「エイヤー!」という掛け声とともに、パッカーンと割れる瓦。見事ひと突きで割れたときは、割る側も、それを見る側も同じくらい爽快な気持ちになる瓦割り。そんな瓦割りを気軽に体験できるという店が浅草にオープンした。そこで、瓦を割りに出かけてみた。
浅草寺を通り抜け、左斜め後方へ歩いていくと、大きなのれんのような看板が掲げられている店がある。一見、道場のようにも見えるが、ここが瓦割りの店「カワラナ」だ。
立て看板には、外国人にも分かりやすく「KAWARA SMASH」と書かれている。
店の人がこちらにどうぞと案内してくれたので、瓦がズラリと並ぶ店内に入りイスに腰掛けた。ちょっとお店について聞いてみよう。話しかけると、この方は代表の川口さん。
以前、バックパッカーで60カ国も周ったそうだ。そうした経験からも、「楽しい」と感じることが重要だと実感。そこで、何か楽しいことを人々に提供したいと日ごろから考えるようになり、特に外国人観光客に日本を楽しんでもらいたいという思いもあり、思案していたそう。そんな折、自身が瓦割りを体験。「むちゃくちゃおもろしかったんですよ! いやぁ、楽しい〜、これはすごい! と思って、この店をオープンしたんです」と当時を振り返っているのか、満面の笑みで川口さんは話した。確かに瓦を割るなんていう行為は非日常の経験。だから面白いし楽しいだろう。しかし、「むちゃくちゃ」とはどういうことなのか? そんなヤボな質問をぶつけてみると、「では、早速やってみますか!」と紙を差し出してきた。
出された用紙は、カワラナの意思表明書。内容は「瓦割りは一度のみのチャレンジで割ります」ということから始まり、5つのことに宣誓する。最後のセンテンスには「瓦を全て割り切れたら、そんな自分を最大限褒めてあげます。勢いがあれば自分に何か買ってあげます」とある。この宣誓、ちょっと面白い。
その後、瓦の枚数を決めてお支払い。男性は10枚、女性は5枚がデフォルトらしい。筆者(=女)は内心、5枚も割れるのか? と不安になっていると、「大丈夫ですよ〜。8割9割の人は割れます」と川口さん。この言葉が余計に不安をあおり緊張させる。割れなかったら恥ずかしいじゃないか! そう伝えると、川口さんは「そうですよね〜。でも割れなくても誰も後ろ指を指しませんから」と笑った。その姿、まさに経験者の余裕だ。そこで意を決して、5枚に挑戦することにした。
任意で、はんてんまたは柔術着、空手着を羽織ることができる。はんてんをチョイスし、羽織ってみると、やる気ががぜんアップした。よっしゃ!
そして、いよいよ道場へ。
まずは指導を受ける。割る方法は2つ。拳を真下に突き落とすやり方と、拳をハンマーのようにたたき落とすやり方だ。本来ならば、真下に拳を突き落とす方がカッコイイ。しかし、かなり緊張している筆者は経験のない「突き」は敬遠し、ハンマータイプでやろうと決めた。
次にやり方の説明だ。最初に礼を。そして、拳を振りかざし、振り下ろしてタオルの赤丸に当てる練習をする。台にしたブロックや瓦が割れたときを考えて、足の位置もきちんと指導。見ている分には、とっても簡単。しかし、果たして割れるのか? そんな問いに誰が答えてくれるわけでもない。結果はやってみないと分からない。そんな自問自答を繰り返しながら緊張をほぐそうとする筆者だが、「一発勝負」というプレッシャーはやはり大きい。緊張は高鳴る一方だった。
いよいよ、本番の時間が来た。精神を統一してエイヤーと一気に割るだけなのに、なんでこんなにめちゃくちゃ緊張するのだろう? そんな筆者を感じたのか、「何か願掛けするといいかもしれませんね!」と川口さん。それはグッドアイデアだと思ったが、もし割れなかったら、悔しさとともに、願いも叶わないというダブルの“残念”が到来する。腹をくくって瓦の前に立った。
通りがかりの人や人力車に乗った観光客というギャラリーも集まり、緊張はマックスに。「では、始めます!」と礼をし、スタート。
願を念じながら精神を統一させ、数回練習した後、エイヤーと拳を振り下ろした──。ガシャーガシャーガシャーン……。無我夢中で振りかざした拳はど真ん中に命中し、瓦は全て割れた。思わず「ヤッター!」と叫ぶ。完全に仕事を忘れて大喜びしてしまった。すごい達成感だ。緊張に打ち勝ち、目的を達成できたことがこんなにうれしいものなんだと、あらためて気付かされた。最高にハッピーだった。
真っ二つに割れた瓦は使用するので、屋根屋さんが引き取りにくる。そのため、端の方に積んでおくそうだ。細かく割れた瓦も再利用される。
うれしさのあまり笑みが止まらない筆者に、川口さんは、全部割った人にプレゼントするというステッカーを差し出した。誇らしく勝者の気分でステッカーを受け取る。
単純に面白そうという気持ちで訪れた瓦割り。本物の瓦を目の前にしたら、その余裕はなくなり、思わず後ずさったが、その弱気を脇に押しのけ一発勝負に挑んだ結果、生まれる感動。ある意味、ストーリーが完成する。「割る人それぞれのストーリーがありますよ。それを見ている私も、とっても楽しいんです」と話す川口さん。割る側も見る側も、一瞬のスリルにワクワクし、最後は感動をともに享受する。これは新しいエンターテインメントになりそうだ。みなさんも、このドキドキにぜひチャレンジしてほしい!
(茂木宏美/LOCOMO&COMO)
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