浮世絵といえば、江戸時代に当時の風俗を描いた風俗画である。東洲斎写楽の「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」や葛飾北斎の「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」などの有名な作品は、どこかで一度は見かけたことはあるだろう。その浮世絵を題材にしたGIFアニメーションが日本のみならず世界で話題となっている。そこで、作成者の映像クリエイター・瀬川三十七(せがわさんじゅうしち)氏から作品についてお話をうかがった。
瀬川氏は映像製作を中心に活動をしているクリエイター、実写の映像が中心でアニメーションは専門外だという。しかし、浮世絵アニメーションができたキッカケは、ある実写映像の仕事であった。
「2年前に舞台の仕事でアニメーションを舞台の背景に流すことになったんです。その時に作成したものが浮世絵でした。その仕事が終わると作成したアニメーションはパソコンのなかに保存しておいたのです」(瀬川氏)
そのまま月日は流れ2015年、Twitterの“仕様”が変わったことで、眠っていた浮世絵が世界に拡散されることになる。
「つい3カ月前ほどでしょうか、ツイッターで貼った動画が、その画面をクリック(タップ)しなくても自動再生されるようになったんです。その時に『あっ、だったら昔作った浮世絵のアニメーションを投稿すれば、たくさんの人がみてくれるのでは……』と直感的に思い、手直ししてアップしてみたんです。そうしたら、瞬く間にリツイート数が5000以上に。想像以上の反響にびっくりしましたね。今までこんなことはなったのに(笑)」(瀬川氏)
と、思いつきでリメイクした浮世絵アニメーションの人気に、ビックリの瀬川氏。
とうとう日本のメディアから取材の連絡が入り、さらにそれは海外にまでわたった。はじめての海外取材はイギリスのあるメディアからだったという。
「浮世絵アニメーション作品の一つ、葛飾北斎の富嶽三十六景・神奈川沖浪裏を題材にした『翻弄』についてコメントがほしいとの内容でした。他にもいくつか海外から取材を受けましたが、外国の方はこの作品について必ず質問をしてきますよ。やはり海外では富士山を題材にしたこの浮世絵が有名なのでしょう」(瀬川氏)
しかし、日本ではそういったポピュラーな作品が動くことよりも、想像のつかないものが登場する作品の方に反響があるという。
「富嶽三十六景・東海道吉田を見ていた時『あっ、この空いているスペースに新幹線を走らせたらおもしろいかも!』、こう思ったんです。実際にアップしてみたら、皆さんのウケが非常に良かったのでそれをキッカケに“おもしろ作品”も意識して作成しはじめました。浮世絵を見慣れている日本人の方は、絵のなかにまったく作品と関係ない“異物”の登場に楽しさを感じたのでしょう」(瀬川氏)
日本と海外では作製意図の方向性によっての好みが分かれるようだ。
今後、どのような作品を展開していくのかたずねたところ、今までのテイストと違ったものを作っていくと説明してくれた。
「今までは『風景』や『物体』にフィーチャーをしてきました。これからは、人の表情など人物に焦点を当てた作品を作っていきたいですね」(瀬川氏)
実はすでに東洲斎写楽「三世大谷鬼次の奴江戸兵衛」を題材にした作品が、Twitterで公開されている。写楽が描いた役者の顔芸が、テレビのコントなどでおなじみのアノ道具によってさらにパワーアップした顔芸へと変貌を遂げる内容となっているので、ぜひチェックしてほしい。
「動く浮世絵」は日本に古くからある伝統文化を、このような形で発表することで、オリジナルとは異なる感性で作品を楽しめるのが特徴だ。動画になるからこそ、絵のなかに登場する自然や人物のディテールが強調され、静止画とは違った面白さが発見できる。日本の伝統文化と現代の技術をコラボする作品がこの他にも生まれてくれば、新たな発見や楽しさをさらに見つけることができるはずだ。
(隈崎大樹/LOCOMO&COMO)
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