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“四者四様”の恋愛模様が奇跡の連鎖を起こす オムニバスマンガ「今日の恋のダイヤ」の秀逸な構成にうなった虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第29回

月が変わって、季節はもう秋ですねえ。女心と秋の空……そんなわけで女心をテーマにした大人向けのマンガをご紹介します。

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 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。

 夏休みも終わり、9月最初の本連載ですが、実は今これ締め切り前日の8月31日に、いい歳して半泣きになりながらPCのキーを叩いております。読者のみなさまにおかれましては、くれぐれもこんな大人にならないでほしいなと願う今日この頃です。

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 さて、月が変わって、季節はもう秋。社主室からふと外を眺めてみると、窓の外には入道雲ではなくていわし雲が。女心と秋の空……どちらも移ろいやすいものの例えとして使われることわざですが、今回は秋らしく「女心」をテーマに、少し大人向けの作品を取り上げます。

 紹介するのは草川為(くさかわ・なり)先生の連作オムニバス「今日の恋のダイヤ」(全1巻)。掲載誌の「AneLaLa」は「オトナガールに送る特別増刊」という位置付けだけあって、本作に登場する4人の女性が体験する恋愛は、仕事との両立、はたまた結婚という要素がからんできます。

 前回取り上げた中学生の男女の物語「からかい上手の高木さん」を読んでは照れながら床を転げまわっている社主にとって、ほとんど未知の世界の恋愛観ではありますが、“四者四様”の恋愛模様がとても面白かったので、ぜひ読んでみてほしいと思った次第です。

女性は怖い? 三角関係で敗色濃厚……でも

 「今日の恋のダイヤ」収録作は「楡原(にれはら)の場合 苦い恋」「鈴懸(すずかけ)の場合 恋の三角関係」「栃木の場合 遠距離恋愛」「菩提の場合 卒業旅行」の全4編。この中から今回は社主が最も気に入った「鈴懸の場合 恋の三角関係」を簡単にご紹介。

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“四者四様”の恋愛模様を楽しめます

 主人公・鈴懸ふじのはその名前と雰囲気から「武士」とあだ名される、かわいさとは無縁の女性。そんな彼女と、同じ会社の先輩で女子からの人気が高い一宮さん、そして鈴懸さんとは真逆に女子力を凝縮したような「社内のかわいい代表」同期の豊川さんの3人は1泊2日の出張旅行に出かけます。

 さてこの3人、副題にもあるように一宮さんをめぐって旅行中、鈴懸さん VS 豊川さんの三角関係が出来上がっているわけですが、どう考えても鈴懸さんは不利な状況。一宮さんに淡い恋心を抱いても、せいぜい眼鏡をやめてコンタクトにするくらいしか自分を変えられず、そのうえ社内で「眼光が冴えて武士らしさが際立ったよ」としか言ってもらえない、そしてそう言われても否定せず、ただ「どうも」とだけ答える鈴懸さんがどうして太刀打ちできましょう。

 さらに旅行中、陰に陽にじわじわと一宮さんの攻略を図る豊川さん。そして旅行の晩、旅館で鈴懸さんに言い放った

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女性ってこわい……
「女を全く演出できないなんて
私に言わせれば
恋愛の舞台から降りててほしい」
 

 という直言。男のあずかり知らぬところで起きているこういうやりとりを見るにつけ、いつも「女性ってこわいな」などと思います。でもこういうやりとりに勝てない、いわば恋愛に不器用な女性の方が好きだな……と思ったりもします(*個人の感想です)。

 こと恋愛に関してはバッサリと斬られてしまった武士の鈴懸さん。どうにも敗色濃厚ですが、果たして彼女の淡い恋は実るのか。それとも豊川さんの圧倒的な女子力を前に討ち死にしてしまうのか。何とも武士らしい潔い結末はぜひ実際にご覧ください。

4つの短編が奇跡の連鎖

 さてこの「今日の恋のダイヤ」、単なる大人の恋愛短編集だったなら、ここで取り上げはしなかったでしょう。もちろん1つ1つの短編の出来栄えも素敵なのですが、連作集としての構成が実に上手いのです。

 本作に登場する4人の女性はそれぞれ直接には見知らぬ関係なのですが、実は4人とも同じ空港の同じ時間軸で関わりあっていて、しかもこの彼女たちの偶然のつながりこそが、それぞれが直面している恋愛の決断への最後の一押しになっているのです。

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武士が覚悟を決めた瞬間……!

 さっき紹介した鈴懸さん最後の決断には、実は他の短編の主人公との偶然の出会いが関わっていて、そしてまたその鈴懸さんの行動が他の主人公の恋愛にも影響して……という奇跡の連鎖によって、それぞれの短編が複雑に絡み合い、全体として1つのまとまった作品として仕上がっているという秀逸な構成。もともと社主はこういう仕掛けの連作短編集が大好きなのですが、ここまで構成が見事なオムニバスは久々に読みました。また巻末にある描き下ろしの回転寿司エピローグも、各短編の主人公の「らしさ」がにじみ出た、まるで食後のデザートのように添えられたほほえましいエピソードで、最後の最後まで満足できる読後感でした。

 さて、冒頭「女心と秋の空」ということを書きましたが、本作に登場する彼女たちに限って言えば、どうもこの言葉は当てはまらなさそうです。もちろんその過程において、自分に自信を無くしたり、相手を疑ったり、そんな揺れ動く女心は描かれていますが、好きな人を想う気持ちだけは決してブレない、芯のしっかりした魅力的な女性ばかりです。

 誰が「女心と秋の空」なんて言葉を作ったのかは知りませんが、世の中にはこういう女性もいることを、このことわざの作者は学ぶべきだったのではないか――と、マンガに出てくる女性だけなら山ほど知っている社主として少し苦言を呈しておきます。と言うか、この人女性に対して何か嫌な思い出でもあったんじゃないの。

 ちなみに世の中には「男心と秋の空」という言葉もありまして、1クールごとに嫁をとっかえひっかえしている野郎どもの方こそ何とかしろ――と、長らく「ひまわりさん」一筋の社主として、こちらにも少し苦言を呈しておきます。

 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

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