アニメに出会ってロシアから日本へ ロシア人声優・ジェーニャさんインタビュー:海外オタク見聞録
ロシアよりアニメに愛をこめて(Из России с любовью к аниме.)。
これまで海外からやってきたさまざまな人を紹介してきた本コラム「海外オタク見聞録」に、ついにロシア人声優・ジェーニャさんの登場です。
日本で声優、歌手、タレントとして活動しているジェーニャさん。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」に声優として出演したり、押井守総監督の「THE NEXT GENERATION -パトレイバー」にロシア語監修として参加するなど多方面で活躍しています。日本のアニメが好きでロシアからやってきて、日本で活動するようになって今年で10周年を迎えました。
ジェーニャさんが日本に興味を持ったのは、ロシアで放送されていた「美少女戦士セーラームーン」を見たことがきっかけ。吹き替えではなく、もとの映像にロシア語をかぶせるボイスオーバーで放送されていました。そこから聞こえてくる日本語の響きにとても興味を持ち、ロシアで日本語の教室に3年間通ったそう。
日本人にとってはロシア語はかっこよく聞こえ、筆者もそれで高校時代にロシア語を学びました。今思い返すと完全な中二病でしたが、ジェーニャさんにとっては日本語がそうだったと話します。「私からは日本語がとてもかっこよかったんです。人と違うものを学びたい、ということでは私もそう(中二病)でした」(ジェーニャさん)。
ジェーニャさんは来日前の2000年ごろから「秋葉いつき」の名前でWebで日本のアニメや文化を紹介していました。それまでロシアではアニメは男の子のものというイメージが強かった中で、女の子にもなじみやすい日本のかわいいアニメや文化を紹介して、「かわいい」という言葉をロシア語に流行させました。またアニソンをロシア語に翻訳して歌ったり、日本語で歌って音声をアップしていました。
こうした活動が2ちゃんねるなどで話題となり、テレビ局の取材として2002年に日本に招待されました。その後2005年に日本に移住し、プロを目指して本格的な活動を開始することに。
来日前から日本語でブログをつづり、アニソンを日本語で歌うなど日本語が堪能だったジェーニャさん。来日してからは独学でさらに磨きをかけています。語学が得意だったことに加え、「本当に日本に行きたいという強い願望があった」という情熱が日本語をマスターできた原動力と話しています。「声優になるのが夢だったので完璧を目指しています」と向上心はとどまるところを知りません。
そしてついに「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」(2009年)のオペレーター役で声優デビューを果たします。「翻訳家の兼光ダニエル真さんの紹介で役がいただけました。知らせを聞いた時は信じられませんでした、大ファンだったエヴァンゲリオンにまさか自分が参加できるなんて。そしてそれが声優としての初仕事になるなんて」
エヴァと言えば、大好きだったセーラームーン役の三石琴乃(葛城ミサト)さんも出演しています。残念ながら収録で三石さんと会う機会はなかったそうですが、エヴァに参加できたことがとてもうれしかったとジェーニャさんは語ります。
声優だけでなく、ロシア語監修の立場で作品に携わることも。「ラストエグザイル-銀翼のファム」(2011年10月〜)や、実写映画「THE NEXT GENERATION -パトレイバー」(2014年)にも参加しています。
「ラストエグザイル」では、ウィオラ(ジェーニャ)とディアン(ゆかな)が架空のグラキエス語で会話していましたが、グラキエス語は実はロシア語。日本人の話すロシア語としてはとても自然に聞こえました。ジェーニャさんが日本語の台詞をロシア語に翻訳して稽古用のボイスサンプルを作り、ゆかなさんに猛特訓してもらったのだそう。「もともと英語ができるゆかなさんだったので、少し英語なまりのロシア語になっていますが、とても努力していただいた結果です」
「THE NEXT GENERATION -パトレイバー」でも、作中に出てくるロシア語の表記、セリフなどすべて翻訳し、日本人俳優向けにボイスサンプルを作成。またジェーニャさんがロシアから取り寄せた小道具なども撮影に使われました。ロシアからの研修生・カーシャ役の太田莉菜さんは、お母さまがロシア人で家ではロシア語で話しているため、セリフの細かな修正くらいで済んだとのこと。
こうした声優・ロシア語監修のほか、4月からはNHKの海外向けラジオNHK Worldで、ロシア向けにジェーニャさんの日本語講座が始まります。これまでの道のりは順調というわけではなく、ロシア人役を取れなくて悔しい思いをしたこともあるというジェーニャさん。それでもがんばり続け、少し上向いてきたといいます。この10年間を振り返ってこう語ってくれました。
「4月からテレビアニメ『怪盗ジョーカー』の2期も始まり、私が演じているレディダウト(が活躍する)回もあります。これまで仕事の波が大きくてつらいこともありましたが、昨年から少し上向いてきてこれからが楽しみです」
10周年記念ライブでは、1月に亡くなったロシア人歌手Origaさんをしのんで「Inner Universe」(Origaさんが歌っていた「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」の主題歌)を熱唱。アニメなどでロシア人が登場することも多くなってきており、日本語・ロシア語・英語を操るジェーニャさんにはパトレイバーの押井守総監督も注目しています。ロシアと日本の架け橋になりたいという彼女のこれからの活躍に期待しましょう。
(松岡洋)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 海外オタク見聞録:サウジアラビア人が描いた日本風マンガも! アラブのマンガ事情
戒律が厳しいイメージのあるアラブの国々。規制もありますが、そうした中でマンガやアニメを楽しんでいるファンも。 - 海外オタク見聞録:庵野秀明監督へのあふれる愛 東京国際映画祭に海外コスプレイヤー集結
東京国際映画祭と世界コスプレサミットがコラボ。特集上映「庵野秀明の世界」の応援に海外のコスプレイヤーが集まりました。 - 海外オタク見聞録:“嫁”の立て看板と旅する海外のオタク男性が再び来日 今やロンドンのラブライバー
「狼と香辛料」のホロの立て看板と旅していた男性が、再び日本へやってきました。ラブライブ!に夢中なようですよ。 - 海外オタク見聞録:海外の若者に浸透するボカロ・アニメ――ファン交流活動「みらいのねいろ」主宰に聞く
VOCALOIDを海外に紹介するファン交流プロジェクト「みらいのねいろ」主宰に、現地で見た日本のコンテンツの人気について聞いてみました。 - 海外オタク見聞録:クウェートのオタク事情は? うわさの“コミケの石油王”とアキバの休日してきた
「湾岸諸国で一番濃いオタク」国家・クウェートからコミケにやってきて石油王と騒がれたアクバルさんにインタビューしました。 - 海外オタク見聞録:日本に「モテ期」がやってきた? 「ジャパン・パッシング」でも留学生がやってくる理由
「ジャパン・パッシング」でも日本への留学生は増えています。ゲームやアニメが海外から学生を引きつけ、日本に「モテ期」をもたらしているようです。 - 海外オタク見聞録:2次元の“嫁”と世界を旅する――君は「プロジェクト・ホロ」を知っているか?
今年初め、「狼と香辛料」のホロの立て看板と旅をする海外のアニメファンが話題になった。そんなアツいオタクが東京にやってきたので話を聞いてきた。 - 海外オタク見聞録:ドイツ語圏の人たちが日本のアニソンを流ちょうに歌うワケは?
YouTubeでドイツ語圏の人たちがアニソンやボカロ曲を日本語で流ちょうに歌っているのを見ますが、日本語とドイツ語は実は音が近いようです。 - 海外オタク見聞録:イタリア人オタクのコスプレ好きは異常?
日本でコスプレしてる外国人の多くはイタリア人。彼らにとってコスプレの総本山である日本への“巡礼”は重要なようです。