太った少年→巨大な少年 『チャーリーとチョコレート工場』から体形・性別・肌の色描写が削除 「検閲」と作家ら危険視
「全ての子どもたちに楽しんでもらえるように」と出版社側。
ジョニー・デップ主演の映画「チャーリーとチョコレート工場」原作などで知られる英作家ロアルド・ダールの著作に、“現代でも全ての人が楽しめるよう”変更が加えられました。出版社と著作権を有する会社によるもので、最新版では「太った」「醜い」「狂った」といった多くの言葉が変更されており、作家らはこれに「ばかげた検閲」などと危険性を訴えています。
英The Telegraph紙は2月17日、著作の出版社「パフィン・ブックス」と、著作権を有する「ロアルド・ダール物語社」による変更を大々的にレポート。例えば、「太った(fat)」「狂った(crazy)」「醜い(ugly)」といった言葉は削除されるか変更され、「チャーリーとチョコレート工場」に登場する食いしん坊のオーガスタクス・グループは「とても太った9歳の少年」の代わりに「巨大な9歳の少年」と形容されるようになりました。
さらに顔について「怪物のような」という表現は削除され、かつて仏領であったインドの地名「ポンディチェリー」を名に持つ王子は、フランス語の「ポンディチェリー王子」から現地タミル語の「プドゥッチェーリ王子」へと変更。彼について「まともじゃない」など、やゆするような会話も削除されています。
また、同作に登場するウンパ・ルンパは「小さな男」から「小さな人」へ、同じくダール作の児童小説『アッホ夫婦』では「紳士淑女の皆さん」が「皆さん」へと、性別を指定するような単語は著作全体で変更。さらに『おばけ桃の冒険』に登場するミミズの肌は「愛らしい桃色の」から「愛らしい滑らかな」と変更されるなど、肌の色に言及する表現も大幅に編集されています。
1990年に亡くなったロアルドは生前、反ユダヤ、女性差別、人種差別などの発言があったと指摘されており、それを受けて彼の家族は2020年に謝罪文を発表しています。今回の編集はパフィン・ブックスとロアルド・ダール物語社が、児童文学における平等や多様性を専門とする組織「Inclusive Minds」と共同で行ったとのこと。何年も前に書かれた同作が「こんにちでも全ての子どもたちに楽しんでもらえるように」言葉の見直しをしたとしています。
今回の編集に、インド生まれのイギリス系米作家サルマン・ラシュディはTwitter上で「ロアルド・ダールは天使ではなかった」と生前の言動に偏りがあったと認めながらも、「しかしこれは、ばかげたな検閲だ。パフィン・ブックスとロアルド・ダール物語社は恥じるべき」と批判しています。
また、文学と人権の中間で表現の自由を守るとする非営利団体PEN Americaの代表スザンヌ・ノッセルは、優れた児童文学を全ての子どもたちが同じように楽しめるようにという動機は理解できるとしながらも、「文学作品を特定の感性に合わせるための選択的編集は危険な新兵器になりうる」と指摘。これらの編集には制限がなく「最初はこことあそこの単語を入れ替えたいと思っただけだったのに、結局は全く新しいアイデアを挿入してしまうことになる」と危険性を予見しており、これは今回ロアルド作品にも行われたとしています。「文学は驚きや刺激を与えるもの」であり、さらに「不快な言葉を排除することで物語の力を弱めてしまう」と述べ、排除するよりもこれらが書かれた背景や歴史について学ぶべきだと主張しています。
やはりロアルド原作で映画化され2021年に公開された「魔女がいっぱい」では、主演の米俳優アン・ハサウェイ演じる魔女に指が3本しかなかったり口が裂けたりといった身体表現に批判が集中。生まれつき指がない人への偏見を生むとする抗議に、アンは「心から多様性を尊重し合うことを信じ、残酷さを憎む人間として、皆さんに与えてしまった痛みを謝りたい」と謝罪しました。
同じく時代に合わせてた多様性を重んじるよう変化していく例として、米ディズニーランドでは、2020年からアトラクション「スプラッシュマウンテン」に黒人への差別的要素があるとして「プリンセスと魔法のキス」にテーマ変更。また2022年には「イッツ・ア・スモール・ワールド」内で「多様性をより正確に表現するため」と車いすに乗った子どものキャラクターを追加。東京ディズニーランドでも2021年からアトラクションでゲストへの呼びかけに性別を指定しないといった変更をしています。
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3日に「表現の不自由展・その後」の中止が発表されていました。
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