ゲイアートの巨匠は“一般誌”で何を伝えるか:『弟の夫』田亀源五郎インタビュー(1/2 ページ)
『さぶ』『Badi』といったゲイの専門誌での連載や、海外ではゲイアートの個展を開くなどしてその名を知られる田亀源五郎さん。5月25日に第1巻が発売された『弟の夫』の魅力を中心に田亀さんに迫る。
双葉社の漫画誌『月刊アクション』に、ゲイをテーマにした漫画が連載されていることをご存じだろうか。
作品の名は『弟の夫』。自らを“ゲイ・エロティック・アーティスト”と称する漫画家・田亀源五郎さんの作品だ。
田亀さんは、ゲイをテーマにしたイラストや漫画を発表し、海外では個展を開くなど、ゲイアートの普及に心血を注ぐ人物。自身がゲイであることも公言している。
これまでは『さぶ』や『Badi』といったゲイの専門誌をフィールドに男性同性愛をテーマにした作品を連載してきた田亀さんだが、今回初めて一般誌で筆を執った。
eBook USERでは田亀さんにインタビュー。新作「弟の夫」はもちろん、海外に行くことの多い田亀さんが直接肌で感じた日本と海外のゲイに対する意識の違い、女性を中心に人気を集めるボーイズラブ(BL)ジャンルについてどう感じているのかなどを聞いた。
『弟の夫』主な登場人物
日本ではまだまだゲイを公言する人は少ない
―― 最初に簡単な自己紹介と、『弟の夫』以外に現在取り組まれている仕事があれば教えていただけますか。
田亀 1980年代中ごろからゲイ雑誌を中心に、漫画やイラストレーション、小説などを書いてきました。1990年ごろに専業作家になったのと時期を前後してアーティスト活動を始め、主に海外で個展やアートブックに作品を寄稿したりしています。現在は、『月刊アクション』以外だと、ゲイ雑誌の『Badi』でゲイ向けのアダルト作品を描いています。
―― プロフィールに「ゲイ・エロティック・アーティスト」とありますね。
田亀 専業作家になることを決めた段階で、これからどういうことをやっていきたいかを考えました。「ゲイ」であることと「ゲイのエロティシズム」であること、この2点は自分が表現したいものとして外せないポイントで、それから漫画以外にも、小説やイラストレーションなどもやっていましたので、それらを包括できる一番シンプルな言葉は一体何だろうと考えた結果、そう名乗ることにしました。
―― 田亀さんの作風はアーティストという言葉がぴったりな印象です。ゲイに関する歴史的な資料の収集などもされているんですよね。
田亀 作家が亡くなったり、作品の発表をやめたりすると、途端に忘れられて過去の人になってしまいますよね。亡くなった後で遺族の方が残った絵を燃やしたり、原画を手に入れた方の中にも加筆したり切り張りするという事例を目にしたことがあったので、これは取り返しのつかないことになる前に何とかしなければという思いがありました。
それで、自分が好きな先生たちの作品や、分かった限りのバイオグラフィーなどを記録として自分のWebサイトに掲載していたんですが、たまたまサイトを見てくれた……確か松沢呉一さんだったと思いますが、ポット出版さんにわたしの取り組みを紹介してくださいまして、その関係で『日本のゲイ・エロティック・アート』というシリーズが発行されました。
そういう縁もあって、ポット出版さんからはわたしのゲイ関係、アダルト関係の本を何冊か出してもらっています。
―― 海外ではゲイアートを集めた展覧会が開かれていますが、日本ではまだまだといった印象です。田亀さんは個展の開催などで海外にはよく行かれていると思いますが、日本と海外でゲイに対する意識の違いを感じることはありますか?
田亀 大いに感じますね。いろいろありますが、例えばゲイであることに関して、少なくともアメリカやヨーロッパの方は自覚的で、隠さずに活動している方がとても多いです。
いわゆる著名人の方でもそういう方が多くて、最近はハリウッドセレブやスポーツ選手、企業の偉い方たちがカミングアウトしてニュースになったりしていますよね。もう少し身近なところですとカメラマンや画家、漫画家といった人たちの中もゲイであることを隠さずに活動している方が大勢います。セクシャル・マイノリティーに対してアクティブな方が多いんですね。これは日本との大きな違いです。
―― 日本でも、ディズニーランドで女性同士で結婚式を挙げたり、渋谷区で同性パートナーシップ条例を成立させたりといった話もあります。少しずつ前進しているような印象ですが、田亀さんはどう見ていますか?
田亀 そうですね、特にここ最近は勢いが増している印象があります。わたしがゲイをカミングアウトしたのが18歳のとき、えーと、1982年ですね。そのころは周りに同じような人がほとんどいなくて……、大学卒業後は凸版印刷に就職したんですが、そこで公言したときも大変驚かれました。
もっとカミングアウトする人が増えてくるんじゃないかと期待していたんですけど、数年前まではほとんど変化を感じることはなかったです。ゲイ漫画家は増えていますが、日常生活レベルでオープンにしている方はあまりいないし、ゲイに関する問題がメディアに取り上げられることもほとんどなかった。それがここ最近、急に勢いが増した感じがします。
―― 何かきっかけがあったんでしょうか。
田亀 ひとつには、同性婚が世界的なひとつのイシューになったということではないでしょうか。先ほど挙げられたディズニーランドの結婚式の件も、渋谷区の条例の件も、同性婚というカテゴリでの話ですので、世界の潮流の中のひとつであると言えます。
一般誌での連載は初めてのことだらけ
―― 『弟の夫』についてお話を伺っていきたいと思います。これまで田亀さんは、主にゲイの専門誌で漫画を描かれていましたが、なぜここにきて一般誌で描くことになったのでしょうか。
田亀 いまの担当編集者に誘われたからです(笑)。これまでにも2回ほど一般誌からお声掛けいただいたんですが、うやむやになって結局連載することはなかったんです。今回も途中でぽしゃるだろうなあと思ってたんですけど、連載する運びになりました。
―― 一般誌で連載してみて、やりにくい部分などありますか?
田亀 やりにくいというより、自分にとって初めてのことが多く戸惑うことの方が多いですね。
連載を始めたころは、作品の作り方で悩むことがありました。例えば、第1話の導入部分で描いた、弥一が朝食を作ったり掃除機をかけるシーンでは、担当さんに「ここにもうちょっとタメを作りましょう」と言われたんですが、家事なんて描き慣れてないから、どこで止めていいのか分からなくなっちゃって、延々家事しているところを描いちゃったり(笑)。
作画でも初めて描くものが多くて、毎回描きながら、コーヒーメーカー初めて描いたとか、掃除機描くのも初めてだとか(笑)。
―― 田亀作品の新たな一面が見られるわけですね(笑)。今回、女性キャラも登場しますが、男性に比べて作画が苦手だったりしますか?
田亀 大人の女性キャラについては、ゲイ漫画でもよく描いてきているので問題ありません。むしろわたしの作品は、ゲイ漫画の中でも比較的女性キャラが多い方だと思います。
ただ、これまで描いてきた女性キャラというのは、ものすごい美人だったり冷酷な性格だったりと、アクの強いキャラばかり。今回は普通の女性なので、目の形を漫画らしくしたりとちょっと描き方は変えています。
―― 夏菜ちゃんみたいな少女を描いた経験はありますか?
少女を描くのは今回が初めてだったかなあ。想定しているのはストレート(異性愛者)の読者さんなので、マスコット的な可愛い女の子にしたいと思っていたんですけど、自信がなくて……。担当さんに「ブスっぽい女の子じゃだめ?」って聞いたんですけど却下されちゃいました(笑)。
関連記事
- 人生を味わう極上の一杯『ラーメン食いてぇ!』の林明輝に聞く
講談社のWebコミックサイト「モアイ」に掲載されるや、またたく間に話題となったマンガ『ラーメン食いてぇ!』。ラーメンマンガとひとくくりにできない同作の魅力をお届けする。 - 連載を取り消された漫画家の復活劇――『あいこのまーちゃん』が書店に並ぶ日
「不健全図書」に該当する可能性を指摘され、連載中止となった漫画『あいこのまーちゃん』。同作の単行本化に向け、クラウドファンディングやニコニコ生放送、273時間の作画配信などさまざまなことにチャレンジしてきた漫画家・やまもとありさ先生とは一体どういう人物なのか。ロングインタビューでやまもと先生に迫った。 - アイドル×オタクで面白さは加速する――アイドル群像漫画『ミリオンドール』の魅力とは
地方アイドルVS地下アイドル、そして在宅オタクVS現場オタクという二重構造で展開される漫画『ミリオンドール』。7月のアニメ化放送が決定した同作の作者・藍さんに作品について伺った。 - かわいい絵柄に小さなトゲ――北欧女子・オーサの描く4コマが魅力的なワケ
日本で見つけた不思議や驚きを4コママンガで描き、その独特の視点や絵の巧みさから注目を受けているスウェーデン人マンガ家のオーサ・イェークストロムさん。好きな作家に矢沢あいさんを挙げるオーサさんに、秋葉原のメイドカフェ「シャッツキステ」の司書メイドことミソノさんが切り込む。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの行動”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」【大谷翔平激動の2024年 「家族愛」にも集まった注目】
-
60代女性「15年通った美容師に文句を言われ……」 悩める依頼者をプロが大変身させた結末に驚きと称賛「めっちゃ若返って見える!」
-
「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
-
皇后さま、「菊のティアラ」に注目集まる 天皇陛下のネクタイと合わせたコーデも……【宮内庁インスタ振り返り】
-
71歳母「若いころは沢山の男性の誘いを断った」 信じられない娘だったけど…… 当時の姿に仰天「マジで美しい」【フィリピン】
-
真っ黒な“極太毛糸”をダイナミックに編み続けたら…… 予想外の完成品に驚きの声【スコットランド】
-
新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
-
家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
-
藤本美貴、晩ご飯に手料理7品 多忙でも野菜とお肉たっぷりで反響 「お疲れ様です」「凄く親近感」【2024年の弁当・料理まとめ】
-
ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
- フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
- 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
- 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
- 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
- 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
- セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」