二次元総合ダウンロードショップの最古参であり最大手である「DLsite.com」。設立年は1996年と、同じECサイトでも楽天市場(1997年)やAmazon.co.jp(1998年)より登場が早いのですが、今になってその成り立ちが「意味不明すぎる」とネットユーザーたちを戸惑わせています。
きっかけとなったのは「DLsite.com」の運営企業であるエイシスのWikipediaに書かれている次の一文。
「猫好きの創業者が猫好きな人との交流を目的に立ち上げたパソコン通信になぜか『猫耳好き』が集まったことから方針転換して、1996年に日本初の同人ダウンロードショップとしてパソコン通信上でスタートした」(Wikipediaより)
“猫好き”のコミュニティに、“猫耳好き”が集まった……? それがなぜ同人ダウンロードショップに? 有名ショップなだけに衝撃と混乱が同時に押し寄せる説明文。これをあるTwitterユーザーが9月20日に「dlsiteの概要意味不明すぎる」と投稿したところ、大勢に「どういうことだ?」「意味わからん……」と疑問符を与えながら8000回以上もリツイートされました。
エイシスの担当者に確認したところ「事実です」と回答。2016年9月に「DLsite.com」の20周年記念イベントが開催された際、サービスの歴史を振り返る中で役員が初めて公表しました。特に隠していたわけではなく、これまで発信する機会がたまたま無くて20年目にしてようやく披露されたエピソードだったそうです。
にしてもこの説明だけでは謎が多すぎる。エイシス取締役の藤井純氏に詳しい成り立ちを話してもらいました。
「DLsite.com」は1996年に「ソフトアイランド」という名前で青木信夫氏が創業しましたが、その数年前、まだインターネットが一般的でなかったパソコン通信の時代、同じ猫好き同士でコミュニケーションをしようと「CAT-NET」というホストコンピュータを個人で立ち上げました。いわゆる「草の根BBS」の1つ。ちなみに青木氏のハンドルネームは「青ちゃん」です。
猫の情報や画像が集まると思いきや、CAT-NETには期待を裏切るように猫耳好きの参加者たちが集まり、猫耳の女の子のCGを投稿し始め、その数もどんどん増えていきます。オタク文化に全く縁のなかった青木氏にとってはなんのこっちゃという状況でしたが、みんな楽しんでいるようだから良し、と運営続行。しかしCG好きの会員が増えすぎてしまい、猫好き用と区別するため切り離す形でCG用の「CAT-CGNET」を新たに立ち上げました。
CAT-CGNETは猫耳に限らず多くの同人CGが投稿され、1993年ごろには「東京BBS」と並ぶ同人系の2大ホスト局として知られるほどに成長します。「めちゃくちゃ人気が出て、電話回線が2、3本では足りずもっと増やしたと聞いています」(藤井氏)
そこで青木氏は知り合ったネット仲間から、まだ認知度の低かった同人ソフトの存在を聞かされます。1994年にエイシスの前身となる有限会社アオキシステムを設立し、2年後にパソコン通信上で「ソフトアイランド」を日本初の同人ダウンロードショップとして開始。2001年に企業名とサービス名をそれぞれエイシスと「DLsite.com」に変更し、現在に至るわけです。オタク文化にうとかった管理人が、猫耳好きとの遭遇からこのような道をたどるとは、人生って本当に何があるかわからない。
藤井氏はCAT-CGNETに何回か訪問したことがありましたが、この創業経緯はおろか、青木氏がCAT-CGNETの管理人だったことも、エイシスに入社してから初めて知ったとのこと。
「聞いたときは歴史を感じました。あのCATCG-NETの『青ちゃん』が青木さんだったことも驚きましたし、『DLsite.com』はそんなに昔から脈々と続いてきたサービスだったんだなぁと。何より感動が大きかったです」(藤井氏)
今となっては笑い話にもなりますが、インターネットと同人コンテンツの縦のつながりを感じさせてくれる「DLsite.com」の創業秘話でした。あと、ネットにおいて猫はやはり強い。
(黒木貴啓)
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