映画『ゆるキャン△』インタビュー 監督・京極義昭が語るシリアスシーンを描く覚悟と恐怖(2/2 ページ)
映画制作にかけた思いを聞きました。
『ゆるキャン△』らしからぬシリアスシーンを描く覚悟と恐怖
―― なでしこたちはそれぞれ職に就き、仕事も絡みながらキャンプ作りに勤しんでいくわけですが、これまでの『ゆるキャン△』らしい“ゆるさ”とのバランスはかなり難しかったのではないでしょうか。
京極監督 難しかったですね。働いているとストレスもかかるし、うまくいかないことも多い。そういう葛藤みたいなものをどこまで描くかというのは、かなり気を遣いました。生々しくやってしまえばいくらでもきつい描写はできるんですけど、それをやってしまうと見てる人もつらいだろうし、『ゆるキャン△』の世界観からも外れてしまう。
『ゆるキャン△』って、嫌な人が出てこない作品なんです。特にまわりの大人は、なでしこやリンたちを過保護でも放任でもなく、ちょうどいい距離感で見守ってくれている。だから彼女たちが大人になって働きだしても、まわりにはそういう大人たちが多いんじゃないかと考えました。
映画としては当然、主人公の葛藤みたいものを描くために強いストレスをかけるのは定石なんですけど、やってみるとなんかしっくりこない。だから、やり過ぎないようにとバランスには気を付けました。ここは本当に難しかったです。
―― 物語の中盤では、原作やアニメシリーズでは見られないようなシリアスな展開もありました。よくあるシーンではありますけど、これを『ゆるキャン△』で描くのかと、見ていてとても衝撃を受けました。
京極監督 そうですよね。そこが本当にチャレンジでした。どこまで踏み込んだ見せ方をするべきか、悩みながら作ったんですけど、最終的にはすごくいいシーンになったと思っています。コンテと演出を担当していただいた浅野(景利)さんが、本当に良いものをあげてくださって。
おっしゃる通り、テレビシリーズでは見られないシリアスなシーンですが、彼女たちが大人になり何かをやろうとしたときに起こりうることとしては自然なことだと思うので、逃げずに描写しようと思いました。作っていて、本当に怖かったですけどね(笑)。
―― そのシーンは、音楽も印象的でした。
京極監督 立山(秋航)さんに悲しい音楽をお願いしたことがなかったので、これもチャレンジでした。テレビシリーズみたいな楽しい音楽は合わないし、かといって悲しすぎてもいけない。一番いい塩梅(あんばい)を、何度もやりとりしながら作っていただきました。
―― 過去のインタビューでは、『ゆるキャン△』はチャレンジしていく作品だと語られていました。先ほどからいくつかのチャレンジを語っていただきましたが、一番のチャレンジは何になるのでしょうか。
京極監督 やはり原作の未来を描くことですね。先ほども言ったように賛否両論が必ず起きる道ですけど、『ゆるキャン△』という作品を、もっとたくさんの方に長く楽しんでもらうためには、自分たちが今までに作ってきた作品の魅力や良さみたいなものに固執して、それだけを守るような姿勢ではいけないと思っています。「ファンムービー」を作ればこれまでのファンの方は喜んでくださるかもしれないですが、新しいファンの方に届くかどうかは分からない。深まるかもしれないけど、狭まってしまう気がするんです。
もっとたくさんの人に作品を伝えていくのが、原作を預けていただいている僕らの役割だと思っています。なのであえて作品の枠組みを広げるチャレンジをして、新しい切り口で『ゆるキャン△』の魅力を提示したい。映画化に関してはそれぐらい確固とした意志を持ってやりました。僕らのやれる一番いい道を選んだと思っています。
―― 映画の尺を120分にした理由はありますか?
京極監督 もともとは100分くらいの予定だったんですけど、コンテを描きだしたらどんどん長くなっちゃって。テレビシリーズのときからたいてい脚本よりも長くなってしまうんです。ロケハンを頻繁にやっていくと、魅力的な風景とか食事に出会って、これは出したいこれも大事と、いつもいっぱい盛り込もうとしちゃうんですよね。映画でも脚本上は確かに収まっているのに実際は全然収まらず、声を録ってもらったのに泣く泣くカットしたシーンもありました。申し訳ないと思っていますが、ギリギリ収めた結果の120分なんです。
―― アニメ映画を作りたくて監督という道へ進まれた京極監督にとっては、今回の映画で一つの夢がかなった形になると思います。映画の制作を終えた今、監督が取り組んでみたいことはありますか?
京極監督 テレビシリーズ、映画とやらせていただきましたけど、力不足を痛感する日々でした。もちろん自分たちにしかできない作品を作ってきたという自負もあるんですけど、もっと良い見せ方だとか作り方ができたんじゃないかという、反省点も多かったんです。そういった意味では、さらにでかい企画をやってやろうというよりは、もっと演出家として修行を積みたいという気持ちの方が強いです。
『ゆるキャン△』では、優秀なスタッフたちに恵まれて、本当に助けてもらいました。でも、こんなに良いスタッフがうまくピースがはまるように集まることはそうそうないので、スタッフの力に甘えることなく良い作品を作れるよう、力をつけていきたいと思っています。偉そうにインタビューを受けていますけど、僕がやっていることなんて本当に大したことないんですよ。あの情報量を絵に落とし込むということを、スタッフがどれだけ大変な思いをしてやっているか。いつも本当に感謝しています。
もっとたくさんのお客さんに『ゆるキャン△』の魅力を届けたいと思っていたので、映画をやらせてもらったのは本当にうれしかったです。見られなかった景色を見させてもらいました。この間の舞台挨拶でも、あれだけ多くのお客様が来てくれて本当に幸せでした。もちろん、あfろ先生の原作あってこそですけど、やってきてよかったなって。本当に感謝しています。
(C)あfろ・芳文社/野外活動委員会
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