3.11から10年――「動物たちを置いて逃げるしかなかった」 南三陸町が伝える震災の“記憶”と“未来”(2/4 ページ)
「逃げることで精いっぱい」だった
――震災当日の動物たちの様子について、何かお話を聞いたことはありますか?
私は実際、目にはしていませんが、被災された方からいくつかお話を聞いたことがあります。とはいえ正直なところ逃げることで精いっぱいで、みなさん動物のことを意識できなかったみたいです。
ただ最近ある方に聞いた話がありまして……南三陸町は田舎なので普段であれば鳥が普通に飛んでいたり鳴いていたりするはずなのに、震災当日はそれが一切なかったそうです。周囲が完全に静まり返っていて、生き物がいるかいないかもわからないような状況だったこと、鳥の鳴き声が何も聞こえなかったことが非常に印象に残っているとのことでした。
――動物には何か予感があったのかもしれないですね。
かもしれないですね。あとは実際に地震があったときに猫を飼っていた方もいらっしゃるのですが、震災のときパニックになって猫が行方不明になってしまって、呼んでも全然出てこなかったので置いて逃げるしかなかった……という話を聞きました。あとは、ご家族と一緒に津波に流されてしまった……といったお話はいくつも。
――2月13日にかなり大きな地震がありましたが、被害はありませんでしたか?
この町は震度4くらいで自宅の壁にかけていた時計が落ちてきましたが、特に大きな被害はありませんでした。ただ私の飼い猫は一瞬部屋のどこかに行ってしまいましたがそのうち戻ってきて、その後はずっと私にくっついたまま離れませんでした。
――被災した動物たちの現在の様子はお聞きになっていますか?
知り合いが被災したときから猫を飼い続けていましたが、残念ながらその猫は2020年に虹の橋を渡ってしまいました。当時のペットたちはもう年も年なので、当時いた動物たちがまだ生きていて――というのは正直なところ聞かないですね。ただみなさん震災の後に新たにペットを飼われたりはしています。あとは町中にカモシカがいます。
――カモシカですか!?
はい、カモシカやニホンジカは普通にいます。この町は“一度水が来ているところには住んではいけない”という決まりになっているので、住まいをみんな高台移転しています。その際に山を切り開いて高台を作り、そこに家を建てて住んでいるので、見えるところに野生の動物が来ることが多いですね。車で走っていてなんか気配がするな……と思ったらカモシカが山の斜面にいたりとか。
――カモシカは天然記念物ですよね。
この地ではごく普通に見かける動物で、イヌ・ネコ・カモシカみたいな感じでその辺にいます。それ以外の動物については今も特に変わらず……といった感じですね。
そこに何があったか、というのは今はもうわからない
――ちなみに浸水区域になってしまった場所は現在どうなっているのでしょうか。
“生業(なりわい)をすることは可能”なので、浸水区域になってしまった場所には工場やお店、商店街などが作られています。また、「震災遺構」として「南三陸さんさん商店街」という復興商店街や「南三陸町震災復興祈念公園」があります。
その祈念公園の中には「防災対策庁舎」という震災遺構があって、そこには震災当時のものがまだ残っています。他にも被災した駅や祈念公園とは別の公園が残っていて、それらは今後も残していくと聞いています。
――なるほど。将来のために意図的に残している物は今もあるけれど、それ以外のものは……。
はい。町の形は大分変わっているので、そこに何があったか、というのは今はもうわからないかもしれません。川沿いにあった道路は川から離すような形で設置しているので、当時歩いていた道はもう高台の下になってしまっています。
10年は実際に生活している者にとって何の区切りでもない
――『柴ばあと豆柴太』には実際のエピソードと重なる部分や、漫画の中で印象に残ったシーンなどはありましたか?
胸がぐっとなるシーンが多々ありました。特に誰かが亡くなるエピソードです。老いと孤独と病という現実に翻弄される主人公と、それを支える小さな命と周囲の人々。ご老人が主人公というのも少し珍しい印象ですが、これ自体も津波により本来主人公になるべき若い、次の世代が奪われてしまったことの象徴であるように感じました。
私の知り合いには、同じ場所にいた同僚を一瞬で30人以上失った方々がいます。漫画の登場人物の心情はうそや誇張でないことは理解できているつもりです。あらゆる感情を押し殺してその後の業務にあたられる姿は言葉になりませんでした。
――南三陸町の今後について、内木さんの思いをお聞かせください。
復興の状況からいうと住宅地もほぼ整備されましたし、国道などの道路工事も全部終わりました。残っているのは今さらながら一部最後の防潮堤や川の護岸工事で、最後にまとめて工事を行っているような状況です。
また世間では10年の区切りという言葉をよく耳にしますが、実際に生活している者にとっては何の区切りでもありません。そう思わされるほど、大切な人を亡くされた方の心は深く傷ついています。
こういう災害が起きても1人でも多くの方が助かるように、ぜひ私の町で起きたことを参考にして日々備えていただければと思います。
(了)
2021年で震災から10年。南三陸町に暮らす人々は、それぞれの思いを胸に抱きながら前向きに未来を見据え、力強く町を復興させてきました。あらためて災害について考えると同時に、コロナが収束した際は実際に足を運び、そこで一体何が起きたのか、そこで暮らす人々がどんな思いを持っているのか、自分の目と耳で確かめたいと思いました。
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