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EVO2015の歴史的珍事「早すぎたガッツポーズ」の裏側にあったもの “勝負を分けたカウンターヒット”を生んだ「0.1秒の駆け引き」(3/3 ページ)

席を立ったことは紛れもないミスだが、その時点で勝敗が決まったとは言い切れない。

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 ヲシゲはゲージ管理を始めとした完璧な状況判断と、的確なコンボ選択で最終セットの2ラウンド目を勝利。会場は湧き、完璧なプレイを誇るかのようにヲシゲは席を立ってしまった。一方、歓喜するヲシゲとは対象的に、小川は極めて冷静に「ヲシゲは急いで席に戻るはずだ」と考えていたという。


画像 単発のヒット確認から覚醒必殺技を2回連続でヒットさせるコンボ。この状況で相手を確実に倒し切ることができる唯一のコンボだった(画像はYouTubeより)

画像 ヲシゲが席を立った瞬間も、小川は冷静に画面を見つめていた

 そして、「この状況でコントローラーに触れたら、ヲシゲはどんな行動を取るのか」を予想。短い時間の中で最も可能性が高いと判断したのは、“レバーを後ろに入れた状態で「HS」(※)のボタンを押すこと”だった。

【HS】読み方は「ハイスラッシュ」。ボタンを押すだけで出せる通常技の1つ。ストリートファイターシリーズでいう「強パンチ」のようなもの。


 ヲシゲが操作するのは、トップクラスのスピードと強力な起き攻め(※)を特徴とする「ミリア=レイジ」というキャラクター。ミリアのHSは、外したときのスキは大きいが発生が非常に早く、仮にヒットしていればそこから起き攻めに移行でき、レバーを後ろに入れておけば近づいてきた相手を通常投げ(※)で投げられる可能性もある。「暴れ」(※)としてHSがヒットしても、投げを当てても、そこからミリアの勝ちパターンへ移行できる。


画像 「ミリア=レイジ」(画像はGUILTY GEAR Xrd -SIGN-公式サイトより)

画像 ミリアのHS(画像は続編に当たる「GUILTY GEAR Xrd REV 2」のものだが、モーションはEVO2015時点とほぼ同じ)

【起き攻め】ダウンした相手が起き上がるときに攻め込む行動の総称。ミリアの起き攻めは非常に見切りづらい上に、起き攻めが成功するとそのまま再度ダウンを奪い、次の起き攻めに移行できる。


【通常投げ】全てのキャラクターが使用できる投げ技のこと。ギルティギアシリーズでは、相手に近づいて左右どちらかにレバーを入れた状態でHSボタンを押すと通常投げが成立する。


【暴れ】攻めてくる相手に対し、ガードを固めるのではなくあえて技を出すことで相手の攻めを止めようとすること。


 もちろん、ヲシゲがこの通りに考えているという確証はない。しかし、当然迷っている時間もない。小川はザトーを棒立ちしているミリアの眼の前に移動させ、自らの判断を信じてカウンターヒットしたときに大ダメージを奪うことができる技「しゃがみHS」を打った。


画像 カウンターヒットする直前の様子。小川はしゃがみHSを打っており、ヲシゲはHSのモーションに入ったばかり(画像はYouTubeより)

 レバーを後ろに入力すれば問題なくガードできるタイミングだったが、ヲシゲはHSを押してしまっていた。お互いの技が交差するが、ボタンを押したタイミングはわずかに小川の方が早く、ザトーの技がカウンターヒット。そして小川は画面上のカウンターヒット表記を冷静に確認し、カウンター時限定の大ダメージコンボをミスなく決め、そのままの勢いで勝利した。勝敗が決した後、今度は小川が観客に向かって勝利をアピールすることとなった。


画像 KOの瞬間(画像はYouTubeより)

画像 観客に向かってアピールする小川(画像はYouTubeより)

 小川によると、「仮にしゃがみHSがカウンターヒットしていなかったら、よくて3〜4割のダメージ。いずれにせよ状況は有利になるが大ダメージコンボにはならない」という。もし、あのタイミングでヲシゲがHSを押していなかったら、最終ラウンドの存在に気付くタイミングがほんの少しずれていたら、ザトーの踏み込みがもう少し深ければ、小川がカウンターヒットを見逃していたら――あの状況でカウンターヒットを成立させられる猶予は0.1秒ほど。ほんの少しでも状況がずれていれば、あの事件は起こらなかった可能性が高い

 格闘ゲームは、1フレーム――つまり60分の1秒の差が勝敗を分かつ競技だ。ヲシゲが席を立ったことは紛れもないミスだが、その時点で勝敗が決まったとは言い切れない。その直後の展開にもフレーム単位の駆け引きが繰り広げられていたのだ。


画像 その後、順当に勝ち進んだ小川はそのまま優勝。EVO2015の王者となった(画像はYouTubeより)

 EVO2018は8月3日から3日間開催される。きっと今年も多くの名勝負が見られるはずだ。

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