ゲイアートの巨匠は“一般誌”で何を伝えるか『弟の夫』田亀源五郎インタビュー(1/2 ページ)

『さぶ』『Badi』といったゲイの専門誌での連載や、海外ではゲイアートの個展を開くなどしてその名を知られる田亀源五郎さん。5月25日に第1巻が発売された『弟の夫』の魅力を中心に田亀さんに迫る。

» 2015年06月05日 07時00分 公開
[宮澤諒eBook USER]
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5月25日に発売された『弟の夫』第1巻『弟の夫』第1巻 ©田亀源五郎/双葉社 5月25日に発売された『弟の夫』第1巻 ©田亀源五郎/双葉社

 双葉社の漫画誌『月刊アクション』に、ゲイをテーマにした漫画が連載されていることをご存じだろうか。

 作品の名は『弟の夫』。自らを“ゲイ・エロティック・アーティスト”と称する漫画家・田亀源五郎さんの作品だ。

 田亀さんは、ゲイをテーマにしたイラストや漫画を発表し、海外では個展を開くなど、ゲイアートの普及に心血を注ぐ人物。自身がゲイであることも公言している。

 これまでは『さぶ』や『Badi』といったゲイの専門誌をフィールドに男性同性愛をテーマにした作品を連載してきた田亀さんだが、今回初めて一般誌で筆を執った。

 eBook USERでは田亀さんにインタビュー。新作「弟の夫」はもちろん、海外に行くことの多い田亀さんが直接肌で感じた日本と海外のゲイに対する意識の違い、女性を中心に人気を集めるボーイズラブ(BL)ジャンルについてどう感じているのかなどを聞いた。

『弟の夫』主な登場人物

弥一:夏菜の父。涼二という名の双子の弟がいたがカナダへ移住した。親から継いだアパートの大家をしながら暮らしている
マイク:カナダ人。弥一の双子の弟・涼二と結婚していた。涼二の死を期に弥一の家を訪れる
夏菜:弥一の娘で小学生の女の子。義理のおじさんに当たるマイクのことが大好き
©田亀源五郎/双葉社

日本ではまだまだゲイを公言する人は少ない

―― 最初に簡単な自己紹介と、『弟の夫』以外に現在取り組まれている仕事があれば教えていただけますか。

田亀 1980年代中ごろからゲイ雑誌を中心に、漫画やイラストレーション、小説などを書いてきました。1990年ごろに専業作家になったのと時期を前後してアーティスト活動を始め、主に海外で個展やアートブックに作品を寄稿したりしています。現在は、『月刊アクション』以外だと、ゲイ雑誌の『Badi』でゲイ向けのアダルト作品を描いています。

田亀源五郎さん 田亀源五郎さん

―― プロフィールに「ゲイ・エロティック・アーティスト」とありますね。

田亀 専業作家になることを決めた段階で、これからどういうことをやっていきたいかを考えました。「ゲイ」であることと「ゲイのエロティシズム」であること、この2点は自分が表現したいものとして外せないポイントで、それから漫画以外にも、小説やイラストレーションなどもやっていましたので、それらを包括できる一番シンプルな言葉は一体何だろうと考えた結果、そう名乗ることにしました。

―― 田亀さんの作風はアーティストという言葉がぴったりな印象です。ゲイに関する歴史的な資料の収集などもされているんですよね。

田亀 作家が亡くなったり、作品の発表をやめたりすると、途端に忘れられて過去の人になってしまいますよね。亡くなった後で遺族の方が残った絵を燃やしたり、原画を手に入れた方の中にも加筆したり切り張りするという事例を目にしたことがあったので、これは取り返しのつかないことになる前に何とかしなければという思いがありました。

 それで、自分が好きな先生たちの作品や、分かった限りのバイオグラフィーなどを記録として自分のWebサイトに掲載していたんですが、たまたまサイトを見てくれた……確か松沢呉一さんだったと思いますが、ポット出版さんにわたしの取り組みを紹介してくださいまして、その関係で『日本のゲイ・エロティック・アート』というシリーズが発行されました。

 そういう縁もあって、ポット出版さんからはわたしのゲイ関係、アダルト関係の本を何冊か出してもらっています。

―― 海外ではゲイアートを集めた展覧会が開かれていますが、日本ではまだまだといった印象です。田亀さんは個展の開催などで海外にはよく行かれていると思いますが、日本と海外でゲイに対する意識の違いを感じることはありますか?

田亀 大いに感じますね。いろいろありますが、例えばゲイであることに関して、少なくともアメリカやヨーロッパの方は自覚的で、隠さずに活動している方がとても多いです。

 いわゆる著名人の方でもそういう方が多くて、最近はハリウッドセレブやスポーツ選手、企業の偉い方たちがカミングアウトしてニュースになったりしていますよね。もう少し身近なところですとカメラマンや画家、漫画家といった人たちの中もゲイであることを隠さずに活動している方が大勢います。セクシャル・マイノリティーに対してアクティブな方が多いんですね。これは日本との大きな違いです。

―― 日本でも、ディズニーランドで女性同士で結婚式を挙げたり、渋谷区で同性パートナーシップ条例を成立させたりといった話もあります。少しずつ前進しているような印象ですが、田亀さんはどう見ていますか?

田亀 そうですね、特にここ最近は勢いが増している印象があります。わたしがゲイをカミングアウトしたのが18歳のとき、えーと、1982年ですね。そのころは周りに同じような人がほとんどいなくて……、大学卒業後は凸版印刷に就職したんですが、そこで公言したときも大変驚かれました。

 もっとカミングアウトする人が増えてくるんじゃないかと期待していたんですけど、数年前まではほとんど変化を感じることはなかったです。ゲイ漫画家は増えていますが、日常生活レベルでオープンにしている方はあまりいないし、ゲイに関する問題がメディアに取り上げられることもほとんどなかった。それがここ最近、急に勢いが増した感じがします。

―― 何かきっかけがあったんでしょうか。

田亀 ひとつには、同性婚が世界的なひとつのイシューになったということではないでしょうか。先ほど挙げられたディズニーランドの結婚式の件も、渋谷区の条例の件も、同性婚というカテゴリでの話ですので、世界の潮流の中のひとつであると言えます。

一般誌での連載は初めてのことだらけ

―― 『弟の夫』についてお話を伺っていきたいと思います。これまで田亀さんは、主にゲイの専門誌で漫画を描かれていましたが、なぜここにきて一般誌で描くことになったのでしょうか。

田亀 いまの担当編集者に誘われたからです(笑)。これまでにも2回ほど一般誌からお声掛けいただいたんですが、うやむやになって結局連載することはなかったんです。今回も途中でぽしゃるだろうなあと思ってたんですけど、連載する運びになりました。

©田亀源五郎/双葉社 物語の冒頭、弥一が食事を作るシーン ©田亀源五郎/双葉社

―― 一般誌で連載してみて、やりにくい部分などありますか?

田亀 やりにくいというより、自分にとって初めてのことが多く戸惑うことの方が多いですね。

 連載を始めたころは、作品の作り方で悩むことがありました。例えば、第1話の導入部分で描いた、弥一が朝食を作ったり掃除機をかけるシーンでは、担当さんに「ここにもうちょっとタメを作りましょう」と言われたんですが、家事なんて描き慣れてないから、どこで止めていいのか分からなくなっちゃって、延々家事しているところを描いちゃったり(笑)。

 作画でも初めて描くものが多くて、毎回描きながら、コーヒーメーカー初めて描いたとか、掃除機描くのも初めてだとか(笑)。

―― 田亀作品の新たな一面が見られるわけですね(笑)。今回、女性キャラも登場しますが、男性に比べて作画が苦手だったりしますか?

田亀 大人の女性キャラについては、ゲイ漫画でもよく描いてきているので問題ありません。むしろわたしの作品は、ゲイ漫画の中でも比較的女性キャラが多い方だと思います。

 ただ、これまで描いてきた女性キャラというのは、ものすごい美人だったり冷酷な性格だったりと、アクの強いキャラばかり。今回は普通の女性なので、目の形を漫画らしくしたりとちょっと描き方は変えています。

―― 夏菜ちゃんみたいな少女を描いた経験はありますか?

 少女を描くのは今回が初めてだったかなあ。想定しているのはストレート(異性愛者)の読者さんなので、マスコット的な可愛い女の子にしたいと思っていたんですけど、自信がなくて……。担当さんに「ブスっぽい女の子じゃだめ?」って聞いたんですけど却下されちゃいました(笑)。

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