小島秀夫監督と「マッドマックス」のミラー監督との共通点は? 最新作「アラビアンナイト 三千年の願い」対談インタビュー(1/3 ページ)
原典の「アラビアンナイト」にはない「発明」がある。
映画「アラビアンナイト 三千年の願い」が2月23日より公開される。監督は「マッドマックス 怒りのデス・ロード」などで知られるジョージ・ミラー監督だ。
ここでは、ミラー監督と、ミラー作品の大ファンであるゲームクリエイター小島秀夫監督の対談をお届けしよう。2人の創作プロセス、共通の作家性、そして「アラビアンナイト 三千年の願い」の魅力と奥深さを知っていただければ幸いである。
女性と魔人がひとつの物語を語り伝えていく
――まずは、小島監督に「アラビアンナイト 三千年の願い」の感想をお聞きしたいです。
小島秀夫監督(以下、小島) 僕はミラー監督の大ファンで、今の僕があるのは監督のおかげなんです。ミラー監督の小瓶に囚われて40年以上。ある意味、僕も魔人(ジン)ですね。「アラビアンナイト 三千年の願い」はおとぎ話でもあり神話でもある。それを科学的、数学的に読み解いた大人の知的な映画という感想を持ちました。これは“物語”にまつわるお話で、“物語”が入れ子になっているわけです。
主人公のアリシアは物語論の研究者ですが、自分の物語は、うまく他者に綴(つづ)れない孤独な人。彼女が魔人に会って、彼の3000年に亘る物語を聞く。語り部と聞き手の関係ですよね。そんななかで、自らも自分の物語を語り出していきます。
この映画がすごいのは、舞台の半分がホテルの一室なんです。まさに小瓶の中。そこでふたりの物語が語られ、聞き手だったアリシアが、観客の僕らに、ひとつの物語を語り伝えていく。映画の構造的にレイヤーになっていて、すごく知的、哲学的な印象を受けました。
ジョージ・ミラー監督(以下、ミラー) ありがとうございます。私がこの物語を綴りたいと思ったのは、パラドックス、逆説がある物語だったということです。小島監督がおっしゃったように、ホテルの一室という限られた空間で、物語は進む。その一方で、魔人はある意味、タイムレス、そしてスペースレスな存在でもあるわけです。そこにまずひとつの逆説がある。また、魔人は不死の存在ですが、アリシアは命ある人間である。こういう対比が面白いと思ったのです。
小島 “物語”の他にもうひとつ、“願い事”というテーマがあります。魔人は他人の“願い事”を3つ叶えることで自由の身になれるというルールですよね。“願い事”とは欲望でもあって、さらには叶えてもらう、叶えてほしい、両者があって初めて成立する。これはまさに恋愛のことなので、ミラー監督が知的に絶妙なところを指摘していると思いました。
“願い事”とは、互いに押し付け合うという約束事自体が呪縛であって、最後はそこから解放されるという新しい展開なんですよね。この物語は、約束を振り切って、解体して、解放されるふたりの物語。つまり、小瓶を破壊して、外に出た話ということなんです。さすが、私の“神”が作った映画だと思いました。
ミラー うれしいです。アリシアのように今の生活に満足し何も望まないという人物と、3000年にわたって何かを望み続けていた魔人のような者もいるということ。尺が短い映画ではありますが、私が興味を引かれた全ての逆説をそこに入れ込みたいと考えました。
小島監督の作品は神話レベルで人々に響く
――ミラー監督から、小島監督の作品について思うところはありますか。
ミラー 私が今日お伝えしたいのは、小島監督は素晴らしいクリエイターだ、ということに尽きます。「DEATH STRANDING 2 (Working Title)」(小島氏の新作)のトレーラーを拝見し、これまでの作品と同様に強くパワフルな感情が喚起されました。表層的ではないんですよね。サブテキスト、画が本当に奥深く詩的であると感じています。それが小島監督らしさだと思うし、一見では分からない、さまざまな側面が複数にあるところ、それらによって巨匠の手の中にいながら作品を体験できているのだと感じます。
こういう作品を創り続けるためには、さまざまなスキルが同時に必要になる。それを全てコントロールしながら最終的に細かいディテールまでつめて、仕上げていらっしゃる。本当に広範な、そして奥深いスキルを持っていないと達成できないことなので、毎回作品に触れるたびに巨匠の手の中にいるんだなと感じるわけです。
小島 ありがとうございます。今夜は眠れない(笑)。
ミラー 小島監督の作品には、最高レベルのアートがすべきことが、まさになされているという印象を抱きます。コミュニケーションという努力、人間が何かを伝えようとするその努力というものが最適なレベルでなされている。そのため、人類レベルで響くものがあるのだと私は思っています。体感的にも感情的にも知的にも、全てのレベルにおいて響いてくるんです。つまり、小島監督の作品は神話的なレベルで人々に響くものがあり、影響を与えることができる。それはわれわれユーザーや観客にとってはすごくパワフルな体験となり、本当に感謝したくなります。
小島 ありがとうございます。今のお言葉で3000年くらい生きていけます(笑)。
右脳と左脳を同時並行で動かして出力する
ミラー どうしても聞きたいんだけどいいかな。小島監督のパワフルなアイデアはどんな時に浮かんでくることが多いんですか?
小島 僕は心と魂が分離しているというか、ずっと夢想している状態なんですよ。24時間、寝ても起きても夢想をしているので、アイデアに困ることはないですね。例えば、歩いているときなど、一定のリズムで体と心の鼓動がひとつになったような瞬間は良いアイデアが出やすい気がします。普段の生活の中で自然とアイデアが出てくるというか。なので、実生活ではとんでもない人間だと言われることもありますけどね、会話している時も人の話を聞いてないので。今は聞いていますけど(笑)。
ミラー すごくよく分かります(笑)。
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