須田剛一×コミックビーム 異端と異端のコラボが産んだ「暗闇ダンス」は“狂人の作ったテーマパーク”:須田剛一・奥村勝彦インタビュー(3/3 ページ)
「暗闇ダンス」第1巻発売を記念して、原作者・須田剛一さんと、コミックビーム・奥村勝彦“編集総長”にお話を聞きました。
「これマズいぜ」という危機感
奥村 カフカの「城」もそうなんだけど、もう1つ、“狂人が作ったテーマパーク”というのがあったら面白れぇぜ、みたいなところも出発点なのね。そういうのがあったらオレら、金払っても行くよねと。そりゃ浦安には完璧なテーマパークがあるけどさ、そういうのとは違う。
須田 子どもお断りの。
奥村 大人が見に行って「おおっ!」みたいなのをね。まだ今は本当に入り口なんで、これからどんどんワケ分からねえ、気の狂ったことをガンガンやっていけたらいいな、と。
―― 今の時点でもかなりワケ分かんないですよ。
奥村 いやあ、まだまだ。
須田 まだ旅は始まったばかり……いや、まだ始まってないかもしれません。本当の旅は2巻からなので。
奥村 「こういうハナシです」って、すぐ消化できるようなものを出す気はあんまりないんだよね。映画の宣伝とかでさ、若い子が「感動しました!」とか言ってるのあるじゃない。ああいうの見るたびに、「これはイカん!」と思っちゃうわけよ。
―― CMでよくあるやつですね。
奥村 見た人全員が「感動しました、泣きました、わーっ!」とかさ、うわあ、絶対ああいうのだけは作るのやめよう、ってのがどっかにあって。だから「暗闇ダンス」は、見た人全員がオーイェーという風にはならないと思う。でも、そういうのをやってかねえと、これマズいぜ、みたいな危機感はある。
―― マズいぜっていうのは、読者側? 雑誌側?
奥村 両方だな。雑誌はそういうのを載せなきゃいけねえし、そういうのを載せてかないとどうなるかっつーと、ああいう映画のCMみたいな状況になる。想像力はある程度働かせないと、面白いモンってのは絶対に見えないんだよ。その根本がどんどん薄れていくってのは、これはよろしくないよね。
須田 そうですよねえ。のぞきこまないと見えないものにしたいですね。
奥村 でさ、須田さんもそういう思いでゲームを散々作ってる。オレもそういう思いで漫画を作ってる。じゃあ一緒に何かやろうぜ、っつーのはわりと必然的な感じはするわな。
「運がよけりゃバットの芯に当たるんじゃねえかな」
―― ビームの方針と、須田さんの作風って似ていますよね。マーケティングではなく、自分が面白いと思うものが第一にあって、そこに共感する人が自然と集まってくる。
須田 僕はまあ、毎回100万とか、1000万本とか売るつもりで作ってはいるんですけど(笑)。
奥村 ええ、そうなの?
須田 でもやっぱり、頭のいい人が考えるマーケティングとかよりもまず、自分が遊ぶかどうか、自分の中でこのゲームが許せるのか、許せないのか、みたいなのはあります。だから結局自分が作りたいものになっていくんでしょうね。で、それが結果として100万、1000万に届けばいいな、っていう。
奥村 でもさ須田さん、ぶっちゃけ、数万、数十万、数百万……この差ってどこにあるのかオレ全然分かんないんだよ。
須田 分かんない。僕も分からないんですよね。
奥村 分かんないよ(笑)。
須田 でも、だからこそ毎回、表現のリミッターみたいなのはなるべく外していきたいとは思ってる。狙ってヒットを出すというのはできる人とできない人がいると思うんですよ。僕はアホなので、狙ってヒットを出せるタイプではないので、そこはあまり考えないようにしてる。
奥村 とりあえず常にフルスイングしとくっていう。
須田 そうですね、フルスイングでやっていく。
奥村 運がよけりゃバットの芯に当たるんじゃねえかな、みたいな。
須田 ホントそうなんですよ。
奥村 でもそれ、正直なとこよ。狙って打てるってことは、それはホームランじゃなくて、それじゃ気持ちよくねえな、という強欲さがやっぱりある。
須田 ありますね(笑)。場外狙ってますから。
―― 須田さんの場合、須田剛一であると同時にグラスホッパーの社長でもあるわけで、当然商売のことも考えなきゃいけない。そういう中で、マーケティングよりも自分の感性を優先するというのって、かなり勇気がいりませんか。
須田 うーん、僕の場合幸せなことに、そういうことができる環境を用意してもらえているんですよね。今はガンホーグループですけど(※)、そこでも「面白いゲームを作ってくれ」というのがまず大前提で。そもそも森下(ガンホー・森下一喜社長)が「ヒットは狙って出せるものじゃない」って言い切ってますからね。
―― 講演でも言っていましたね(※)。
須田 もちろんゲームにしても漫画にしても、自分たちが作ったものが売れてほしい、っていうのは当然あります。でも、だからといって、売るためのアイデアとか施策だとか、そういうもので塗り固めたところで、そこから生まれるものってやっぱり本質的ではないんですよ。
奥村 俺らは先輩がバカやってるのを見てきていて、それで「気持ちよさそうだなー」って思って、実際やったらやっぱ気持ちよかった、みたいなのがあってさ。だからいつか、年とった時に「須田さーん! オレ須田さんの作ったやつ見てこの世界入っちゃったんすよ」みたいな感じでさ、アホの遺伝子を持った連中が現れてくんねえかな、とは思うよね。
須田 それが数珠つなぎになっていく。
奥村 それなくしちゃったらさ、やっぱ健全じゃねえよな。
須田 僕もまさに、そういう強烈な先輩たちの“毒”をたくさん浴びてきてるんですよ。その毒っていうのは、すっごく愉快で痛快で、自分がそれを啓蒙しようなんてことは恐れ多いですけど、無意識の中で、それが若い人たちにも届いてくれたらいいなとは思ってます。先人の皆さんと同じように、描くべきものを描く、描きたいものを描くというのを「暗闇ダンス」でできればいいなと。
奥村 まあ多分、一生そういうことをやっていくんだろうな。
須田 一生……死ぬまでやっていくでしょうね。
奥村 だって社名がバッタだからね。こう、ピョンコピョンコ……。日頃は草むらにいて、たまにピョーンってさ。
須田 ピョーン(笑)
(2016年1月13日、KADOKAWA社内にて)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 奥村勝彦“編集総長”インタビュー:「“読者のニーズが”とか言ってるヤツを見ると、ムカッと腹立つんですよ」 20周年を迎えた「コミックビーム」が目指すもの
11月12日で晴れて20周年を迎えた「月刊コミックビーム」。これを記念して、同誌・奥村勝彦編集総長にインタビューを行いました。 - しっかりふんどしで股間ミサイルだ 実写「血まみれスケバンチェーンソー」の予告動画が公開
「碧井ネロ」役の山地まりさんもいい感じに狂った表情を見せてくれます。 - 玉吉さんの元気な姿にファン安堵 「ラブラブROUTE21」上映会で語られた、「ラブラブROUTE21」が未完に終わった理由
玉吉ファンにとってはお宝映像満載のイベントでした。 - 漫画「フェイスブックポリス」が話題のかっぴーさんにインタビュー 「SNSで自分を良く見せたい=ダサ可愛い」
フェイスブックで可愛い子と絡みたがるのも、自分が美人に写っている写真をアップしたがるのも、インテリな話題に言及しちゃうのも、オシャレな料理写真を載せるのも、みんなみんなダサくて可愛い!!! - 虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第51回:部活動に打ち込むということ、何かに一生懸命になるということ――「その娘、武蔵」田中相先生インタビュー
前回に続いて、今回もインタビュー企画です。「千年万年りんごの子」でも紹介した、田中相先生にお会いしてきました! - 虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第50回:「スキあらば岩岡先生」と言い続けて早2年 「星が原あおまんじゅうの森」完結にかこつけて、ついに岩岡ヒサエ先生と対面してきました!
社主が推しすぎるあまり、編集部から「さすがに岩岡先生多すぎます」と待ったがかかったことも……。そんな岩岡先生に念願かなって初インタビュー! - 話を削ったのは私の選択だ! 藤田和日郎が語ったアニメ「うしおととら」への言葉が誠実で熱くて愛に満ちていた
自分が生んだ作品への責任感と愛情を感じる、真っ直ぐな言葉。 - “野球版テニプリ”と話題の漫画「デッド・オア・ストライク」 作者の西森生さんに突撃インタビューしてみた
野球漫画ではなく、バトル漫画です。 - 元SKE・佐藤聖羅さんが股間からミサイル乱射 映画「血まみれスケバンチェーンソー」で
とても特殊な経験ができました!(佐藤さん談)