オクルタートゥム 〜なるべく見えないものが見えているように見せたい〜
ここまで紹介してきた道具は、観客の心が読める(ように見える)ものや予言に近いものでした。少し趣向を変えて、透視現象の道具「オクルタートゥム」を紹介しましょう。
演者はいくつかのスチール製小箱を観客に見せます。演者には見えないよう、この小箱の中に指輪などを入れて、どこに入れたか分からないように混ぜてもらいます。演者はまるで中が見えているかのように、物の入った小箱を当てます。
正直なことをいえば、この「商品」は、マジックにあまり慣れてないひとには難しいかもしれません。が、演技力のあるひとなら、その難しさもクリアできてしまうかもしれないな、とも思います。
そう、この「商品」、演技力が必要なのです。というか、メンタルマジックに最も必要なものが演技力だとわたしは思っています。道具と仕掛けがシンプルな分、演技力がダイレクトに現象のクオリティを左右する「商品」なのです。
シャーロック 〜なるべく笑いをとってみたい〜
メンタルマジックはどうしても、シリアス路線になりがちです。もちろん、空気を支配するためにはシリアスで押し通すのも悪くはないのですが、とはいえ、コミカルな演技があってもいいはずです。
そこで、最近、日本語版が出た「シャーロック」を紹介します。
これは、ブックテストと呼ばれる演技のための道具です。ブックテストとは、観客の持っている本の任意のページに書かれた文字を、演者はその本を見ることもなく当てる、という現象です。
ひょっとすると、泡坂妻夫の『しあわせの書』をご存じのひとがいるかもしれませんね。
この本は、小説として楽しむことができて、かつ、小説の中で演じられているメンタルマジックを、その本で演じることができるという、唯一無二のものです。
それはさておき、このシャーロックは、2冊の本を使います。
演者は観客にシャーロック・ホームズの本を渡します。そして、演者からその本が見えないように、演者と観客は背中合わせに立ちます。観客が「○○ページ」というと、演者はそのページの内容を一言一句違えず、暗唱できます。
それもそのはず、実は演者も同じ本をこっそり読んでいたから……と思いきや、実は演者の持っている本は全て白紙、というオチです。
ただ、リンク先に書影もあるのですが、欧米のペーパーバックのような体裁の本で、このままだとちょっと使いづらいかもしれません。いっそ、自分でカバーを作って、それで覆ってしまえばいいのでは、と思います。
ブ・ウェーブ 〜なるべくトランプは使いたくないけど、たまには……〜
散々「マジック要素の強いものは避けたほうがいい」といって、トランプをやり玉に挙げたりもしましたが、最後に紹介する「ブ・ウェーブ」は、トランプを使った道具です。ただし、1組52枚全部ではなく、そのうちの4枚だけを使います。
演者は、「ここに4枚のカードがあります。クイーンですが、1枚だけ表向きにしてあります」と言って、観客に1枚のクイーンを選んでもらいます。演者が4枚のカードを広げると、観客の選んだクイーンだけが表向きです。
さらに、そのクイーンを抜き出すと、裏模様がほかのカードとはちがいます。つまり、このカードが選ばれることが分かっていたため、ほかのトランプから抜き出してきたのです。
さらに、クイーン以外のカードを表向きにすると、全部真っ白です。つまり、カードをこっそり入れ替えることはできません。
実演動画を見てもらうと良いかもしれませんが、できれば、実際に自分が観客の立場になって体験するのがベストだと思います。
この道具は、古今東西のメンタルマジックの中でも十指に入るであろう名作です。使う道具はトランプ4枚ですり替えなし、現象は分かりやすく、しかも3段に渡って驚きが連続します。
以上、6つの道具を紹介しました。しかし、道具は道具でしかありません。上にも書きましたが、メンタルマジックは演技、あるいは演者のキャラクタが現象の面白さを大きく左右します。現象が圧倒的に不思議なだけに、現象に振り回されると、観客の心に何も残すことなく終わってしまいます(わたし自身がそういう演者であった、ということです)。
比較的手軽(でないものもありますが)な道具を紹介しました。これらを手にすれば、メンタルマジックを演じること自体はたやすいでしょう。それをどうやって面白くするかは、手にしたひと次第です。
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