こんにちは。指圧師をしている斎藤充博です。書店やコンビニで、タイトルに「肩甲骨はがし」という言葉が入った本を見かけたことはありませんでしょうか。
肩甲骨はがしという言葉は、すっかり定番になっているように感じます。マッサージ店の看板にも「肩甲骨をはがそう」というような言葉が書いてあるのを見たことがあります。グーグルで「肩甲骨はがし」で検索すると、検索流入目当てとみられる記事がたくさん上がってきます。
ところで、肩甲骨って本当に「はがれる」のでしょうか。結論から言うと構造上、はがれるようなことはありません。
肩甲骨と周りに付いている筋肉
肩甲骨は鎖骨と関節しています。また、肩甲骨の周りには17もの筋肉が付いています。
その中の「前鋸筋(ぜんきょきん)」という筋肉に着目してみましょう。この筋肉は肩甲骨の内側の縁から始まり、そのまま肩甲骨の裏側を通り、胸の横側あたりで終わります。
つまり、この筋肉は肩甲骨の裏側と胴体をくっつけているのです。この筋肉の付着のラインを見れば、「肩甲骨ははがれない」ということが分かるのではないでしょうか。(もちろん他の筋肉も肩甲骨の位置を安定させています)
肩甲骨はがしの本を読んでみた
試しに一冊、コンビニで肩甲骨はがしのムックを買ってきました。『がんこなこりが一気に消える! 肩甲骨はがし』(宝島社)という本です。
「はじめに」にはこんなことが書いてありました。
「肩甲骨はがし」とは、このガチガチに固まった筋肉を筋肉のこわばりからはがして、コリから解放すること。
「肩甲骨はがし」という言葉はカッコ付きで表現されています。また、紹介されているのは、肩甲骨のまわりのストレッチです。やはり本気ではがそうとしているようには思えません。そりゃそうかもしれません……。
念のため言っておくと、ムックの内容はとてもいいです! 539円で肩こり解消のこんなまとまった情報得られるなんて、超素晴らしい。
はがれないのになぜ「肩甲骨はがし」なのか
さて、これらになぜ肩甲骨はがしという言葉がつけられているのか。想像に過ぎませんが、こんな状況が考えられます。
肩や背中がこると、肩甲骨が動きにくくなってきます。感覚的な話ですが、まるで肩甲骨が背中に「貼り付いている」かのように思えてきませんか。
まるで「貼り付いている」状態をなんとかしたい。その気持ちが「貼り付ける」の対義語である「はがす」を使って表現されているのだと思います。つまり「肩甲骨をはがす」は、「文学的な表現」というか「例え」みたいなことでしょう。
でも構造は知っておきたい
「肩甲骨はがし」という表現を否定する気はないのですが、やはり実際の肩甲骨の構造は知っておくべきです。
というのも、僕は過去に一度やらかしてしまっています。あれはまだ、僕が治療家にあこがれているだけで、専門学校にも通っていなかったころのことです。
そのときに買った一般向け整体の本に「肩甲骨は本来背中に対して浮いている」「友達の肩甲骨と背中の間に思いっきり4本の指を入れてグリグリすると肩がスッキリする」というようなことが書いてあったのです。
これを真に受けた僕は、友達の肩甲骨の裏側に思いっきり4本の指を突っ込んで、限界までグリグリしてしまいました。
友達は痛がっていましたが「大丈夫、本に書いてあるよ」と、どんどん自信を持って続けたのです。ところが、まったく肩こりは改善しませんでした。次の日友達は、激しい筋肉痛に襲われたそうです。1日程度で痛みは引いて、大事には至りませんでしたが……。今思い出しても冷や汗が出ます。
肩甲骨はがしの本を読んで実践したり、プロの施術を受けたりすることで、こんなことが起こるケースはまずないとは思うのですが、「セルフケアのキャッチフレーズは必ずしも実態に即しているとは限らない」と覚えておくといいかもしれません。
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