好きな作家の作品でアンソロジーを編める企画が「最高」「需要ありすぎる」と話題 販売元に始めたきっかけを聞いた(2/4 ページ)
編集部でも実際に購入して、オリジナルのアンソロジーを作成しました。
「専門家の“特権”だった短編集を大衆へと解放する」という理念
2022年3月から都内の書店で先行販売が始まった「ポケットアンソロジー」ですが、その構想自体は大槻さんが駆け出しの編集部員だったころからあったそうです。しかし、大槻さんが編集者になった80年代後半には、すでに短編より長編を優先する流れがあり、独立した短編小説を発表する機会は少なくなっていました。
短編小説には「詩と散文の面白さが両方詰まっている」との思いを持つ大槻さんは、その当時から日本近代文学が育んできた短編小説の土壌を復興させたいと考えていたといいます。
そんな短編小説への情熱を長年熟成させたのち生まれたのが「ポケットアンソロジー」でした。それまで編集者や作家、評論家といった専門家の“特権”だったアンソロジーの編さんを大衆に解放するという理念のもとに開発されたこの商品は、現在SNSを通じてまたたく間に拡散され、大きな反響を呼んでいます。
実際の反響について尋ねると、大槻さんは次のように回答しました。
大槻さん: 今年(2022年)の3月から都内を中心に数店舗で先行販売を行ったのですが、ダントツで紀伊国屋書店新宿本店さんに、次いでジュンク堂書店池袋店さんに売っていただきました。店頭でポケットアンソロジーを手に取ったお客様から、まず熱烈なツイートをいただいたのですが、中心のファン層はこちらが想定していた以上に若く、20代から30代の女性でした。コレクター心と作品ファイルをとじていくという手作業感が受けたこともありますが、最大の要因は『アンソロジーを編む』、つまり“本を自分流にカスタマイズできる”という点にあるのではないかと思います。
「今後は現役作家の作品も追加する予定」
「ポケットアンソロジー」のラインアップを見ると、現代よりも近代の作品が多く見られます。著作権が切れた「パブリックドメイン」を中心に扱っているというのが1つの理由ですが、作品の選定基準にはこだわりがあると大槻さんは語ります。
それは「文学史上大切なもの、あるいは現代ではなかなか手に入れにくいもの(全集には入っているけれど、単行本では読めないものなど)」を優先しているということ。田畑書店と関係の深い近代文学研究者からアドバイスをもらいながら、重要だと思われるものを選定しているのだそうです。
ただ、今後はひと月に10点から20点ほどアイテムを増やしながら、文芸誌「季刊アンソロジスト」の企画と連動した“著作権の切れていない作家”や“現役作家”の作品の追加も予定しているといいます。
編集部は最後に、「ポケットアンソロジー」構想のきっかけとなった“思い出の1篇”を大槻さんに尋ねました。
大槻さん: 阿部昭の「人生の一日」という作品です。「人生の一日」については、話し始めると長くなるので(笑)、かいつまんで言うと、タイトル通り、ここには人生の全てがあると言ってもいいと思っています。
残念ながら阿部昭の「人生の一日」は、現時点ではまだ「ポケットアンソロジー」には組み込めませんが、今後の追加に期待ですね。
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