男子の舞台「Dancing☆Starプリキュア」は確かに「プリキュア」だった 20年間来のプリキュアファンが“ぼくプリ”に感じた「プリキュアの芯」:サラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)
舞台上には、確かに「男の子のプリキュアたち」がいたのです。
魅力的な悪の存在
内容面を見てみると、この作品は「平等」と「悪平等」が対立軸として描かれ、やや重めのストーリーとなっています。
「才能や個性のある人だけが目立つのは不公平。できない人に合わせるのが公平である」という敵の主張に、プリキュア達がどう立ち向かうのかが描かれます。
この「悪役」(ネタバレ回避のため名前は伏せます)が、本当に魅力的に描かれています。特にパンの枚数を使った“悪平等”の例えが秀逸でした。
「パンが10枚あって人間が30人いるなら全てのパンを捨てて食べないという選択をする。それこそが真の公平なのですから。」
セリフ引用:「Dancing☆Starプリキュア」The Stageより
プリキュアでおなじみの「敵との問答」が多々あるのもプリキュア的な要素の一つです。
「希望を持つから絶望が訪れる。希望と絶望は表裏一体。ならば最初から希望を持たない方が良い」という敵の正論に、「じゃあ逆に絶望の裏には必ず希望がある」と返すのは「スイートプリキュア♪」のノイズ戦や「Go!プリンセスプリキュア」のクローズ戦など、幾多のプリキュアシリーズでも描かれた、まさに「プリキュア問答」の真骨頂。
この「敵との問答」を通して、作品のテーマを視聴者に伝える手法も、まさに「プリキュア」的です。そして何よりも「良い悪役」もプリキュアにとって欠かせない要素の一つです。
「リズムを合わせるんだ!」
「おや? 皆さんは、型にはまらない自由さがモットーだったのでは?」
セリフ引用:「Dancing☆Starプリキュア」The Stageより
熱い主人公、周りの魅力的なキャラ、コミカルな妖精、テーマを引き立たせる悪役、脇を固めるダンサーたち、熱い物語、格闘、ダンス。全てが「プリキュアを構成する要素」となり、もうラストシーン前には彼らが「プリキュア」にしか見えなくなるのです。
ただ、ラストのオチはやや賛否の分かれるところでしょうか。特に玩具販促番組の側面もあるニチアサプリキュアにどっぷりつかっている人ほど、このオチを疑問に思うかもしれません(「魔法少女まどか☆マギカ」のキュゥべえ的、といえば分かる人には分かるかもですね)。
ニチアサプリキュアで、このオチをやったら大きな反感が起きそうですが、この作品はあくまで「大人の女性」をターゲットにしたものです。続編をにおわせるオチはこれで良かったのだと思います。
ニチアサプリキュアでは聞けない表現が新鮮
あと、個人的には「配慮のカタマリ」であるニチアサのプリキュアではなかなか聞くことができない表現が新鮮でした。
例えば、妖精パドドゥが人間の姿になる度に何度も「おっさん」呼びするギャグや、プリキュアが敵の幹部を「キモいおっさん」呼びして客席が沸いたり、劇中のファンの男の子が「靴になって合法的に踏みつけられたい!」と叫んだりするシーンなどは、プリキュアの名を冠する作品でここまでの表現ができる時代になったんだな、と妙に感心してしまいました。
自分の足で立っていること、凛々しくあること
プリキュア20周年記念映画「映画プリキュアオールスターズF」では「ヒラヒラの衣装を着て、街のみんなを守るために敵と戦うのはプリキュアの本質ではない」ということが描かれました。
同様に、この作品も「プリキュアを構成する本質は何か?」という命題を「男の子のみが舞台上で演じる」ことにより、われわれ古いプリキュアファンに突きつけました。
女の子は一人も出てきません。全員が男性の舞台です。しかも基本は高校生がダンスをしています。それでも確かに自分はこの舞台作品に「プリキュア」を感じました。それはなぜだったのでしょうか。
確かに「妖精」「変身シーン」「変身アイテム」「キラキラの衣装」「肉弾戦」「友情」「悪役との問答」「決め技」など、たくさんの「プリキュアっぽい」要素はちりばめられています。それはあくまで構成要素の一つであって「芯」ではないのです。
自分がこの作品に一番「プリキュア」を感じたのは、「大人は新しい夢などを見つけられない」と叫んだ敵の幹部に、「だったら、俺たちのダンスを見てくれよ!」と返したときです。このセリフ、最高に「プリキュア」っぽいです。
理屈じゃないのです。つまらない「大人の理屈」なんて一瞬で忘れさせてくれる、キラキラで真っすぐな思い。無鉄砲でも何でも、ただ目の前の人を助けたい。前を向きつづけること。絶対に諦めないこと。未来を信じること。自分自身で決めること。
鷲尾天さんが20年間言い続けてきた「自分の足で立っていること。凛々しくあること」。
それがクリティカルに描かれていた以上、男の子とか女の子とかは関係なく、この作品は「プリキュア」です。もう、白旗を上げるしかないじゃないですか。
ターゲットが女性である以上、自分のようなおじさんは外野から見ることしかできません。しかしあのとき、あの場所に立っていた男の子たちは確かに「プリキュア」でした。
ラストシーン。会場を埋め尽くしたたくさんの「かつての女児たち」が凛々しく踊る彼らに声援を送ります。色とりどりの推しの色に光らせた星形ペンライトを振りながら大号泣しているお姉さまたちの姿を見て、これは「新しい時代のプリキュア」なのだな、と感じました。
願わくは、新しくできたこの場所が続いてほしい。
男子プリキュアの舞台がこの先も演じられ続け「新しいプリキュア文化」になってくれると、20年来のプリキュアファンとしても、とてもうれしいです。
(C)Dancing☆StarプリキュアThe Stage製作委員会
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