日清食品創業者・安藤百福氏によって「チキンラーメン」が発明されたのが1958年。今やインスタントラーメンの数は到底数え切れないほどに増加し続け、ご当地インスタントラーメンなるものまで登場しています。
大阪・恵美須町にある「やかん亭」は、そんなインスタントラーメン好きな店主がはじめた、全国でも珍しい「インスタントラーメン専門店」。店頭には全国から集めたさまざまなご当地インスタントラーメンが並んでいるほか、ここでしか買えないオリジナル商品「マヨら〜めん」は、ダウンタウンの松本人志さんも「めちゃめちゃウマい!」と太鼓判を押すほどのおいしさなのだとか……!
そもそもなぜ「インスタントラーメン専門店」をはじめようと思ったのか。幻の「マヨら〜めん」はどのようにして生まれたのか、「やかん亭」店主・大和イチロウ氏にお話をうかがいました。
300種類のご当地インスタントラーメンがそろい踏み!
今回訪れたのは、大阪市営地下鉄恵美須町駅から歩いて5分ほどの場所にある「やかん亭さくら総本店」。外壁に掲載された、袋麺のパッケージが目印です。
店内に入ると、ズラリとご当地ラーメンが勢ぞろい。「博多屋台風とんこつ」のような正当派なものから、福岡有明海の「ムツゴロウラーメン」「エイリアンラーメン」のような変化球まで、ありとあらゆる郷土の味が、実に300種類以上も取りそろえられています。
これらの商品は店主である大和イチロウ氏が全国から集め、直接食べた上で選んだ品なのだとか。「オバケのQ太郎」に登場する“ラーメン大好き小池さん”もびっくりのラーメン愛! 一体なぜそこまで大和氏はインスタントラーメンに魅せられたのか、お話を聞きました。
ご当地インスタントラーメンは「守るべき文化」
―― こちらのお店では300種類以上のご当地インスタントラーメンを扱っているとうかがっていますが、すべて試食された上で選ばれたのですか?
大和イチロウ氏(以下、大和): そうですね。日本にはインスタントラーメンが袋麺だけでも1500種類あると言われてます。その中から本当に失礼なんですけど、おいしいと思ったものだけをチョイスさせていただいて、お客さんにオススメするという形をとっているんです。
―― 集め方はどのような方法で?
大和 いろいろですね。当初は現地に行って集めていました。それでおいしかったら直接製造者の元へお願いに行って卸してもらうという形をとっていたんですけど、当初は相当苦労しましたね。
―― それは旅費などの点においてですか?
大和 旅費もかかったんですが、「インスタントラーメン屋に卸してくれ」って言うと、「うちはインスタントラーメンじゃない」って断られるんです。なぜかっていうと、従来の即席麺とは別に、生麺をそのまま干した「乾麺」と呼ばれるものがありまして。
大和 ですので「うちのは乾麺だから、インスタントラーメンと呼ばないでくれ」と。そこで何度も足を運んで説得を続けて、1年ぐらいかかる場合もありました。「三顧の礼」どころか何十回も(笑)。気に入ったところに対してはそのぐらいラブコールを送りました。それをしなければならない理由もありましたので。
―― しなければならない理由とは。
大和 平成に入ってから、地方の人口減少や高齢化、バブル崩壊などが原因で、いわゆる中小の製麺メーカーがどんどん倒産していったんです。地方のスーパーがなくなったり、大手ショッピングモールの系列に入れなくなったりしたら、地方のメーカーは市場を失って売り先がなくなってしまいます。そうした状況が最近まで続いていましたね。
―― 最近は状況が変わってきている?
大和 最近はインターネットで独自に販売ができますから。僕も卸してもらってる業者さんに「そちらでもホームページを作って情報発信してください。(やかん亭含め)いろんなところで売れるようにしましょう」と言ってます。
大和 とにかく「潰れてほしくない」という一念ですね。一度なくなってしまった伝統や文化は復活が困難ですから、そこを守りたかったという思いはあります。
あこがれは即席麵生みの親、安藤百福氏
―― インスタントラーメンを好きになったきっかけは?
大和 その理由はふたつあります。ひとつは子どもの頃の思い出ですね。両親が自営業だったから、ご飯の時間がマチマチでした。そうなると、やっぱりお腹が空いたままということがありまして。そんな時に子どもでも簡単に作れるおいしいものといえば、インスタントラーメンだったんです。
大和 もうひとつは「チキンラーメン」や「カップヌードル」生みの親、安藤百福さんです。10代の多感なころ、この方の「毎日昼食には必ずチキンラーメンを一袋食べる」という姿勢にあこがれて、同じことを自分に課すようになりました。「一日一麺」ですね。実はこのあたり(恵美須町周辺)も、安藤さんが調理器具を探すためにしょっちゅううろうろしていたり、チキンラーメンを一番はじめに卸した木津市場の近くであったりと、いろいろいわれがあるんですよ。
――そこから、インスタントラーメンの専門店を作ろうと考えたのはなぜですか?
大和 学生時代に貧乏旅行をしていた時、地方のスーパーでその土地のメーカーが作った「ご当地インスタントラーメン」をたくさん見かけました。で、食べてみると案外おいしかった。それを地方から出てきている友人たちにあげてたんです。その中に秋田出身のやつがいたんですが、そいつに(ご当地ラーメンを)食べさせるとすごい勢いで秋田弁が出るんですよ。いっつも「俺は標準語しかしゃべらない」っていってたやつが(笑)。
大和 そのぐらい地元の食べ物っていうのは不思議なパワーがあるなと。みんなが笑顔にもなるし楽しめる、都心と田舎をつなぐコミュニケーションツールではないかと思って、そういうのを扱うお店をやりたいなとずっと思っていました。
流行りのきっかけはネットの口コミ
大和 そうして今から10年ぐらい前に店を開けてみようと思ったんですが、何しろ(インスタントラーメン専門店)というのが他にありませんから、どこの不動産屋に行っても断られる。まず事務所を訪ねて「ラーメン屋やりたいんです」と言ったら「ええですね」と言われる。それで「でもちょっと変わってるんです」「なんですか?」「インスタントラーメン屋なんです」と言ったら「やめなはれ、んな商売絶対あかん」と(笑)。「商売分かってない」と説教されたりもして、20件近くダメ。
大和 それでたまたま通りがかったこの場所(旧店舗所在地)がたまたま店舗を募集していて、連絡してみたら「やってみたら?」と。大家さんもだいぶ変わった人やったんでしょうね(笑)。これを最後の1軒にしようと思っていて、断られたら止めようと思っていました。幸運が重なりましたね。
そういうわけで店の方はオープンできたんですが、最初のうちはなかなかお客さんが集まりませんでした。「インスタントラーメンの専門店なんて、なんかアヤしい」と思われてたかもしれませんね。でも、ちょうどmixiとかが人気になりはじめたころで、来てくれたお客さんがネットで情報を発信してくれたんです。ラッキーやったんは、日本橋という場所にインスタントラーメン好きな人がたまたま固まっていてくれてたこと。インターネットで皆さんが口コミを書いてくれて、「○○さんの書き込み見てきました」という感じでお客さんが増えていった。「インターネットすごいな」とびっくりしました。幸運でしたね。後で聞いたら皆「3カ月もてへん」て言うてましたもん(笑)。
―― 安藤百福氏がお客さんを導いてくれたのかもしれませんね。
大和 かもしれませんね。やっぱり何か情熱を持ってやったことっていうのは、時が経ってもその熱量が残ってるんじゃないかと思うんです。その熱量がなんとなくこの日本橋に固まってるような気がして、なにかはじめることを良しとする雰囲気を感じますね。
実は難産だったマヨら〜めん
―― 人気商品の「マヨら〜めん」はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか。
大和 まず、大阪のおかきとして有名な「マヨおかき」があって、そこの社長さんからある日ふと「マヨネーズのラーメンってあんの?」と言われたんです。で、調べてみたら当時は世界含めてもそういうものがなくて、それを伝えたら「ほな作られへんの」となって「じゃ、作りましょうか」と。ところがですよ! 開発をはじめた段階で、今まで誰も作ってこなかったというのがすぐに分かったんです。マヨネーズってほとんど脂なので、ラーメンに入れると分離してしまうんですよ。だからただの卵臭い塊で、あんまりおいしくないんです。マヨ粉末も使ってみたんですが、脂が除去されてるからこれもまたまずくて(笑)。これもうアカンわって完全に手段を断たれましたね。
―― 大ピンチだったんですね。
大和 もう自分でオリジナルで開発するしかないと思って、マヨネーズの旨さを出せる粉末作りにチャレンジしたんですが、何べんやってもおいしくならないんです。それで100杯作ってもダメで、101杯目にようやくおいしいのができた。「これや、これでいこう!」と。
大和 販売後、朝日放送の「松本家の休日」という番組が第1回目のロケでウチの店を訪れたのですが、インスタントラーメンにうるさいダウンタウンの松本人志さんがこれを食べて「めちゃめちゃウマい!」と。それがひとつの火付け役になって、その番組を見た人が買いに来てくれて売れるようになりました。
―― 苦労の甲斐があったわけですね。
大和 僕も簡単に安請け合いしたのがよくなかったですけども(笑)やめときゃよかったってずっと思いましたもん。でも、YouTubeとかでも取り上げられるようになって大ヒットしました。一番大事なのは皆さんが食べて「おいしい」って楽しんでくれて、他の方に勧めてくれる「口コミの力」です。個人が推薦するってこれほどのデカい力はないですよ。おいしいと言ってくれる人がいる限りは、さらなるブラッシュアップをするつもりです。安藤百福さんも「止まらないことが大事」とおっしゃってました。今の時代に合ってるかどうか、常に確認し続けます。
これが松本人志絶賛の「マヨら〜めん」だ!
と、ここで実際にその「マヨら〜めん」を食べさせてもらうことに。現在やかん亭では調理サービスは行っていないのですが、今回は特別に氏みずからベストな方法でクッキング。そのウマさやいかに!?
調理中も大和氏からインスタントラーメンの作り方についてさまざまなアドバイスをいただきました。その内容は「茹でるときは定められた時間より10〜15秒早く上げる」「お湯は必ずグツグツとよく沸騰したものを使うとムラができない」「最初の1〜2分は箸でラーメンを触らない」などなど。愛好家の皆さん、要チェックですよ!
そうして出来上がったマヨら〜めん。まず「おっ」と思うのはその香りのよさ。マヨとトンコツが合わさった香ばしい匂いが鼻をくすぐってくれます。
それに釣られてさっそく一口。つるつるとしていて食べがいある縮れ麺からは、ほのかに香るマヨ風味。マヨネーズラーメンと聞いて、マヨの味がこれでもかというぐらい濃いのではないかと思っていたのですが、むしろ正反対。ラーメン全体の味を引き立てるアクセントとして、マイルドな旨味と甘みをかもし出しています。
そして、かやくにもこだわりあり。カニかまにキャベツ、コーンといった素材はマヨとんこつと相性抜群。しかもたっぷり入っているのがうれしい限り。そして何より、しつこさがほとんどない自然な味わいが体にしっくりきます。いつもはスープを飲まない派なのに、つい飲み干してしまいました。
―― ごちそうさまでした。かなりのこだわりを感じました。
大和 麺は小麦粉とでんぷんで作ったものをラードで揚げています。これは小麦の選別や気温の調整等がかなり難しいので、それが任せられる特定のメーカーにしか頼めないんですよ。キャベツ等かやくに使った素材もしっかりしたものを選んで、スープと合わせて自然の味が引き出せるよう工夫を重ねています。気をつけることは「自分が食べ続けられるかどうか」。自分が一番厳しいユーザーでありたいですね。
「やかん亭」にはインスタントラーメン愛があふれていた
訪れたお客さんとインスタントラーメントークをするのが一番の楽しみだという大和さん。人はラーメンのことを語ると必ず子どものような無邪気な笑顔になるので、それを見るのが楽しみなのだそうです。
大和氏の情熱がこもったインスタントラーメン専門店「やかん亭」は大阪府をはじめ、東京都や福岡県、愛知県や岡山県など全国各地に出店、フライチャンズも募集中です。店舗へ行けないという方のためにオンラインショップも稼働中。
力作マヨら〜めん、そして個性豊かなご当地ラーメンの数々、ぜひご賞味あれ!
(エンジン)
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