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何もかも終わっちゃった世界にふたりぼっち 異色の“終末”日常マンガ「少女終末旅行」虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第36回

静かで落ち着いた終末世界。「世界崩壊」や「廃墟」といったキーワードに反応した人はぜひ!

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 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。現在冬コミに向けて必死でスクリーントーンを貼っている虚構新聞の社主UKです。今回初めてマンガ原稿作りに取りかかっているのですが、自分で実際に描いてみて、しみじみと漫画家さんを尊敬している次第です。

 今週は「ダ・ヴィンチ」の「コミックランキングTOP50」や「このマンガがすごい! 2015」など、この1年をしめくくるマンガのランキング企画が続々と発表され、いよいよ年末感が漂ってきました。ここで挙がってきた数々の作品について社主として思うところはいろいろありますが、それはさておき本連載でも昨年と同じく、次回は「「このマンガがすごい!」にランクインしなかったけどすごい! 2015」をお届けする予定ですのでお楽しみに!(昨年の記事はこちら

 そんなわけで個別の作品を紹介するのは年内ではこれが最後。前回紹介した残念女子・枝垂ほたるさんが活躍するハイテンション駄菓子マンガ「だがしかし」とは打って変わって、今回は静かな冬の夜にしっとり読んでいただきたい作品をご紹介。

 Webサイト「くらげバンチ」にて連載中、つくみず先生の「少女終末旅行」(〜1巻、以下続刊/新潮社)です。



何もない終末世界を、たったふたりでさまよい歩く

画像 真っ暗な廃墟の中を走るユーリとチト。ここは何の施設だったのか……

 暗闇に覆われたプラント施設のような廃墟内をガラガラと走り抜けるキャタピラ式オートバイ・ケッテンクラート。それに乗っているのはヘルメットにコート姿の2人の少女、ユーリとチト。

 ケッテンクラートを運転するチトは現実主義的で冷静。それに対してユーリの方は楽観的でアホっぽ……いや本能のままに生きるといったタイプ。まるで正反対な性格の2人ですが、お互いがお互いを補い合って上手くやっているようです。

 「どうなるんだろうね、私たち」と話しながら、出口を求めてあてどなくケッテンクラートを走らせ続ける2人。建物の中からわずかに吹いてきた風を頼りに何とか外までたどり着きます。

 やっと出てこられた2人の眼前に広がるのは雪が深々降り積もる瓦礫ばかりの終末世界――。しかしこの文明が崩壊してしまった景色には、どういうわけか不安感や絶望感はありません。むしろ大みそかの夜、除夜の鐘を聴いているときのような妙に静かで落ち着いた心地すら感じられます。

 本作「少女終末旅行」は、主人公の少女ユーリとチトがこの何もない終末世界をふたりぼっちで、これといった目的もなくさまよい歩く、そんな静かなマンガです。



恐怖感や悲壮感のない、モノクロームな終末描写

画像 どこかのんびりと描かれる終末世界

 ここまで読んで「これ、本当におもしろいの?」と思う人もいるかもしれません。確かに100人中100人が興奮できるタイプの作品ではありませんが、「世界崩壊」や「廃墟」と言ったキーワードにアンテナがビリビリ反応するタイプの人にとっては絶対に損をさせない作品だと断言します! 終末アンテナを備えた社主もまたウェブ連載時から単行本の発売を心待ちにしていた1人です。

 ノストラダムスもとっくのとうに空振り、かつて「世紀末もの」「終末もの」が必ずと言っていいほど伴っていた「恐怖」「絶望」というものに大したリアリティを感じられなくなってしまった昨今。けれど本作のように恐怖感や悲壮感のないモノクロームな終末世界の方にこそ、社主は魅力を感じてしまいます。

 戦うべき敵もいない、迫り来る脅威も(もはや)ない、葛藤や苦悩もない、そして世界に自分たちしか存在しない――。そんな本作は、「女子高」などとは舞台こそ違えど箱庭的な日常系マンガの一形態なのかもしれません。いや、ひょっとすると日常系マンガの方こそが“何もかもが終わってしまった”終末世界の一形態なのかもしれません。

 社主がまだマンガにハマる以前の読書青年だった頃、たくさん読んだ小説の中でも村上春樹氏の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」は大好きな作品の1つでした。その後この小説に着想を得たと言われるアニメ「灰羽連盟」、またこれと同時期にプレイしたゲーム「ICO」に触れたことが、心の原風景として今も強く残っていて、本作「少女終末旅行」にもこれらの作品と同様の空気が感じられるのです。ここで挙げた作品が好きな人にはぜひ読んでほしいですし、逆に本作が気に入った人にはこれら小説、アニメにも触れてみてほしいです。

 天気予報によると、明日明後日は全国的にとても寒くなるとのこと。雪が降る地域も多いということで、まさに少女終末旅行にうってつけの終末、いや週末と言えるかもしれません。

 雪の降る夜、窓の外の世界を終末世界と重ね合わせながら、ユーリとチト、そして彼女たちの日常に思いをはせてみてはいかがでしょうか。うん、いい作品すぎてしんみりしてしまったので、今日は特にオチもありません。

 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。


(C)つくみず 2014/新潮社


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