「土井先生」と「きり丸」が好きな人は、全ての創作物に優先して観るべき 映画「忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師」レビュー(2/3 ページ)
きり丸のギャグにも違う気持ちが生まれる。
描かれるきり丸のショックの大きさ
そして、今回の映画「忍たま」の物語の主軸となるのは、「土井先生が行方不明になる」ことだ。もちろん忍術学園の先生や六年生たちによる必死の捜索が行われるのだが、長引くにつれ「最悪の事態」も想定するようになる。
そして、彼らの前に現れたのは、ドクタケ忍者隊の冷徹な軍師「天鬼」。その顔は、なぜか土井先生と瓜二つだったのだ。忍術学園では土井先生が行方不明である事実を下の学年に知らせないよう配慮していたのだが、きり丸は期せずしてそのこと、よりにもよって土井先生と同じ顔を持つ天鬼が六年生たちを攻撃してきたことと合わせて知ってしまう。
想像してほしい。一緒に暮らしている、たった1人の大切な人が行方不明になり、もしかすると死んでしまったのかもしれないとも思った矢先、その大切な人が(別人であるという可能性もあるが)敵として立ちはだかるのだ。たった10歳の少年にとって、そのショックはどれほどのものだろうか。
原作である『小説 落第忍者乱太郎 ドクタケ忍者隊 最強の軍師』で描かれたきり丸の心理描写は、アニメでも丁寧に表現されている。特に、きり丸の繊細な表情と田中真弓の渾身の演技が相まって、より一層胸に迫るものになっていた。
きり丸の「ドケチ」を含めて愛おしくなる理由
原作小説ではきり丸について、「『ただ』という言葉を好み、『損』という響きを忌み嫌う。戦災孤児の彼が一人で生きていくための、人生の道標とも言えるものだ」「安くない授業料を捻出するため、補習がない日はアルバイトが日課となっている」という記述もある。
きり丸のドケチぶりは、アニメでは「目が小銭になって喜ぶ」といったギャグとしても描かれていたが、それが戦争で家族を失い1人で生きていた彼にとっては「生きる術」としてとても重要だったのだ。
そして、お金以上にきり丸にとって大切だったのが、彼に寄り添ってくれる土井先生だということも、ある涙腺決壊必至のシーンでよりはっきりと分かる。これまでのドケチだったきり丸のことも愛おしくなる上に、今回の物語があってこそ、土井先生ときり丸の2人が寄り添っての、今後の幸福も心から望みたくなるだろう。
また、土井先生がきり丸以外の生徒からとても慕われていることが、彼らの姿からもはっきりと分かる。土井先生の行方不明中に「雑渡昆奈門(ざっとこんなもん)」が代理で教師を務めるもののその教え方の優しくなさにうんざりしてしまったり、ある場面でみんなで笑い転げながら土井先生の強さを心から信じていることを言ったり、はたまた後半のある活躍で「もう、みんなかわいいな!」と全員が愛おしくなったのだ。
「彼岸花」が示していたこと
本作と併せて、「彼岸花」のことも軽く知っておくとよいだろう。彼岸花の根には毒があり花も赤く血を連想させることから縁起の悪さが伝えられる一方で、お彼岸のわずかな時期に咲く儚くも美しい花であり、その花言葉には「悲しき思い出」「あきらめ」「再会」「また会う日を楽しみに」などとあり、「故人への思いを馳せつつも前を向いて生きる」というネガティブとポジティブの両面を持ち合わせている。
その彼岸花がどの場面で映るのか、その場面は誰の視点なのか、その視点がどのように変わるのか……演出に注意して見ると、きっと感動も増すことだろう。
加えて、本作はアニメ作品としてのクオリティーが高い。監督は初代キャラクターデザインを、さらに前作「劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園全員出動!の段」(2011年)でも監督を務めた藤森雅也。その「全員出動!の段」も当時の合戦の専門用語や戦の陰謀などが分かりやすく語られる秀逸な内容だったが、今回も意外に込み入った戦況がリアルで、かつ混乱しないような工夫が凝らされていた。
さらには、脚本を原作小説の著者であり、テレビシリーズも手がけてきた阪口和久が担当しているからこそ、「解釈違い」も起こりようもない。実際に原作を読んでみると、90分のタイトな上映時間のアニメ映画で、小説にあった魅力を存分に引き出した手腕にも感服させられたのだ。
これ以上は言うことはない、めちゃくちゃにカッコいい土井先生と、史上もっとも愛おしいきり丸、もはや全員がかわいいキャラクターの魅力と、スピーディーかつ本格的な忍術アクション、そして涙腺決壊のエモーショナルな物語と演出の数々……スクリーンでその全てを堪能してほしい。
(ヒナタカ)
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