窪塚洋介さんと降谷建志さん主演で7月15日から公開の映画「アリーキャット」。一匹の猫を通して出会った“野良猫”のような気ままでタフな若者たちの生きざまを追ったロードムービーで、市川由衣さん、品川祐さん、火野正平さんらが共演者として名を連ねています。
「卍LINE」名義のレゲエDeejayでの活動も知られる窪塚さんですが、俳優としての独特な存在感は「池袋ウエストゲートパーク」「ピンポン」などでもよく知られるところ。マーティン・スコセッシが監督を務めた「沈黙-サイレンス-」ではハリウッドデビューを果たすなど、活動の幅はさらに広がっています。
同作では、警備員のバイトをしながら暮らす元ボクサーの朝秀晃(マル)を演じる窪塚さん。同作のオファーを受けた理由や降谷さんとの出会い、家族への思いなどを語ってくれました。
建志くんとはどこまでも行ける
―― 同作に出演することになったいきさつを聞かせてください。
窪塚 2年前の冬、デビューして20年間一度もリンクしていなかった降谷建志くんと知人の結婚式でばったり会ったんです。「あれ、俺ら初対面だよね?」て昔からの連れみたいな印象で交流が始まったんですが、その2週間後にこの作品のオファーがきて、「これは何かガイダンスかな」と。
建志くんとのバディだったらと前のめりで台本を読んでみたら、設定やストーリーに昭和の匂いがして。「これを現代で俺と建志くんがやったら面白いかな」と思って、オファーを受けました。
―― それぞれが猫につけた「マル」「リリィ」という名前で呼びあう2人ですが、降谷さんとのバディを演じてみてどうでしたか?
窪塚 現場では建志くんの存在がとても大きかったので、自分の目に狂いはなかったなと。彼はお父さんも奥さんも役者で、僕とは違って役者の仲間もたくさんいて、役者がどういうものかを肌や野生の勘で分かっている。
彼の持っている才能やピュアさ、情熱は、あらかじめ耕されている畑というか、すごくいい畑。「あとはうまく種を植えれば、絶対にいい花が咲いてくる」と直感で分かって、実際、最初のカットを撮ったときに「これは大丈夫だな」と。
演じていてお互いが役同士になって目が合ったとき、伝わってくるものがあるんですよ。「これ以上行ったらあかんな」とか。建志くんとは「どこまでも行けるな」と思って、彼に「全部開けちゃっていいや」という気持ちでしたね。
―― 降谷さんと演技についての話などはされました?
窪塚 そうですね。すごく。特に現場移動のときに建志くんの車の中で。彼の車がちょうど映画に出てくるのと雰囲気が似た古いポルシェで、それに乗って衣装を着て移動していたので、まるで夢(映画)と現実が混ざり合ったような感じで面白かったです。
―― カメラの回っていないところでも、映画の“マル”と“リリィ“のように旅をしているような?
窪塚 そう。その空気感もカメラには絶対映っていると思う。この出会いは財産。いい仲間、いい戦友になって、いい未来に向かっていけたらなと。
この仕事のあとに、二人で「Soul Ship」という曲を作ったんです。映画の挿入歌ではないですけど、映画とシンクロしている曲。だから、曲を聴いてから映画を見てもらうと、ラストシーンの盛り上がりがさらによくなるんじゃないかな。パラレルワールドで進んでいるマルとリリィと卍LINEとKjという感じでメッセージがシンクロしてくるので、面白いと思います。
「アリーキャット」は猫をオマージュした二人が人生を進める物語
―― 映画は窪塚さん演じる“マル”こと秀晃が、世話をしていた野良猫「マル」を探すところから始まります。秀晃にとってマルはどんな存在だったと思いますか?
窪塚 最初は自分のくすぶった生活に癒しをくれるペット、隣人のような感じで首輪をつけるわけでもなく飼っていたと思うんです。でも、いざいなくなって、秀晃はすごく寂しい思いになったんでしょうね。それで、探しに行くとそいつが既に別の者の手の中にいるという。まるで女性の話みたいだけど(笑)、そうなってあらためて自分にとって存在の大きさが分かるというのは、多々あると思います。
―― 「アリーキャット」の意味でもある“野良猫”が、同作では重要なモチーフになっていますね。
窪塚 「猫には魂が9つある」という話が作中にも出てきますけど、この映画は、“マル”(秀晃)が猫みたいに魂が1つ入れ替わるようなストーリー。マルにとって、次のステージへ行く扉の鍵は“リリィ”(郁巳)の形をしていて、リリィでないとマルを次へ進めてあげられない関係性。お互いに猫の名前をつけて呼び合って成長していって、二人が猫をオマージュして自分の人生を進めていくというか。ただ、途中猫は全然出てこないんですよね。そこは俺らが猫なんだろうなと。
―― 窪塚さん自身は、猫にどんな印象をお持ちですか?
窪塚 家で飼っていたことはなくて、小さいころ幼なじみが大量の猫を飼っていたんですよ。猫に会いたかったらそこへ行く感じ。猫というとそいつを思い出しますね。ただ、そいつ猫アレルギーなんですけど(笑)。
―― 撮影を通して、猫への意識は何か変わりましたか?
窪塚 猫好きな人の気持ちはちょっと分かったかな。最後のシーンを撮っていたときに榊監督が泣いているので、クランクアップで感動したのかなと思ったら「飼っていた猫を思い出した」って。それを見て、猫好きな人は、家族みたいに猫と付き合うものなのだなと。自分の母親は動物が苦手だったので、これまで猫に触れる機会が多くなくて「俺はそういう人生じゃなかったんだな」と。
2週間で駆け抜けた「純度も温度も高い現場」
―― 今監督の話が出てきましたが、同作のメガホンをとった榊英雄監督の印象を教えてください。
窪塚 すごくピュアで熱い方。榊監督が現場や作品に誠実な思いを持っていてくれたのが土台になって、そこにキャストが集まってきて、高温で高純度ないい現場でした。
撮影は2週間だけだったんですが、それが分かっていたからこそ、それだけの熱量で駆け抜けることができたし、みんなで高めあうことができた。榊監督は「どう思う?」と意見を聞いてくれて、必要なことをみんなで話しながら進めていけたので、「一緒に作っている」と強く感じたし、監督自身が役者出身なので、役者のことをよく分かった上で撮影してくれている安心感もあり、皆が監督を尊重しつつ意見を言い合える、いい現場でした。
―― 榊監督も動ける方なので、同作はアクションも非常にレベルが高いものになっていますよね。
窪塚 アクションシーンは、丁寧で迫力あるものにできたと思う。体当たりだったんですが、やれてよかった。
ただ、1つだけ残念なのが、ボクサー上がりで、ボクシングにトラウマみたいなものを抱えて離れている秀晃が、玉木(品川祐)と対決するとき、久々にファイティングポーズをとる絵を撮っていたんです。でも、カットの順序にうまくはまらなかったらしく、映画にその絵は入ってない。“久しぶりに構える”って大事じゃないですか。その絵があったら、もう三段階ぐらい深い表現を見せられたと思うので、唯一それが心残りですね。
―― とはいえ、火野正平さんとのシーンも白熱していました。
窪塚 そうですね。火野さんは本当に声が低い人で、「これはモテるわ」と(笑)。現場では「お前、好きな女はいるのか」「はい」「嫁以外だぞ」「そのまんまですね、火野さん」みたいな話をしていたんですが(笑)、良き先輩で、すごく目をかけてくれました。火野さんは参加した日数は少なかったんですが、俺らの熱量をキャッチして、アイデアも出してくれてうれしかったです。「もっとケリ入れたい」みたいなことも言っていましたけど(笑)。
―― 品川祐さんも強烈な役で出演していました。窪塚さんは以前に品川さんの監督作品に出演されていますが、今回はお互い役者として共演で、また感じが違ったのでは?
窪塚 あれだけのコントをやってきて自分でも書く達者な人ですし、何でもござれだと思うんですが、今回、「俺、普段撮るほうだからさ……」と妙に緊張していて。そのハイプレッシャーが演技プランの中にいい情熱として生きていたと思うし、品川さんも現場になくてはならない存在でした。
ある日品川さんが鶏汁を作ってきてくれたんです。デカイ鍋持って現場の1ブロック前でタクシーを降りちゃったらしくて、歩いて持ってきて(笑)。差し入れで何か買ってきたとかじゃなく、家で作った鶏汁を持ってきてみんなに振る舞ってくれた。そんな風に和気あいあいとしながら、とにかくいいものを作ろうとみんなで情熱のマキをくべていた現場でしたね。
未来の扉に向けて 「大きく深いステージにつながっている場所へ出たい」
―― 同作で、秀晃と郁巳、冴子(市川由衣)は、冴子の息子の隼人(岡本拓真)を守ろうとしていますよね。折りしも、窪塚さんもお子さんが生まれたばかりで、“子ども”という存在への考えを父親としての視点でお聞きしたいです。
窪塚 子どもは一人の命であるのは間違いないけれど、(親である)自分自身が生きた究極の証(あかし)だと思う。「子を見れば親が分かる」「仲間を見ればそいつが分かる」という言い方があるけれど、それは絶対あるなと。俺らは親に育ててもらって赤ちゃんから大人になるけれど、それとは別に、例えば男の子なら“男になる”というのは、“街”や“先輩”にしてもらうことがある。できるならそういうことまでも子どもにできるような親でいたいなと。
以前やったドラマで「悪いことをするなって言ってるんじゃないの。ダサいことするなって言ってるの」というセリフがあったんですが、それがすごくかっこいいなって。あと、「GO」の原作者の金城一紀さんと話したときも、金城さんが父親から「悪いことをしてもいいけれど、絶対一人でしろよ。仲間と悪いことするな」って言われていたと聞いて、仲間がいるから悪いことをするのはダサいことだなと。だから、子どもが何かをしたときに、それが自分自身を信じてやったことなら、その信念は応援したいと思う。
―― お子さんが生まれたことで、仕事に対する感覚に変化はありますか?
窪塚 デレデレしてますけどそんなに大きな変化はなくて、自分の胸のドキドキを信じて、やりたいことをやる感じ。今、レゲエミュージックの仕事で年間80本くらいライブをしていて、役者の仕事は本当にやりたいものだけをやる環境になってきている。デビューしてから、いろいろなことを言いつつここまで来たことが、全部今にちゃんとつながっていて、今はファミリーや仲間たちと一緒にいられて、風通しも未来の見通しもいい状態にあるので、日々に感謝して味わって楽しんでいけたらなと。
―― より広い視点、例えば海外での仕事なども意識されているのでは?
窪塚 そうですね。映画「沈黙-サイレンス-」でレッドカーペットを歩かせてもらって、その味を知ってしまいましたし。ただ、その扉が開いたわけじゃなくて、お試しでその味を食べただけ。
実は今、ジムに通ったり、英会話を習い始めているんです。英語は1年本気で勉強すれば話せるようになるんじゃないかといわれていて、そうなったら今開いてきている可能性や幅が角度がまた違ってくるだろうと。扉を自分で開けなかったら、10年、30年先の自分が「こんな感じかな」と見えてしまいそうになるけれど、扉を開けられたら無限だなと。大きく深いステージにつながっている場所に出たいので、そのために楽しんで準備をしています。
―― 次はハリウッド作品出演の際にお話を聞けたらうれしいです! 本日はありがとうございました。
(田下愛)
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