テレビ東京のドラマ24「バイプレイヤーズ 〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜」。第11話は「バイプレイヤーとタブー」。もやーっとする展開になってきました。闇の力に屈した大杉漣さんがこちらです。
今までのおさらい
名脇役で知られる俳優6人が本人を演じる今作。遠藤憲一さん、大杉漣さん、田口トモロヲさん、寺島進さん、松重豊さん、光石研さん。
行方不明になっていた、10年前に撮った映画「バイプレイヤーズ」のフィルム。どうしても探したいという大杉さんの声に、みんなも「フィルムを見つけて最後まで完成させたい」と願うようになります。持ち出していたのは、共演者だった夏川結衣さん。彼女の話によると、フィルムには映ってはいけないものがあったから、これは流せないとのこと……。
干された面々
映っていたのは、芸能界の裏ドンにあたる人の愛人の家。これを公開するのはまずいと焦りつつも、ラストシーンの撮影は決行。
ところが突然の出演キャンセルや、機材車の玉突き事故など、ありえない力が発動。結果、6人全員が仕事を干されるという大胆な展開に。恐るべきことに、来期からスタートする「孤独のグルメ」第6シーズンの松重さんすらも、干されて代役になります。「テレ東だけは信じてたんだけどね……」。
仕事を失った全員。そこにやってきた大森南朋さんが1億円をトランクに入れて登場。「エンタメ路線のバイプレイヤーズを撮らないか」という怪しい話が。
1年後の2018年3月。撮り直した娯楽大作「バイプレイヤーズ」は興行収入95億円の大ヒット。日本アカデミー賞 最優秀作品賞を受賞します。
嬉々としてインタビューを受ける大杉さん。しかしその壇上で彼は、かつての「バイプレイヤーズ」の監督・鬼屋敷に刺されてしまいます。
エンタメ映画の価値
今回気になるのは、かつて撮っていた「バイプレイヤーズ」と、新規で撮った「バイプレイヤーズ」の、捉え方の差です。
俳優生命をかけた撮影は、黒い力で阻止されてしまった。全員が干された後、大杉さんはダイナミック手のひらくるり。自分たちを干した裏のドンの映画に参加します。
テレ東の「孤独のグルメ」から松重さんを引きずり下ろした暗躍者だよ!? 物語的にはえーっ! という感じなのですが、もっとも「仕事」だと考えるならベターなのかもしれません。「プロ」の俳優だもの。
ただ大森さんの説明と、授賞式の解説が、どうにもひっかかる。
大森「若いキャストを加えようかと思っています。おっさんだけでは当たるもんも当たりませんからねえ」「ラブロマンス、コメディ、アクション、ノスタルジィ、学園、感動、分かりやすさ、○○会長の好きな要素を全て詰め込んだ作品にします」
司会「作品性を度外視して、ヒットの要素を詰め込んだ、究極の商業映画だったわけですが――」
分かりやすくて楽しい映画。売れる映画。それは客の心を動かす、立派な「作品性」のはず。少なくとも元の「バイプレイヤーズ」の比較対象になるものではないし、「度外視」はしていない。
今までもバイプレイヤーズはあらゆる仕事をこなし続けてきました。学園モノMVで高校の制服着て踊ったり、熟女と濡れ場を演じたり、体操のお兄さんをやったり、パクリバディ刑事モノ「相方」をやったり。今まで仕事を断ってきたことは(田口さんのスケジュールが合わなかった事例以外は)ほぼありません。
大小の差こそあれ、そこに自分たちが必要とされているから、演じてきました。どんな役でも「どんな現場も誇りを持ってやってますんで!」と1話で田口さんは言っていました。それがバイプレイヤーズの生き方だった。
今回の商業エンタメ映画、成功させたのだから、やっぱり彼らはプロフェッショナル。誇りを持っていい。分かりやすい映画を作れる、ってのも技術を要することだ。
大杉「おれたちあの映画にさ、魂あったじゃん。ソウル? あれ1回置いといてさ、みんなやろうや。やろうよ」
強迫観念のごとくフィルムに執着していた大杉さん。気持ちをリセットするのは彼にとって一番大事だったのかもしれない。健康的で爽やかな顔をして賞を受け取っています。
ただ彼は、撮り直した映画にも、魂・ソウルは注いでいるはず。七色に演じるのが「名脇役」だと今まで表現し続けてきたのだから。
大杉さんが倒れて仕事を何本もトばしてしまった8話。干されないようにと全員がなりふり構わず、力をあわせて代役に入ったのを思い出します。
「バイプレイヤーズ」という概念
そんな一斉に干されたら文春あたりが黙っておらず、例の会長の件も暴かれるんじゃないか、とか、竹中直人さんがらみでだいぶ前から「バイプレイヤーズ」の存在は公になっていた気が……なんていう疑問は多々。まあ細かいところは9話「栗卒村」の件で、このドラマはギャグファンタジーだと分かっていますし、なにより俳優さんたちの演技のテンポとノリが説得力を産んでいるので、大味でツッこめること自体が、このドラマの醍醐味でしょう。
でも、なぜそこまで大杉さんが鬼屋敷監督にこだわるのか。なぜここまで来ても「バイプレイヤーズ」を仕事や人生よりも優先し続けるのか。信念をよろしくない権力に流されたままでいいのか。今まで深くぶつかりあってきた滝藤賢一さんや夏川結衣さんのような周囲の人と連絡を一切取らずシェアハウス孤立無援状態なのはなぜか。今回の展開、このあたりはキャラクターの人生そのものにかかわるので、どうしても気になります。
あきらかに裏社会感ある話の流れ。ゴールデンパラシュートと言ってしまっているってことは、このお金は6人が受け取って、裏ドンに買収されています。
いろいろある今回の疑問を解くには、「バイプレイヤーズ」という映画が何なのか考え直す必要がありそうです。
そもそも「バイプレイヤーズ」の映画の内容、ほとんど出てきません。組織から切り捨てられた野良犬スパイたち、そして二重スパイの話らしい、という説明くらい。
これは映画として捉えずに、役者としての生き様という概念・象徴として捉えると、話の流れが飲み込みやすくなりそうです。
「七人の侍」の話がうそだと分かっても、みんなの「バイプレイヤーズ」=役者としての魂は、捨てられていませんでした。振り回されたり、騙しあったり、ときに嫌気がさすこともある。でもことあるごとに思い出して、帰ってくる故郷と化していました。
鬼屋敷・元監督にとっても「生き様」。だから、村で「バイプレイヤーズ」のニセモノ撮ったりしたのは、大いに分かる。
ただ、自分が辞退して商業映画になったからと言って、逆上して刺すまでに至るかというと、その動機にはちょっと謎が残ります。何か大杉さんと彼だけの誓いがあったのだろうか。
最大の問題は、大杉さんが2017年から2018年の新「バイプレイヤーズ」製作時に、何を考えていたのか全く分からないところ。権力と戦うでもない、自分たちの「バイプレイヤーズ」を撮るわけでもない(6人で新規に、じゃだめだったのかな)。それどころか5人率いて、裏組織とお金でつながっちゃった。それで大丈夫か? もしかして映画「バイプレイヤーズ」の中身と同じで、権力から解き放たれた野良犬として、信念抱いて生きていくのか? ここは予告でチラ見えしている不穏な部分も含めて、最終回で語られることに期待!
バイプレイヤーズ6人車旅
今回のクライマックスは、6人でラストシーンを撮るためにマイクロバスで移動しているところでしょう。まさに大人の遠足。このまま「水曜どうでしょう」っぽいのやってもいいよ! 遠藤さんがめちゃくちゃ真面目で、車の中で台本読んでいるのもニヤニヤ。もっともっと、たっぷり見たい。
以前「バイプレトーク」で、バイプレイヤーズ2やるなら6人で旅番組を撮ろう、と話していたことがありました。見たいなあと思っていたら、魅せてくれました今回。最高ですあのキャッキャウフフ感。
毎回入っていた朝食のシーンのように、6人のおじさんがわいわい仲良くする風景は、強烈なトキメキ力にあふれています。
バイプレイヤーズ車旅、本当にやってくれませんかねえ。
(たまごまご)
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結局あの緑の液体はなんだったのか……。