共通テストの倫理に「親ガチャ」想起させる問題、なぜ出題? 予備校関係者や大学教授に聞く背景(1/3 ページ)
「明らかに『親ガチャ』を意識したものではないか」という声も。
「すごい豪邸…、こんな家に生まれた子どもは運がいいね。不平等だな」――。大学入学共通テストの初日に実施された「倫理」で、「親ガチャ」を想起させるような出題があったとして、SNS上で話題になっています。ねとらぼ編集部では、大学受験予備校で知られる代々木ゼミナール(以下、代ゼミ)らに取材しました。
注目を集めているのは、倫理の第4問「社会的格差における運と努力」をテーマとした出題の1つです。高校生2人が豪邸を前にして繰り広げる、社会的格差をもたらす運や努力の影響についての会話をもとに、問いに答える形式となっています。
この議論では、運と努力が社会的格差に与える影響に対して、高校生2人の意見は明白に対立しています。一言で言うと、運と努力について、生徒Gは家庭環境や文化など“社会の問題”に左右される部分が大きいのではないかと考えているのに対して、生徒Hは結局のところ“個人の問題”に過ぎないのではないかと捉えていると考えられます。
具体的には、生徒Gは「子どもも、家が裕福なおかげでいい教育を受けて、将来お金を稼げるようになったりするでしょ。運の違いが生む格差は、社会が埋め合わせるべきだよ」「例えば、運よく絵の上手な人が漫画家としてお金を稼げるのは、漫画を高く評価する文化が社会にあるおかげでしょ。人の才能も、社会のあり方によって、運よくお金になったり運悪くお金にならなかったりするよ」と指摘。
一方で、生徒Hは「生まれた家とか国とか、個人が選べないもので差があるのは、不平等だとしても変えられないよ。与えられた環境の中で頑張ることが大事だよね」「同じ境遇でも、苦学して立派になる人もいればそうでもない人もいるし…。最終的には、努力は個人の問題ではないかな」などと議論を展開しています。
この問題の出題意図はどこにあると考えられるか。代ゼミの教材研究センター地歴公民研究室と、倫理学の立場から貧困や平等などの課題に取り組む中央学院大学商学部の馬渕浩二教授に取材しました。
代ゼミ「『平等』『公正』な社会を作るために考察させる出題意図か」
――共通テストの倫理では「格差社会における運と努力」というテーマが取り扱われました。SNS上では「親ガチャ」を連想させると話題になっていますが、共通テストではよく出題されるテーマなのか教えてください。
代ゼミ:典型的な出題です。グローバルな規模での格差拡大、遺伝・両親・家庭の経済状況など「運」の要因と本人の「努力」がそれぞれどの程度まで成功に関係するのかというテーマは、倫理に限らず政治・経済や現代社会など公民科目全般で以前から扱われていると言えます。扱われる際には、倫理ではそのテーマをめぐるさまざまな考え方が中心的に問われ、政治・経済ではそのテーマに関する経済統計の読み取りなどが問われやすい傾向にあります。
近年では、2016年の倫理本試験第1問(青年期・心理学分野)でも格差社会をテーマとした問題が取り扱われました。このときは「社会的な成功は家庭環境や遺伝的要素に大きく左右される。たとえ何らかのプロとして活躍する人と同じ素質があっても、家庭の経済状況によって才能を開花させられない場合もあるため、そもそも不平等だ」という切り口から、富の再分配について考えさせる流れになっていました。
――共通テストでは格差社会をテーマとした出題にも前例があったんですね。倫理の授業でもこのようなテーマをよく取り扱うのでしょうか。
代ゼミ:授業でもこのようなテーマは取り扱います。倫理では20世紀後半に活躍したジョン・ロールズやロバート・ノージックといった政治哲学者、また少し前に日本にも紹介され話題になった哲学者マイケル・サンデル(※『これからの「正義」の話をしよう』などで知られるハーバード大学教授)などの思想を扱う学習分野があるため、こういったテーマはめずらしくありません。
――その一方で、今回の出題は「親ガチャ」を連想させると話題になったことから、何かしら世相を反映した意図があったようにも感じます。
代ゼミ:おっしゃるとおり、現代が(グローバルな規模での)「格差」「不平等」「不公平」が広がっている時代であることをまず認識させたうえで、そこから「より『平等』『公正』な社会を作っていくためにはどのようにすれば良いのか」という問題について、倫理学的・政治哲学的な視点で考えさせ、連動して社会保障制度など具体的な対策措置のことなども、当事者意識をもって各人に考察させようとしている、という出題意図があると思います。
共通テストらしく1つのテーマをめぐって複数の読解問題・思考問題が配される構成になっていたので、それらの問題に取り組むなかで、従来よりも深くこのテーマについて受験生が考えざるを得ない状況だったのではないかと考えられます。
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