映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」レビュー 高橋一生の存在感と「怪奇テイスト」の成功(2/3 ページ)
ワトソンっぽい飯豊まりえとの掛け合いも楽しい。
しかし、それはまったくの杞憂。テレビドラマ版「岸辺露伴は動かない」でも脚本を務め、テレビアニメ版「ジョジョの奇妙な冒険」ほか多数のアニメ化作品のシリーズ構成でも強い支持を得る小林靖子が見事にやってくれた。付け加わったシーンの全てが良質な改変であり、「原作を大切にしつつ」「新たな面白さと感動を届ける」映画のための工夫と膨らませ方が素晴らしかったのだ。
例えば、序盤でオークションに参加するのは原作にはない映画のオリジナルシーン。このおかげで岸辺露伴が“黒い絵”にどれだけの執着があるかがより表現されていたし、その後も映画独自のサスペンスが展開していく。しかも、黒い絵にまつわる事件も原作からアレンジがされており、より「謎解き」の面白さまでも増している。細かいところでは、岸辺露伴の「ファンへの対応」も原作からパワーアップしていて面白かった。
飯豊まりえのワトソンっぷりが楽しい
謎解きといえば、変人だが聡明な高橋一生演じる岸辺露伴と、天真らんまんな飯豊まりえ演じる担当編集者・泉京香のコンビが、シャーロック・ホームズとワトソン的なコンビになっているのが実に楽しい。基本的に謎解きをするのは岸辺だが、泉も意外な事実に気づいて彼にヒントを与えたりする。
その泉は原作漫画「岸辺露伴は動かない」での出番はごく限られていたが、ドラマ版ではレギュラーキャラへと昇格していた。今回の「岸辺露伴 ルーヴルに行く」の原作にはそもそも泉は登場していなかったのだが、彼女の朗らかさがホラー描写もある本作の中では一種の清涼剤、コメディーリリーフとしても機能していた。ボケとツッコミを繰り返す漫才的なやりとりがとにかく面白いのだ。
さらに、泉が劇中の物語の中心にいることで、とある人物に「救い」を与えることができていた。無理やり登場させているのではなく、泉という存在がより物語を豊かにして、ひとつの「記憶」についての寓話としてもより完成度が高くなった印象さえあった。
その他のキャストも、良い意味での幼さがありながらも誠実であろうとする17歳の岸辺露伴を演じた長尾謙杜、理路整然と語るがどこか信用がならない安藤政信、美しさとミステリアスさを同居させる木村文乃など、それぞれにインパクトがある。役者のファンそれぞれにとっても満足できるだろう。
広がり深まる解釈
さらなる感動は、クライマックスの「その後」にあった。もちろんネタバレになるので詳細は秘密だが、原作の物語の「解釈」がさらに広がったことは明言しておこう。
一本の映画としても「このこと」を描くことには必然性があるし、原作を読んでいた方にはより大きな感動もあるのも間違いない。筆者個人は、「そうか、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』はこういう話だったんだ」と、物語の本質の理解が深まったようにさえ思えた。
過去の実写「ジョジョ」の再評価の流れも来て欲しい
「ジョジョの奇妙な冒険」の関連作品が実写映画化されたのは今回が初めてではなく、2017年には「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」も劇場公開されていた。
残念ながら6年近くが経っても続編の音沙汰はないのだが、個人的には原作第4部の序盤の物語をしっかり一本の映画に落とし込み、特殊能力“スタンド”のCGでの表現も見事で、十分によくできていた作品だと思えた。とはいえ、衣装の再現度が高すぎるあまりコスプレっぽさが否めず、テンポが鈍重すぎるという難点もあった(それらを実写「岸辺露伴」シリーズでは解消していた)。
だが、「ジョジョの奇妙な冒険」らしいサスペンスの面白さや、海外ロケ(こちらはスペインのシッチェス)をしたかいがある風景、おどろおどろしい怪奇テイストなどは今回の「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」にも通じている。劇場公開当時の評価は賛否両論だったが、さかのぼって見てみれば、評価できるポイントがさらに見つかると思うのだ。ぜひ、本作と併せて見てみてほしい。
(ヒナタカ)
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