販が65~70%くらいで、ファンティアが35~30%くらいというイメージです。
──とら婚は堅調なんでしょうか?
とら婚はとらのあなとは独立した子会社でやっている事業ですが、成婚者数はすでに800人を超えていて、2022年か2023年度には1000人に届きそうです。収益ではなく成長率としては、とらのあなよりもファンティアやとら婚のほうが高い状態ですね。店舗を閉めた影響は当然あると思いますが、これら別事業のお客様が増えているという印象はあります。
──同人誌販売以外の事業の方がよく伸びているんですね。
そうですね。そういった状況を受けて、より営業方針のシフトを強化していくために今回の決定に至ったところもあります。ファンティア事業も、まだこれから新しいサービスを展開していこうと思っています。
──それでも、同人誌などの通販が収益の柱であるのは当面変わらないと思うんですが、そちらに関しては今後どのような変化があるんでしょうか?
通販に関しても、利便性を高めていくためには新しいサービスの強化やシステム部分の改修を引き続き行っていかなくてはならないと思っています。ひとまず今回の閉店を受けて、通販の方で「店舗が近くになくなってしまう」というお客様に対してフォローアップできるような施策を継続的にやっていく予定です。以降もお客様にご好評をいただけるようなキャンペーンや、よりクリエイターとお客様をつないでいくような流れを作っていきたいですし、採算の厳しい店舗を閉店したのはそのような流れを作る投資を進めるためでもあります。
──通販を強化しようと思うと、ロジスティクス的な面の強化も必要かと思います。
そういった面で言えば、自社物流の拠点があるのは弊社の特徴だと思います。現在だと市川(千葉)に5500坪ほどの拠点を設けて、そこに同人誌や商業誌をお預かりして販売しています。この物流に関しても、より早くお客様に商品を届けるための改善を進めています。
──具体的には、どういった点についての改善になるんでしょうか?
重要なのは入荷から発送までのストローク(工程期間)の短縮ですね。扱っているのが同人誌なので、イベントの時期によって商品の入荷と注文の件数がどうしても集中するんです。こういった繁忙期での発送までのストロークを可能な限り短くしたいんですが、大量に物が入ってくる時期には発送まで時間がかかって、お客様をお待たせすることになってしまいます。
──コミケの時期などは商品が入ってくる数と出ていく数が膨大になって、結果的に何もかもに時間がかかってしまうわけですか……。
これは通販を強化していく上では非常に問題です。このストロークを短くするために今後は機械投資を進めますし、多拠点化も含めて物流倉庫のありかたも更新するつもりです。取り扱い件数が増えた状態でストロークを短くしようとすると、倉庫の面積は必須ですから。通販の強化という意味では、通販のフロントのサービスやシステムと、物流を両輪として進めなくてはならないと思っています。
──以前のインタビューでは、今後秋葉原などにサイン会やイベントができるスペースも設けるとうかがいましたが。
そうですね。イラスト展を展開できるような催事スペースを、9月にはオープンする予定です。以前のような店舗形態ではありませんが、クリエイターや作品を紹介するスペースとして、ギャラリーのようなショップは継続しようと準備を進めています。あと、inshop形式の拠点も今後増やす予定です。
──書店などの一角をとらのあなの棚にして、そこで商品を販売する形式の店舗ですね。
「とらのあな出張所」という名前でやっています。我々の店舗事業はどうしても都市部に集中していたところがあるので、そこ以外でもクリエイターの作品を提供できるようにして、お客様とのコンタクトポイントを増やしていきたい。今までやってきた店舗事業のノウハウを生かして、お役に立てることをやっていこうと。
──今うかがったような事業にリソースを割くための店舗閉店……というのは分かるんですが、また店舗を再開することはないんでしょうか?
今後これらの事業を継続する中で、店舗が今一度必要になるタイミングが一切ないかというとそうではないと思っています。現状の通販やファンティアなどの事業への投資をしっかりして、もう一段我々にできることが増えたら、ショップに関してはあらためて考えようというのが我々の意志です。今後状況が変わったらまた店舗をやる可能性はありますし、実際秋葉原は動きが早い都市ですから。秋葉原以外の店舗はもう二度とやらないかというとそうでもないんですが、まずはやっぱり28年間やってきた秋葉原を中心に考えようということで、情報の収集と検討を進めようと思っています。
──今後二度と店舗をやるつもりがないというわけではなく、あくまで状況次第なわけですね。店舗がなくなるのが寂しい人もいたと思うんですが、今後店舗営業を再開する可能性もあると。
実際に反響としても、以前使っていたから寂しいというお声や、せめて秋葉原は残してほしいという意見もいただいております。これからどうなるかご心配いただくこともありました。事業体としてはこの3年でかなり中身が変化しているというところがあるので、経営面ではご心配ありませんという返答をしています。ただ、寂しいというのは我々としても答えが出ないですし、内部でもそういった声はあります。
──「とらのあな」といえば、あの店舗の空気感というイメージは強いですもんね。
「とらのあな」「秋葉原」「店舗」というキーワードは非常に大きかったので、それがなくなることによってとらのあなの印象は当然変わっていくと思います。「実店舗で同人誌を買えるショップ」というイメージからはひとまず脱却せざるを得ないですが、我々としては新しいブランディングとして、今後の事業の形を押し出していければと思っています。
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