商業的に見たプリキュア20年史 隆盛と苦戦を繰り返しながら歩み続けた玩具戦略:サラリーマン、プリキュアを語る(1/3 ページ)
プリキュアが20周年を迎えられたのも、ひとえに子どもたちが玩具を買ってくれたからなのです。
2023年は記念すべき「プリキュア20周年イヤー」です。
東京、大阪、名古屋での展示会「全プリキュア展」の開催など、各地でイベントも予定され大きな盛り上がりを見せています。
プリキュアも商業作品である以上、関連商品の売り上げとは切っても切り離せない関係にあります。プリキュアシリーズが20周年を迎えることができたのも、ひとえに「関連商品が売れ続けている」からなのです。
前回は「プリキュアの表現」からみた20年史を見てみました。そこで今回は、この20年「玩具業界誌」が報じ続けたプリキュア玩具の「商業的な側面」からみたプリキュアの歴史を見ていきたいと思います。
kasumi プロフィール
プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。
- これまでのプリキュア連載一覧
初代「ふたりはプリキュア」大ヒット
2004年2月1日。記念すべき第1作目「ふたりはプリキュア」が始まります。当時としては画期的だった徒手空拳で戦う女の子のアクションと友情を描いたこのアニメはまたたく間に子どもたちの心をつかみます。
番組開始と同時に、数量、金額ともに前年「明日のナージャ」の200%という驚くべき売り上げでのスタートとなりました。
数量、金額ともに前年の「明日のナージャ」と比較しても昨対200%で推移しているといい「おジャ魔女どれみ」以来のヒットキャラクターとしての売り場での期待も高まっているという。
『月刊トイジャーナル2004年3月号』(東京玩具人形協同協会)P79
変身玩具「カードコミューン」は累計60万個を売り上げるヒット商品となり、プリティコミューンとともにその年の年間玩具売り上げの1位2位を独占(PDF:東映アニメーション2005年3月期第3四半期決算から)。
視聴率も好調に推移し、すぐに2年目の制作が決定するなど、プリキュアは一気に女の子向けアニメのスターダムへと駆け上がったのです。
2年目も勢いは止まりません。続編「ふたりはプリキュア MaxHeart」では、追加キャラ「シャイニールミナス」が大人気となり売り上げをけん引。その勢いは加速していきます。
―― ルミナスが登場して、視聴者の反応はいかがですか?
鷲尾 今年になってから、4〜6歳女児の視聴率が急上昇したんです。平均して45%、最高で62.5%と、これは驚異的な数字です。これは前のシリーズでのプリキュアふたりの認知度が上がったことと、さらにルミナスが登場したこともかなり大きく付与したと思っています。
『ふたりはプリキュアマックスハート ビジュアルファンブックvol.1』(講談社)P83
スプラッシュスターの苦戦
わずか2年で子ども向けアニメのトップへと躍り出た「プリキュア」。3年目はキャラクター、設定を一新して「ふたりはプリキュアSplash☆Star」がスタートします。
しかし、順風満帆かと思われた新シリーズは、ここで大きな苦戦を強いられることとなります。関連商品の売れ行きが良くなかったのです。玩具業界紙では「変身玩具の販売数が半減した」と報じられるほどの落ち込み様でした。
ミックスコミューンの販売数が昨年のハートフルコミューンの半分。
『月刊トイジャーナル2006年4月号』P87
―― 「Splash☆Star」はビジネス的に落ち込んだと聞いていましたけど、それはおもちゃも?
渥美 一番顕著に表れていたのがおもちゃです。
幻冬舎『プリキュアシンドローム!』P145
絶好調だったプリキュア玩具の売り上げが「前年の半分」にまで落ち込んでしまう。プリキュア3年目にして最初の試練が訪れます。
この落ち込みの大きな要因として挙げられているのは、前年から大ブームとなっていたセガの女の子向アーケードカードゲーム「おしゃれ魔女・ラブandベリー」です(「・」はハートマーク)。最終的にカード出荷枚数が2億6000万枚を超える大ヒットコンテンツとなるこの「ラブandベリー」は、プリキュアに使われるはずだったであろう可処分所得を大きく奪うこととなったのです。
鷲尾「その中でも『ラブandベリー』は『ふたりはプリキュア』放送開始から約半年後の二〇〇四年十月からスタートして、あっという間に情報番組やニュースにとりあげられるくらいダントツの人気になりました。女の子のニーズをよくとらえていたし、非常によくできていたと思います。
幻冬舎『プリキュアシンドローム!』P75
最終的に、2007年3月期のトイホビー売り上げは前年の123億から一転し60億(昨対48.8%)と半分以下となってしまいました(PDF:2007年決算短信から)。
「ふたりはプリキュアSplash☆Star」は、視聴率やこどもアンケートの結果を見ても子どもに人気がなかったわけではありません。しかし当時の「商業的な落ち込み」はプリキュアシリーズの存続の危機となってしまうのです。
もう1年やってうまくいかなかったら「プリキュア」は終わる
プリキュアを立ち上げた鷲尾天プロデューサー(当時)は、上司から「もう1年やってうまくいかなかったらプリキュアは終わる」と通告されたことを語っています。
亀田 「Splash☆Star」は番組放送開始の二月から夏くらいまではよかったんですが。その後ちょっと視聴率的にも伸び悩んでいた。
鷲尾 そんな周囲の状況を受けて、社内では「来年はキャラクターを変更します」という報告をしたら当時の上司から「もう1年やってうまくいかなかったら『プリキュア』は終わるだろうし、鷲尾君もこの枠から離れることになると思う」と言われました。
幻冬舎『プリキュアシンドローム!』P76
3年目に大きく売り上げを落とし、初めての危機が訪れたプリキュア。
プリキュア制作陣は、予定していた「Splash☆Star」の2年目を取りやめ「新しいプリキュア」に変える決断をします。
鷲尾 私は『Splash☆Star』の2年目を考えていたんですが、さまざまな周辺状況の中、1年で終わらざるを得なくなってしまった。私自身、この作品も2年続くと思い込んでいた慢心と油断があったと思います。でも、内容としては充実した良い作品をみんなでつくったという自負は今でもあります。
ぴあMOOK『プリキュアぴあ』P85
そうして生まれたのが、2007年「Yes!プリキュア5」です。
スーパー戦隊のような多人数によるチーム制になった「プリキュア5」。この年、プリキュアは「ふたりは」の看板を下ろす決断をしたのです。
プリキュア5の放送開始前、玩具業界紙にバンダイから「プリキュアのブランド名は残す」が「反省点を踏まえて、番組のコンセプトから商品展開まで全てを変える」というコメントが出されます。
4作目となる新作は前作「ふたりはプリキュアSplashStar」の反省点を踏まえて、番組のコンセプトから商品展開まで全てを変えていますが、プリキュアのブランド名だけは変えていません。
『月刊トイジャーナル2007年2月号』
これは「Yes!プリキュア5」で「プリキュアシリーズは大きく方向転換しますよ」という玩具メーカーからの宣言でもありました。
「棚から商品が消えた」プリキュア5の大成功
そして、この方向転換は大成功をおさめます。「Yes!プリキュア5」でプリキュアは驚くべき復活を遂げることとなるのです。
「Yes!プリキュア5」も2週目は前週比180%と良い動きを示した。
『月刊トイジャーナル2007年3月』P69
2月の立ち上げより、前例がない右肩上がりの販売目標で推移しています。夏の売り上げ目標はずばり対比300%。絶好調のピンキーキャッチュとドリームコレットを核に、「武器2種類」を売って売って売りまくる商戦を予定しています。
『月刊トイジャーナル2007年7月』
「Yes!プリキュア5」の人気はすさまじく、玩具業界誌のレポートでも「前週比180%」や「前例がない右肩上がりの販売目標」「夏の売り上げ目標は昨対300%」など景気の良い言葉が飛び交いました。
春先からGWにかけては、変身アイテムを始めとした関連商品が玩具屋さんの棚から消えるほどの人気となり、後にバンダイの関係者が「GWに商品が行きわたらなくて流通に迷惑をかけた」(『月刊トイジャーナル2008年2月号』)とまで発言しています。
最終的に、2007年度のプリキュアのトイホビー売り上げは、前年60億円から105億円(前年比175%)とV字回復。「Yes!プリキュア5」の成功がシリーズ終了の危機を救ったのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ようやく会えるぞキュアヤムヤム 「デリシャスパーティプリキュア」1カ月の放送延期がもたらす商業的な影響とは?
まずは放送再開に向けて動いてくれた全ての関係者さまに感謝したいと思います。 - 「おいしそうにご飯を食べる」「敵と一緒にごちそうさま」 デリシャスパーティプリキュアが子育て世代にも支持される理由
デリシャスパーティプリキュアで描かれる「ごはん」は本当においしそうなのです。 - プリキュアが歌い出した日 Perfumeの振付師MIKIKO先生が手掛けた「ドキドキ!プリキュアEDダンス」の衝撃
個人的には「ハピネスチャージプリキュア!」の前期ED「プリキュア・メモリ」も大好きなエンディングです。 - 人魚のローラが「キュアラメール」に変身 「トロピカル〜ジュ!プリキュア」で描かれた“足を得る”選択について
人魚姫の物語は足を得てからが本番なのです。 - 「ヒープリは不遇だったと言わせるつもりはない」と語る悠木碧の思いに、僕たちができること
あらためて「ヒーリングっど プリキュア」は製作者に愛されている作品だと思いました。 - 「なんだあの動きは?」「板岡錦だ!」 プリキュアがカッコよく動く、アニメーター板岡錦の世界
板岡錦さん、初の作画監督、おめでとうございます。 - 全ての原画をたった1人で 「キラキラ☆プリキュアアラモード」第36話を支えた青山充という伝説
あきらさんが頭なでなでされる姿、かわいかったです!! - 14歳の娘と、8年ぶりにプリキュア映画を見に行ったお話
2018年のプリキュア映画は、女子中学生をも劇場に呼び戻す力がありました。 - プリキュア映画と「応援」の話 120%の力を引き出す「プリキュアがんばれー」
「映画プリキュアミラクルリープ」は5月16日公開になりました! 楽しみです! - 「応援なんて誰にでもできる」という正論に、プリキュアはどう立ち向かったのか? 「HUGっと!プリキュア」開始3カ月を振り返る
まだ4分の1が終わっただけなのにこの密度。2018年のプリキュアはとにかくすごいぞ。 - 主人公がピンク髪でマスコットいて悠木碧……! シリーズ第17弾「ヒーリングっどプリキュア」が2020年2月スタート
あのピンクの髪の魔法少女が今度はプリキュアに。【訂正】 - 星の次はハートだ! 「ヒーリングっど プリキュア」、ヒーリングアニマルと力を合わせ地球をお手当て!
「スタプリ」終了間近を惜しむ声も。 - 娘に「実はわたし、プリキュアなの」と言われたとき 親はどう振る舞うべきか?
スタプリ第40話、「わたしは2年3組、羽衣ララルン!」もう本当に神回でした!(本編シリアスなときに、こんな内容で申し訳ない)。 - 願いと祝福、新時代のプリキュア映画は子どもたちに何を伝えたのか? 「映画スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて」を見て
映画スタプリ、2日間で3回見に行くほどには最高の映画でした。心が温かくなります。 - 2世代を取り込む「ハートキャッチ」の強さ 「NHK全プリキュア大投票」を初動のデータから予測
NHK全プリキュア大投票は「ランキング」を語るのではなく、「愛」を語るのです。 - 「善悪はグラデーションで描く」 スター☆トゥインクルプリキュアが切り開く“新しいプリキュア観”
スター☆トゥインクルプリキュア、新しいエンディングが最高にカッコイイのでおすすめですよ。 - 新プリキュア「キュアコスモ」に見る、追加プリキュアの“商業上の重要性”について
ネコ耳、ネコシッポ、ネコポーズ、舌をペロっと出す変身。子どもにも大人にも人気出そう! - 的確な描写に「弓道警察」も納得? 「スター☆トゥインクルプリキュア」の弓道描写がスゴかった
個人的には「弓道警察」は人の心が生み出した形而上の存在だと思っています。 - 平成のプリキュアは、いかに“2度の危機”から復活したのか マクロ視点から振り返る
平成最後のプリキュア記事、気合入れて書いたら1万字を越えちゃいました。 - プリキュアも場合によっては“侵略者”となる 価値観の衝突を描いた「スター☆トゥインクルプリキュア」第8話がアツイ
「スター☆トゥインクルプリキュア」宇宙進出、本格始動です! - 「オヨ〜」が口癖 宇宙人プリキュア“キュアミルキー”は2本の触覚かわいい 「スター☆トゥインクルプリキュア」2月を振り返る
「HUGっと!プリキュア」の最終回にも少し触れています。 - 全人類がプリキュアになった日 「HUGっと!プリキュア」が示した「こうでなければならない」からの脱却
この記事は最終回1話前の第48話の時点で書いています。 - プリキュアはあと100年続く 「HUGっと!」から「スター☆トゥインクル」へ、1年の振り返りと“2018年の奇跡”
2018年のプリキュアの出来事を振り返りました。 - 平成の特異点「ハートキャッチプリキュア!」 “キュアマリン”が今も愛され続けている理由
NHK全プリキュア大投票は「熱量」が可視化されたすてきなイベントでした! - 歴代プリキュア55人+αが勢ぞろい HUGプリ第37話「奇跡のBパート」で何が起きたのか
僕はその日、確かに「奇跡」を見たのです。 - プリキュアって今、何人いるの? 気になったので調べてみた結果
「プリキュアは何人いるのか?」問題は永遠に答えの出ない超難問なのです。 - 「女の子同士が手をつなぐ」ことから始まったプリキュアが「男の子同士が手をつなぐ」までに至ったことに祝福を
「ふたりはプリキュア」から15年。当たり前のことが当たり前になる世の中に。 - 3分に及ぶ「出産シーン」 「HUGっと!プリキュア」が子どもたちに伝えたかった“母の強さ”と”父の責任”
いつだって子どもに誇れる大人でありたいですよね。 - もう一度、新しいステージに 一発屋芸人を声優に起用する「HUGっと!プリキュア」が描く“再生の物語”
ダイガンさん、生きていて本当に良かった……。元クライアス社の3人が本当に楽しそうで何よりです。 - 「子どもを持つことだけが、女性の幸せではない」を描いていく「HUGっと!プリキュア」のすごさ
キュアマシェリとキュアアムール……今年のプリキュアは何もかもが……すごい……尊い……。 - “13の数字”から見るプリキュア通算700回 一番多い色は? アルバムは何作つくられた?
「HUGっと!プリキュア」第15、16話がすごすぎて、思考が追い付かない……。 - 「映画プリキュアスーパースターズ!」 僕が思う“ただ1つ”の残念な点と、それでもこの映画が最高な理由【ネタバレあり】
2018年のプリキュアの勢い、本当にすごいことになっている。 - 悪の組織も「稟議」を通す時代 「HUGっと!プリキュア」のクライアス社が社会人をザワつかせる
「HUGっと!プリキュア」、育児の丁寧な描写が光ります。 - 2018年「HUGっと!プリキュア」が神アニメになる5つの理由
「HUGっと!プリキュア」今から楽しみです。 - 「キラキラ☆プリキュアアラモード」が大成功を収めた5つの理由
この時期はプリキュアロスと新しいプリキュアへの期待で複雑な気持ちになります。 - プリキュアは、平均15分50秒でラスボスを倒す
あと1回でキラキラ☆プリキュアアラモードが終わるなんて悲しい……。 - 「妖精ペコリン」が「キュアペコリン」に 妖精がプリキュアになれる確率は何%なのか調べてみた
じゃあもう、リオ君もビブリーちゃんもプリキュアってことでいいじゃん。 - 脚本家・坪田文は、なぜキュアマカロンの「弱さ」を描いたのか?
琴爪ゆかりさん、キラキラ☆プリキュアアラモードで「最も成長した」キャラですよね。 - 自分に合ったプリキュアの見つけ方 2017年の「最も再生数が多かったプリキュア第1話」から考える
ここまで大差がつくとは思いませんでした。 - 娘を、プリキュアにするために就くべき職業5選
サラリーマンにも希望はあります。 - 歴代プリキュアの「決め技バンク」で一番長い技って? 実際にストップウォッチで測ってみた
ストップウォッチ片手に本当に測定しました。 - これは福音である 「プリキュア男子」という多様性についての考察
「プリキュア論」をどうしても書きたかったので、いつもと文の雰囲気が違います! - 「闇堕ち」の対義語は「光堕ち」? プリキュアで使われている謎の言葉
「光堕ち」という言葉がいつから使われだしたのか、調べてみました。 - 「映画ハピネスチャージプリキュア!」の興行収入はなぜ半減した? 2014年の出来事から考える
映画キラキラ☆プリキュアアラモードが絶好調の今だからこそ、語るべきことがある。 - 今までのプリキュア映画とは540度違う? 「映画キラキラ☆プリキュアアラモード パリっと!想い出のミルフィーユ!」レビュー
映画キラキラ☆プリキュアアラモード。とにかくね、ものすごい映画でした。 - プリキュア映画歴12年の筆者が教える、大人のプリキュア映画鑑賞法
第37話は映画との連動回。ビブリーちゃんのツンデレっぷりがかわいかったです。 - プリキュアが「手をつなぐ」意味とは?
プリアラ第35話レビュー。「2人はどうして友達なの?」への回答はあおいちゃんらしいものでした。 - プリキュア恒例の入れ替わり回は「自分らしく生きる」ことの意味を問う
猫になっても全く動じないゆかりさん、さすがです。 - ニチアサ改編でプリキュア人口が増える? 「さあ、プリキュアを始めよう」
「プリキュアの数字ブログ」の管理人・kasumiが、毎週プリキュアの魅力をお届けします。