今年日本を訪れる訪日客は前年比で1.5倍に増えていますが、秋葉原を訪れる外国人はさらに激増中で、カメラで街並みを撮影する姿を多く見かけます。子どものころに日本のアニメに夢中になった人たちが働くようになり、日本を訪れた際に秋葉原へ、というのもその一因のようです。
その一方で、取引先が来日して秋葉原の案内を頼まれたものの、案内する側が秋葉原やアニメなどに詳しくないために困ったということを10年ほど前からよく耳にしていました。つい最近も「来日した方がアニメ好きなんですが、自分は詳しくないのでどこを案内したら分からない」と相談を受けました。出張で来ている場合はゆっくり見て回る時間が取れないこともあります。今回はこのような場合に向けた案内コースを2つ紹介したいと思います。
ひとつは秋葉原を中心とした半日コース、もうひとつはJR中央線とこれに並行して杉並区を横断する青梅街道で、こちらは1日コースとなります。
秋葉原コース
どこを案内すべきか迷った場合に真っ先にお勧めできるのが、一般社団法人日本動画協会(以下動画協会)が運営する「東京アニメセンター」(秋葉原UDXビル4階)です。さまざまなアニメ作品の展示を入れ替えで行っているほか、加盟するアニメスタジオ各社の資料集やグッズなども販売しています。日本各地に散らばるアニメ関連の施設についての情報もそろっており、アニメに詳しくない人にとっても参考にもなるでしょう。
さらにUDXの2階にはアニメセンターのショップがあり、こちらでもアニメ関連商品や英語版の秋葉原マップを常備しています。UDXにはAKIBA ICHIというレストラン街もありますが、UDXと秋葉原駅の間にバンダイが運営するGUNDAM CAFEがあり、ここでのランチも記念になるでしょう。
ランチの後は秋葉原駅を通過して秋葉原のランドマークともいえるラジオ会館へ。ここには日本を代表する造形会社「海洋堂」、ドールのボークスやAZONなど日本の造形メーカーが一堂に会しており、これらの作品を堪能できます。また意外なことに秋葉原には銀行のATMが少ないのですが、ラジオ会館にはみずほ銀行のATMのほかにサンクス店内にもATMが設置されているので、買い物でお金が足りなくなったときに補給できます。
ラジオ会館からそのまま中央通りに出るよりも、いったん総武線高架下に入りましょう。ここには電子部品を扱う小さな商店が集まっており、この場所こそが秋葉原電気街の発祥の地なのです。
中央通りは日曜日になると歩行者天国となり、神田明神通りとの交差点に位置する「ベルサール秋葉原(通称「ベルばら」)」ではアニメやゲームなどのイベントが頻繁に催されており、NHKも毎年この場所でテレビとラジオの公開収録を行っています。運がよければこれらのイベントを見学することができます。
中央通りの両脇にはかつては家電製品を扱う店が並んでいたのですが、現在ではそれも少なくなり、代わりに「とらのあな」やアニメイト、ゲームセンターなど様変わりし、現在の秋葉原の顔となっています。
ベルばらの裏側には黒いビルが目印の「まんだらけ」があり、マニアックな商品を探している人はここを案内してみましょう。さらにここを起点として2本の路地が中央通りと並行に走っており、中央通寄りがパソコン関連のパーツを扱う商店が集まるため通称「パーツ通り」、もう1本がさまざまな中古電子部品などを扱うジャンク屋の集まる「ジャンク通り」と呼ばれています。もしも案内する相手がコンピュータ関係であればパーツ通りをのぞいてみるのもよいでしょう。
パーツ通りを進むと、アニソン歌手「黒崎真音」やでんぱ組.incを輩出したライブバー「DEARSTAGE」があり、さらに進んだ先のガチャポン会館の上には日本最初の常設メイド喫茶「CURE MAID(キュアメイド)」があります。ここはアニメ「ラブライブ!」にも登場しています。
さらにこの周辺はアニメ「STEINS;GATE」に頻繁に登場しており、昌平橋通りと蔵前通りの交差点近くの「Cafe Mai:lish(メイリッシュ)」はSTEINS;GATEの舞台となっています。キュアメイドもメイリッシュも落ち着いた雰囲気で、それぞれのアニメのファンであれば必須の場所です。さらに「ラブライブ!」の舞台となった神田明神にも足を延ばしてはいかがでしょうか?
ガイド例
案内したのは、米国のVR関連ベンチャー企業AltspaceVRのエンジニアのソヘールさん。夕方から1カ所視察とVR関係の技術交流会があり、それまでの数時間を秋葉原案内に充てました。
最初に訪れた東京アニメセンターでは、「空戦魔導士候補生の教官」の原画や設定資料が展示されていました。初めてアニメに設定資料があることを知ったソヘールさん、早速自分や友人の好きな作品の設定資料集を探しに秋葉原散策を始めました。
先の秋葉原コースとは逆コースで中古ショップ(英語ではSecond hand shop)でドラゴンボールなどのフィギュアを買い求め、武具のレプリカを扱う「武装商店」を見学したりと秋葉原を一巡りしました。
ソヘールさんは「ONE PIECE」の大ファン。制作している東映アニメーション(練馬区大泉学園)には一般客も見学できるギャラリーが併設されているのですが、現在建て替えのため見学できず残念がっていました。
出会ったときにはソヘールさんのキャリーバッグは空っぽでしたが、秋葉原を一周した時には入りきらないほどのお宝を手に入れていました。
JR中央線・青梅街道コース
アジア圏や欧州圏からやってくる方は幅広いジャンルを見ている濃い目のオタクが多く、このような人の場合、アニメの舞台となった場所への聖地巡礼がおすすめです。
杉並区にはアニメスタジオが集中しているため、スタジオ周辺がアニメの舞台として多く登場します。サテライト(「マクロス」「アクエリオン」)やA-1 pictures(「アイドルマスター」シリーズなど)の最寄りの阿佐ヶ谷駅およびその周辺はこれらの作品に多数登場しています。
また杉並区、武蔵野市、三鷹市、小金井市を貫くJR中央線には、カラー(「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」)、PRODUCTION I.G(「攻殻機動隊」「PSYCHO-PASS」)、スタジオジブリなどそうそうたるアニメスタジオが並びます。訪日客に大人気のジブリ美術館(三鷹市)もありますが、こちらは日時指定の予約制となっているので注意。
ほかにもアニメに関する展示や映像上映などを行っている「杉並アニメーションミュージアム」(杉並区荻窪)や、アニメ会社の経営する飲食店「ufotable cafe」(中野区)、「武蔵野カンプス」(三鷹、PRODUCTION I.G社屋に併設されたピザレストラン)があります。杉並アニメーションミュージアムや武蔵野カンプスの店内にはアニメ関係者のサインや落書きなどがあり、アニメスタジオに近い雰囲気が味わえます。
最近はハリウッドの映画スタジオ巡りのようにアニメスタジオ巡りする人もいます。アニメスタジオ内部を見学することはできませんが、そのような人には杉並区を横断する青梅街道の散策コースをおすすめします。
JR中央線の高円寺で降りて青梅街道まで歩くとMADHOUSE(「ワンパンマン」「寄生獣」など)、さらに阿佐ヶ谷方向に進むと杉並警察署手前にA-1 picturesがあり、ここから地下鉄丸ノ内線で荻窪まで行くと、駅前のビルにTRIGGER(「キルラキル」「リトルウィッチアカデミア」)、三次元(「蒼き鋼のアルペジオ」)があり、そこからバスで荻窪警察署前まで乗れば杉並アニメーションミュージアムへ行けます。
杉並アニメーションミュージアムから徒歩15分でアクタス(「ガールズ&パンツアー」)があります。アクタスが入居しているビルはアニメ「SHIROBAKO」に登場する武蔵野アニメーションのモデルになっています。
荻窪駅からJRで三鷹へ行き、ジブリ美術館を散策したのち、駅の反対側にある武蔵野カンプスで夕食がおすすめです。
注:アニメの舞台やスタジオなどは本来観光する場所ではないため、節度を持って見学しましょう。
ガイド例
案内したのはイギリスからやってきた、来日5回目となるファブリスさん(以前、「オオカミと香辛料」ホロの立て看板と一緒に世界を巡っていました:関連記事)。すでにさまざまな場所を聖地巡礼しているので、ガイドはかなり上級者向けの濃い目の内容になりました。
めぐったのは秋葉原や杉並のまだ訪れていない場所。秋葉原では「ラブライブ!」で一瞬だけ写った場所や登場人物の実家とされる場所やキュアメイドに案内すると、実在するとは思っていなかったそうで大喜びでした。
アイドルマスターの765プロ事務所のモデルとされるビルが杉並にあり、秋葉原から30分ほどで行けるから、このビルと杉並のアニメスタジオを見学することに。このビルも青梅街道沿いにあり、アニメのシーンと見比べながら記念撮影していました。
ファブリスさんは来日するたびにこれらのアニメスタジオを訪れています。中央沿いにスタジオが集中していることから、「中央線をJRアニメラインと呼ぶ」ことを力説していました。
ファブリスさんが2012年に来日した時の為替レートは80円(対ドル)でしたが、この間に円安が進み120円(対ドル)に、しかも現在住んでいる英国では日本からの輸入品には25%の関税がかかるため、彼にとっての日本は買い物天国になっていたのです。
日本に住んでいると気が付きませんが、関税と円安が海外のオタクを引き寄せる強力な動機になっていたのですね。さらに秋葉原は彼にとっては宝島に来たようなものなので、帰りの成田空港では持ち込み荷物の重量を大幅に超過するほど買い込んでいました。
アニメが日本語を覚えたりさまざまな日本文化への入り口となっている今、スタジオを案内しながらどんな人たちが作っているのか感じ、理解を深めてもっと好きになってもらう、そんな巡礼も日本を訪れた方たちにとってはひと味違った思い出深いものになるでしょう。
取材協力:一般社団法人日本動画協会
(松岡洋)
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