ハリウッド監督・紀里谷和明2万字インタビュー×東大作家・鏡征爾:禁断の解禁 ここにあなたの悩みをひもとく全てがある<前編>(2/3 ページ)

» 2017年09月22日 12時00分 公開
[鏡征爾ねとらぼ]

IV そして原稿がいらなくなった

鏡:用意したものが、まったく役に立たない(原稿に呟く)

紀里谷:ハハハ! ごめんね(笑)

鏡:いやあ。本当に面白い話を聞かせて頂いています。うーん。でも根本的に……いいのかな(ちょっと悩む)。あの、僕、他のインタビューとかもたくさん見たんですけど、監督は「ラスト・ナイツ」に関する具体的な困難とかを語られているじゃないですか。それもできればお聞かせ頂きたいんですけど……宣伝も兼ねて。宣伝、した方がよくないですか。あった方がいいと思うんですけど。それとも、もういらないですか?

紀里谷:……いんじゃね!?(のけぞりながら両腕を広げて)

鏡:(笑)。いいんですか?(笑)

紀里谷:だってさ、言い続けたってそれはセールスにつながってないわけだよ。

鏡:ああ……(遠い目)。(当時「ラスト・ナイツ」は鑑賞者の称賛の声とは裏腹に、興行面では苦戦が続いていた)

紀里谷:そういうロジカルな話よりも、それよりも、もっともっと他の人たちが見た感想を書いてもらうことがよっぽど俺はうれしい。

 だってさ、これをつくろうと思って、どれだけみんな苦労してとかそんな話聞いたって、それは「それがどうしたの?」って話だもん。それよりか、商品がどれだけよかったよね、っていってもらった方が俺はいい。

鏡:想像を超えるなあ。自分のあたまのネジが飛ぶ音が聞こえます。どうしよっかな。この原稿まったく役に立たないんですけど(インタビュー原稿をぐしゃぐしゃと丸め始める)。

紀里谷:ハハハ(笑)。じゃあいいじゃんもう最初っから全部変えれば(笑)

鏡:変えますよ! そうしたらテクニカルな話はいらないかな。ちょっと趣向を変えますね。監督のパッションの話。それも監督のパッションに訴えかけることに成功した話――監督に突き抜けたカナダ人の話にします。

 今回脚本はカナダ人の方のを使ったわけですよね? 彼とは国境も人種も離れている。しかも外人発の「忠臣蔵」(当初脚本家であるマイケル・コニーブスが持ってきたものは典型的な日本の武士の世界を描いた脚本だった。「それをハリウッドでやってもね」「日本には武士道があるが西洋には騎士道があるじゃないか」紀里谷監督自身の手によって世界観自体を変える必要があった)。それなのになぜ彼は紀里谷監督の心に突き抜けることができたのでしょう。

紀里谷:俺のオフィスにもってきただけだよ。俺のことが好きだったんじゃねえの?

鏡:ものがすごかったってことですか?

紀里谷:それしかない。なぜモーガンがこの仕事を受けてくれたのかなんて、単に脚本が好きだったというだけの話なんだ。

鏡:そうやってクライヴ・オーウェンも納得させた。

紀里谷:だから全てが情緒的なんだよ。

鏡:感情の話にすぎない。

紀里谷:今日なに食いたいのって話じゃん。カレー食うのか。そば食うのか。どっち食いたい?

鏡:カレー。からいものが食べたい……。

紀里谷:じゃあそれはなんで? なんでカレーにしたんですか? って聞かれても……

鏡:わかんないですよね。その場の感情にすぎないし。

紀里谷:それが正しいんだよ。それは単純に食いたかったからだろう。だから結局そういうことなんだ。俺が何か変な人間みたいな感じに一般ではなってるけど、そもそもそんな程度のものなのではないだろうか、人間は。

 このフェーズにまで議論を落としこんでいけば、いまのいろいろな国際問題は解決すると俺は思う。「なぜ私たちはこんな内戦をやっているんだろう」「なぜ僕らはこんな戦争をやっているんだろう」「なぜ僕は黒人の膝を散弾銃で砕くのか」物事をロジカルに考えれば結局は全てが情緒的なところにたどり着く。その情緒的なところの相互理解があればと思うんだよ。

紀里谷和明 鏡征爾

V Conflict:想像でつくりあげた葛藤

鏡:その相互理解の話で、これだけたくさんの人を絡めるわけじゃないですか。

 紀里谷監督の映像は2000年の最初の頃から知っています。ミュージック・ビデオの頃から知っている。監督の映像は一瞬で違いがわかる。わかるのに違いがわかる。だからきっと根本的につくりが違う。

 ウェルメイドなもの、つまり方程式に沿ったそこそこのものをつくるのと、新しいものをつくるのって、まったく別のものだと思うんです。だから現場でも葛藤があったと思うんですね。そうした葛藤を監督はどうやって乗り越えてきたんでしょうか。

紀里谷:そんな葛藤なんて想像でつくりあげてるだけの話じゃないか。じゃあそこの部分をどうクリアするのかって話なんだよ。それはきっちり話あわなきゃいけないし、やっぱり自分が見せていかなければいけないし、自分がどう思うかを言い続けていかなければいけない。

 それは極めて情緒的な部分に対して忠実でなければいけないわけですよ。それはマーケティングとは違うものになっていくと思う。

 でもその情緒的なものが強ければ強いほど人はついてくるんじゃないかな。

 これはね、信仰に近いものがあると思う。宗教的なものがあると思う。それはどっかの宗教とかそういうことじゃないよ。自分の作品。自分の衝動。それに対して、どれだけ忠義を尽くすのかみたいな話なんじゃねえのかな。

鏡:……。

紀里谷:俺がいいたいのは、俺がつくったものがいいと言ってくれる。それに対して、リアクションが起こっている。ということは、きみのなかにも同じ景色が見えてないと、そもそも合致しないんだよ。

鏡:(うなずく)

紀里谷:ということは多くの人たちに同じイメージが存在しているんだよ。あとは、それを具現化するのか。しないのか。という、その一点で、あるわけ。よく「どうやったらそんなインスピレーションがくるんですか」とか、よく「どうやってそんなことできるんですか」とかいった質問が来るけど、みんな同じようなものを持ってるんだよ。

 それを一つの炎としよう。みんな同じような炎を持ってるんだよ。それを必死になって具現化するのか、しないのか?

 それは極めてロジカルなパートだよね。情緒的には同じなんだよ。

 誰だってお花見たらきれいだなって思うし。夕焼けみたら美しいと思うし。おんなじじゃん。

鏡:その……つまんない話かもしれないですが、

紀里谷:何をきみは恐れてるんだ?

鏡:……。

紀里谷:そこに行き着くんだよ。きみが何かをこわがってるんだよ。

鏡:僕は……。

紀里谷:踏み出すことにこわがってるんだよ。

(鏡、黙り込んでしまう)

(助太刀するように須田が話を続ける)

須田:でも、必ず人って誰かから評価されるわけじゃないですか。例えば映画監督をやっていらっしゃって、もちろん自分のつくるべきもの、つくりたいものをつくるっていう思いでつくってらっしゃるんじゃないかとは思いますけど、でも、これはこういう映画であるとか、こういうところがよくないとか、あるいはこのこの監督はここがいいみたいなこととかって、必ず誰かから評価されて。

紀里谷:もちろん。

須田:視聴者がいないと映画って成り立たないですよね?

紀里谷:もちろん。でもそのロジックでいったら、みんなヒットしてるよね。

須田:ああ(溜息)。どの映画もってことですか?

紀里谷:そうだよ。だってその価値基準でやったらヒットするということでしょ。何でヒットしないのかってことだよ、問題は。

 商品だって同じこと。いろんなオリンパスのカメラでも何でもいい。いろんなカメラをつくってる。みなさん優秀で、ユーザーからいわれたことをとりいれてやろうとする。マーケットリサーチもしっかりとやっている。人の評価を気にしてつくってるだろう。じゃあなぜ、なぜ100パーセント売れないのかって話だろう。なぜだろう?

須田:……自信がないから?

紀里谷:自分が好きなものつくってないからだよ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2407/13/news011.jpg 日本地図で「これまで“気温37度以上”を観測した都道府県」を赤く塗ったら…… 唯一の“意外な空白県”に「マジかよ」「転勤したい」
  2. /nl/articles/2407/08/news120.jpg 17歳がバイト代を注ぎ込み、購入したカメラで鳥を撮影したら…… 美しい1枚に写り込んだまさかの光景に「ヤバい」
  3. /nl/articles/2407/10/news171.jpg パパが押入れに作った秘密基地、4年後には…… 次第に2人娘に奪われていく過程に「最高」「コレは欲しい」 秘密基地の現在は?
  4. /nl/articles/2407/12/news027.jpg 沸騰したアメに金平糖を入れると…… 京都の製菓店が作った“斬新スイーツ”の完成形に「すごい発想」「夢みたい…」
  5. /nl/articles/2407/12/news151.jpg カインズの家電が使用中に発火…… 「ただちに使用中止」呼びかけ、約1万5000台回収 「心よりお詫び」
  6. /nl/articles/2407/12/news021.jpg お昼寝中の柴犬、すぐ近くに“招かれざる客”が現れ…… まさかの正体にワンコも驚き「初めて見たww」「世界よこれが日本の番犬だ」
  7. /nl/articles/2407/11/news032.jpg 「考えた人天才やろ」 ある地下鉄のホームドアに書かれた“マジで助かる表示”に「全駅でやるべき」など絶賛の声
  8. /nl/articles/2407/13/news076.jpg 大谷翔平の妻・真美子さん、レアな“動画登場”にネット歓喜 ドジャース夫人会の女子会に反響「溶け込んでる」「素敵な時間」
  9. /nl/articles/2407/12/news116.jpg GU、SNSで話題の「バレルレッグジーンズ」全店発売を延期 「予想を大幅に上回る売れ行き」で
  10. /nl/articles/2407/11/news117.jpg 丸山桂里奈、“元夫”との2ショットに「え!!」 成長した娘にも注目の声「もうこんなに大きくなって!!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「鬼すぎない?」 大正製薬の広告が“性差別”と物議…… 男女の“非対称性”に「昭和かな?」「時代にあってない」
  2. ヤマト運輸のLINEに「ありがとニャン」と返信したら…… “意外な機能”に「知らなかった」と驚き
  3. “性被害”描くも監督発言が物議の映画、公式サイトから“削除された一文”に「なぜ」「あまりにも……」
  4. イヌワシが捕えて飛ぶのはまさかの…… 自然の厳しさと営みに感動する姿が660万件表示「こんな鮮明に見えるのは初めて」
  5. 大好きな新聞屋さんに会えた柴犬、喜びを爆発させるが…… 切なすぎるお別れに「大好きがあふれてる」「帰りたくなくなっちゃいますね」
  6. 「爆笑した」 スイカを切ったら驚きの光景が……! 自信満々に収穫した夫婦を悲しみと失望がおそう
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 「ヒルナンデス!」で道を教えてくれた男性が「丁(てい)字路」と発言 出演者が笑う一幕にネットで批判続出
  9. 「ロンハー」有吉弘行のヤジに指摘の声「酷かった」「凄く悲しい言葉」 42歳タレントが涙浮かべる
  10. 東京の用水路にアマゾン川の生き物が大量発生だと……? “いてはいけないヤツ”の捕獲に衝撃「想像以上にヤバかった」「ホンマに罪深い」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 18÷0=? 小3の算数プリントが不可解な出題で物議「割れませんよね?」「“答えなし”では?」
  2. 日本人ならなぜかスラスラ読めてしまう字が“300万再生超え” 「輪ゴム」みたいなのに「カメラが引いたら一気に分かる」と感動の声
  3. 「最初から最後まで全ての瞬間がアウト」 Mrs. GREEN APPLE、コカ・コーラとのタイアップ曲に物議 「誰かこれを止める人いなかったのか」
  4. 「値段を三度見くらいした」 ハードオフに38万5000円で売っていた“予想外の商品”に思わず目を疑う
  5. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  6. かわいすぎる卓球女子の最新ショットが730万回表示の大反響 「だれや……この透明感あふれる卓球天使は」「AIじゃん」
  7. 「これはさすがに……」 キャッシュレス推進“ピクトグラム”コンクールに疑問の声相次ぐ…… 主催者の見解は
  8. 天皇皇后両陛下の英国訪問、カミラ王妃の“日本製バッグ”に注目 皇后陛下が贈ったもの
  9. 「この家おかしい」と投稿された“家の図面”が111万表示 本当ならばおそろしい“状態”に「パッと見だと気付けない」「なにこれ……」
  10. 和菓子屋の店主、バイトに難題“はさみ菊”を切らせてみたら…… 282万表示を集めた衝撃のセンスに「すごすぎんか」「天才!?」