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コラム

「しんにょう」の点が1つの字と2つの字があるのはなぜ?

迷ったら「点1つ」でOK。

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 PCなどで「しんにょう」が付く漢字を表示すると、文字によってしんにょうの形が変わる場合があります。

 区別するために、点の数から「一点しんにょう」「二点しんにょう」と呼ばれます。では、これらは具体的にどう違うのでしょうか? 漢字検定1級にこれまで20回以上合格している、漢字大好きな筆者が解説します。

しんにょうの字体差に隠れた歴史を追う

 まず前提として知っておいてもらいたいのは、中国の長い歴史の中で、「正しい漢字の形」も変わってきたということです。

 書道の作品などで見られる流れるような草書体や、学校教育で用いられる字体の基となった楷書体は、全て中国の異なる時代に起源を持っています。

 明治時代の日本では学校教育制度の近代化が進み、子どもたちに教える漢字の形を法律で制定しようという動きが生まれました。このときに模範とされたのが、中国・清の時代(西暦1700年ころ)に編纂(へんさん)された『康煕字典(こうきじてん)』でした。つまり、1700年ころの中国で正しいとされていた漢字の形が「二点しんにょう」だったため、明治政府はそれを取り入れたのです。

 時は流れて第二次世界大戦の終結後。日本の政府はより分かりやすい教育を目指して、それまで学校で教えていた漢字の一部を簡略化するという計画を実行しました。このとき、「二点しんにょう」がまとめて「一点しんにょう」に変更されたのです。

 ところで、この「しんにょうの点を1つ減らす」というアイデアはどこから生まれたのでしょうか? 実は、「一点しんにょう」が正式な形とされていた時代があったのです。中国・唐の初期(西暦650年ころ)にあたります。

 書道の世界では、楷書の手本は唐の初期にあり、というのが原則でした。そのため、二点しんにょうが制定される以前も以後も、書道界では一点しんにょうで書くことが普通だったのです。また、書道に関わりのない一般人でも、手書きでは一点しんにょうの方が主流でした。


書道家たちは一点しんにょうの伝統を固く守り続けた

 こうして、人々になじみ深い形へ統一されたように思えたしんにょうの字体問題。しかし、ここでツメの甘さが悪い結果を招いてしまいます。「常用漢字は一点しんにょうを正しい形とする」と定めたものの、常用漢字以外の漢字については特に決めず、二点しんにょうのまま放置してしまったのです。

新たに追加された常用漢字。扱いはどうするの?

 2010年、新たに196字が追加された「新常用漢字表」が作成されました。このとき、問題が発生しました。先に述べたように、もともと常用漢字の範囲外だった「二点しんにょう」の漢字を追加するとき、一点に統一するのか、二点のままにするのかで意見が分かれたのです。

 結果として、問題のしんにょうが含まれていた「謎(なぞ)」「遜(へりくだ-る)」「遡(さかのぼ-る)」の3文字は、「二点しんにょう」のまま新常用漢字表に追加されることになりました。つまり、「常用漢字は一点しんにょうが正しい」という原則に例外が生まれてしまったのです。

 その主な理由は、PCなどの情報面にあるといわれています。つまり、これらの漢字が常用漢字に追加される前に作られた文字のフォントが広く普及しているため、今から「一点しんにょう」を正式な字体にすると対応が面倒だと考えられたのです。

 ただし、原則は「常用漢字は一点しんにょうが正しい」なので、現在これらの3文字については特例として「二点しんにょうと一点しんにょうのどちらも正しい」として教えられることが多いようです。

 「一点しんにょうと二点しんにょう、この漢字はどっちだったっけ?」と迷って使い分けが分からなくなった人は、取りあえず一点しんにょうで書いておけば問題ありません。なにせ、書道の世界では“全て”一点しんにょうなのですから。

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