検索データを分析すると未来が見える? ヤフーが開発した「Yahoo!検索トレンドマップ」とは何か
TwitterとInstagram関心者の検索ワードってこんなに違うの……?
毎年その膨大な検索データの中から検索数が急上昇したものを表彰する「Yahoo!検索大賞」。2018年は検索大賞の5周年を記念した特別企画として、「Yahoo!検索トレンドマップ2018」というものを発表しています。
これは2018年の検索データの中から「検索数」「トレンド指数」という2つの指標を使って、“次に流行るモノ”を発掘しようという新しい試み。検索数と上昇傾向をもとにブレイク中のものやポテンシャルを秘めたキーワードをマッピングし、今後のブレイクが期待できるキーワードを可視化しています。
発表されたのは「お笑い芸人篇」「アイドル篇」「ミュージシャン篇」「トレンドワード篇(Instagram関心者ベース)」「トレンドワード篇(Twitter関心者ベース篇)」の5ジャンル。ネクストブレイクというだけあって見慣れないキーワードも多いこのマップをどう読み解けばよいのか。ヤフーでデータ分析業務を担当する池宮伸次さんに話を聞きました。
―― どうして今年から「Yahoo!検索トレンドマップ」を作ることになったんですか?
池宮:ヤフーは膨大な検索データを持っていてニュースやショッピングなどに活用しているんですが、もっと皆さんの目に見える形で活用したいなと以前から思っていたんです。よく「来年の予測はできないの?」「もうすぐ流行りそうな人が知りたい」みたいなことを聞かれるんですね。
例えばビッグデータ分析による「インフルエンザの流行の予測」「選挙の当選予測」などはこれまでもやってきました。選挙やインフルエンザについては過去の事例を元に最新のデータを当てはめることである程度は推測することができます。ただ、「来年流行る言葉」みたいに過去のデータの蓄積や傾向があまり関係ないものって非常に予測しづらいんですね。
そこである程度条件を絞って近しい予測を出せないか、と取り組んだのが今回の「トレンドマップ」です。4つのエリアがあるんですが、特に左上の「ネクストブレイクエリア」を見ることで来年話題になるであろうモノ・コトを早めにキャッチできるんじゃないかと。
―― ブレイクの前兆があるものをデータとして見られるようにしたんですね。
池宮:具体的には横軸が検索数。左から右に行くほど検索数が多く世の中の関心が高いものです。縦軸がトレンド指数。これは少しややこしいんですが、日々じわじわと検索数が上がってきているもの、期待度が高まっているものを抽出しています。
―― ロジックは結構シンプルなんですね。
池宮:そうですね。検索大賞と同じく2018年1月1日から11月1日までのデータから出しているんですが、ネクストブレイクを重要視するために年間を通しての検索傾向に加えて、直近3カ月の検索傾向をより加点するスコア調整をしています。「じわじわ盛り上がってきている」という点が大事なので、一時期だけバーンと盛り上がったものは入りにくい仕組みにしています。
―― これで来年ブレイクするものがわかるんですか?
池宮:これって「予測」じゃなくて現時点で伸びてきてるよ、という「事実」を表示したものなんですね。なので、このままの傾向が続けばネクストブレイクエリアにいる人のうち何割かはブレイクするだろう、という風に見てもらえれば。
―― なるほど。絶対来る、というものではなく「この中から誰が出てくるかな」と考えて楽しむ感じですね。ちょっと実際見てみましょう。
お笑い芸人篇
池宮:まずお笑い芸人篇ですね。トレンドマップの趣旨的に「ネクストブレイク」を考えるのが面白い、ということでデビュー15年以内のお笑い芸人を対象としています。
―― M-1っぽいですね。
池宮:なので明石家さんまさんとかビートたけしさんみたいな既に昔から活躍されている人はリストから外れています。右下は検索数も多く人気が安定していると思われる「ポピュラーエリア」。右上は検索数も伸び率も高い「ブレイクエリア」です。今年テレビにもたくさん出ていたチョコレートプラネットさんとかが入っていますね。
―― 僕、四千頭身(※)が個人的にすごい好きなんですけどブレイク扱いなんですね。なんかうれしい。
四千頭身
2015年結成のお笑いトリオ。ツッコミ後藤の21歳とは思えない脱力系ツッコミなどで注目を集めている。
池宮:私も好きです。ちなみに芸人篇を作ったのは私が芸人好きだから、という理由もあります。
―― そんな個人的な理由が(笑)。僕もお笑い好きなんですが、四千頭身はM-1でも準々決勝で落ちちゃったしまだネクストブレイクなのかなって印象でした。
池宮:四千頭身さんは年始からテレビの露出が増えていたのが要因かなと思います。まだ若いのにツッコミの人が落ち着いててすごい……こんなに四千頭身さんの話ばっかりしていいんですか?(笑)
―― すいません、つい興奮して……。じゃあやはりテレビに出ると検索数が増えるってことなんですか。
池宮:芸人は特にそうですね。テレビで活躍している人の名前が右側に多くあります。あとはテレビに出た後、YouTubeやSNSで火が付いたしゅんしゅんクリニックP(※)さんとかもブレイクエリアにいますね。
しゅんしゅんクリニックP
医師免許を持つ異色のピン芸人。経歴を生かした医療歌ネタ動画などでネット上でも人気に。
―― では左側のネクストブレイクエリアはどうでしょう。
池宮:こっちはやはり相当マニアックになってかなりお笑い好きじゃないと見たことのない名前も多いかと思います。(同席の)広報がさっきからずっとキョトンとしてますが(笑)。
その中でも左下の「ポテンシャルエリア」はまだコアなファンだけが注目している段階、上に行くとそろそろブレイクが期待できる「ネクストブレイクエリア」になります。
―― それでもだいぶマニアックですが、今年のM-1でいい位置まで来た名前もありますね。
池宮:このマップは今年の1月から11月1日までのデータで作ってるんですが、今年M-1の決勝に出たトム・ブラウン(※)さんの名前もあります。決勝進出が発表される前から高い位置にいたということがわかりますね。
トム・ブラウン
M-1グランプリ2018で初の決勝進出。「サザエさんの中島くんが5人合体する」という振り切ったネタで強烈なインパクトを残した。
―― あ、金属バット(※)がすごい上のほうにいる! 僕、今年のM-1の敗者復活戦は金属バットにめちゃくちゃ期待してたんですよ。
金属バット
大阪出身のお笑いコンビ。見た目も内容も釘バットくらい尖ったお漫才で各方面をざわつかせている。
池宮:私も金属バットさん大好きです。去年も準々決勝まで残ってて……周りが誰もついてきてないのでこの辺にしておきましょう(笑)。
―― こうやって好きなジャンルのマップを見てわいわいやるのが楽しいってことですね。
池宮:ちなみにチョコレートプラネット長田さんとか霜降り明星せいやさんとか個人名の検索が多い人はピックアップして載せているものもあります。単に「きつね」だと芸人なのか動物なのかわからないので「きつね 芸人」で検索されたものをカウントする、みたいな処理をしているものもありますね。
アイドル篇、ミュージシャン篇
―― アイドル篇のマップは芸人篇に比べると数が少ないですね。
池宮:そうですね、芸人に比べるとだいぶメジャーな方が含まれたマップになりました。右上は防弾少年団さんやKing & Princeさんなどまさにブレイクしたなという人。右下の乃木坂46さん、欅坂46さんなどは安定して検索量が多いです。
左に行くほどアイドル好きじゃないとわからない名前になってくるかなと。ネクストブレイクエリアにはKissBeeさん、ミルクス本物さん、lyrical schoolさんなどが高い位置にいます。
―― 確かにアイドル好きの友人が熱心にツイートしてる名前とかがちらほらあります。
池宮:この辺をアイドル好きの人が見るとより楽しいというコンセプトになっていますね。
―― アイドルのファンって熱心な人が多いと思うんですが、ファンが結託して1日何回も検索して「あいつをマップに入れようぜ!」みたいな動きをしたらどうなるんですかね?
池宮:どうでしょう(笑)。100人のファンが毎日検索するよりもファンの数が数百人、数千人に増えることで検索数がじわじわ上がる方が指数が高くなりやすいロジックをもとにしているので、長いスパンで見るときちんとファンが増えて話題になっているものが優先されるんじゃないかと思います。
―― なるほど。ミュージシャン篇はまた一転して数が多いですね。
池宮:米津玄師さんがぶっちぎりでブレイクしてますね。あいみょんさん、きゃりーぱみゅぱみゅさんもブレイクエリアにいます。
―― きゃりーぱみゅぱみゅは長年安定して人気があるのでポピュラーエリアっぽい印象でした。
池宮:あくまで検索数推移から抽出された結果なので、そのあたりは難しいところですね。例えば「なぜこの人がブレイクなんだろう?」という人を調べてみると今年大きなライブをやったとかインスタで流行っていた、みたいなことがあったりして。そんな風に読み解いていくのもこのマップの楽しみ方のひとつです。
―― ザ・クロマニヨンズがネクストブレイクにいるのも面白いですね。相当ベテランなのに。
池宮:今年のデータのみを使用しているので「再ブレイクするかも」という名前も入ってくる仕組みになっています。テレビに出た、ライブをやった、などどこで火がついたかの要因はわかりませんが、データとして出てきているので何かしら世間を盛り上げたというのが各々にあるはずなんですね。
―― ミュージシャンもデビューから15年以内を対象にしてるんですね。大ベテランのリバイバルブームみたいなのはこのマップだと拾えない?
池宮:あまり範囲を広げすぎるとマップがびっしり埋まって読めないので(笑)。理論的にはそうしたデータも出せるので、そのあたりの調整は今後の課題かなと思っています。
InstagramとTwitterの「トレンドワード篇」
―― 最後に「トレンドワード篇(Instagram/Twitter関心者ベース)」。これはいわゆるTwitterの「トレンド」とは違うんですね?
池宮:そうですね。「関心者ベース」としているんですが、どういうことかと言うとヤフーで「Instagram ログイン」「Twitter ログイン」などで検索する人がたくさんいるんです。つまりその人はTwitterやInstagramを利用している可能性が高いと思われるわけですが、じゃあそういう人たちは他にどんなワードを検索しているのか、というのを集めたマップです。
―― なるほど。あくまでYahoo!検索のデータの中から抽出したものだと。
池宮:この2つは店の名前、場所、人名などいろいろなキーワードがごちゃ混ぜになっているのが特徴ですね。
―― 実際見てみると、びっくりするくらいInstagramっぽさとTwitterっぽさがありますね。
池宮:そうなんですよ。例えばInstagramでブレイクしている「ゴンチャ」はタピオカのお店です。私も最近知ったんですが、今第三次タピオカブームでInstagramでも非常に人気があるみたいですね。
―― 僕はそれほどInstagramは見ないんですが、こないだ街のタピオカ屋さんに行列ができてるの見て「マジで流行ってるんだ」って思いました。「ナイスクラップ」っていうのは?
池宮:ファッションブランドですね。「17kg」っていうのも韓国のレディースファッション通販サイトです。
―― 知らなかった。おっさんがバレる……。
池宮:「ロックハート城」とか「地中海村」もインスタ映えするスポットとして流行っていてポピュラーエリアに入っています。ネクストブレイクエリアの「チャタイム」もタピオカミルクティーが人気のお店。老舗ファッションブランドの「KANGOL」も今インフルエンサーとコラボしたりしてインスタで再ブレイクしています。
―― 一方でTwitterは「いかにもTwitter」って感じのワードですね。
池宮:ブレイクエリアの「質問箱」とかはまさにTwitterの文化ですね。ポピュラーなものも「おっさんずラブ」「新しい地図」などTwitterで話題になったものが並んでいます。
―― インスタとこんなに明確に変わるのか……。
池宮:Twitterに関心がある人はまとめサイトを見たり、アニメやゲーム、VTuberなど検索しているものがとても幅広いですね。ネクストブレイクエリアにも新しいアニメやゲームタイトルなどが入ってきています。
注目度が高いところだと雑誌付録のレビューサイト「キラキラ付録レビュー」や、電子書籍サービスの「ブックウォーカー」などが入っていますね。
―― インスタに比べるとよりネット上の話題に特化した感じがしますね。なんか日頃いかに自分がネット中心に生活してるかを突き付けられた気がする……。
池宮:自分の知らなかった文化や名前がわかるのもこのマップの面白いところだと思います。
トレンドマップの活用法
―― 現状は5種類のマップですが、他の分野でもトレンドマップを作ることはできるんですか?
池宮:理論的には思いつく限りの出し方は全て可能です。例えば「カメラ好き」「一眼を使ってるユーザー」とかで絞って関心の高い情報を集めるとか。そのデータから「次にブレイクするレンズはこれだ」というのを予想して市場分析をしたり、さまざまな使い方ができると思ってます。
―― 来年ブレイクしそうなタレントを今のうちにブッキングしておこう、とかいうこともできるかもしれないと。
池宮:それからInstagramを分析していて面白かったのが、女子高生の文化が結構見えてきたりするんですよ。例えば体育祭の時期だと「体育祭おそろいコーデ」みたいなワードがあったり、もっと極端に言うと授業で今習っている「徒然草」が出てきたり。
今回は特化したデータを集めて5種類のマップにしましたが、世の中の関心全般が何か、など広い範囲でも出せるかもしれません。データさえあればいろいろなマップの出し方ができる、という汎用性の高さがいいなと思っています。
―― 今後このマップをどうしていきたい、あるいはどう使ってほしいという思いはありますか?
池宮:まずは単純に反応がほしいですね。何も反応がなかったら来年はなかったことになってるかもしれないので(笑)。
市場分析だったり来年流行るモノや人の分析だったり、いろいろな使い方があると思っているんですが、まだロジックを検証できていないところもあって今回のものが100%正解だとは思ってないんです。調整を重ねればもっと精度は洗練できると思います。現状は作り置きですが、昨日のデータを考慮して毎日マップが更新されていくほうが個人的にも面白いと思いますし。
―― まだ新しい試みということですね。
池宮:はい、「これで確実に未来がわかる」というものではなくてそのヒントがたくさん詰まっているよ、という部分を楽しんでもらえれば。また、「こういうジャンルで見たい」などの声があれば柔軟に対応できるので、ぜひいろいろご意見をいただければと思います。
検索データから次に流行るモノの予兆を探る「検索トレンドマップ」。「このワードがこんな高い位置にあるんだ!」「これは知らないけどなんだろう」など見ているだけでもいろいろと楽しめます。皆さんも興味のあるジャンルのマップをじっくり眺めてみると、未来を予想する上で新しい発見があるかもしれません。
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提供:ヤフー株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ねとらぼ編集部/掲載内容有効期限:2018年12月16日