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「必ず座れる通勤電車」考察 東急「Qシート」は他と何が違うのか月刊乗り鉄話題(2019年2月版)(2/4 ページ)

なぜ「Qトレイン」ではなく「Qシート」なんですかね?

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東急Qシート 「一部指定」の利点

 Qシートは関東大手私鉄としては珍しい「一部車両有料指定席」です。

Qシート 有料座席指定 通勤電車
Qシート車両を連結する急行電車が到着。折り返して長津田行きになる

 他の地域では前例があります。名古屋鉄道は1964年に座席指定列車を運行開始。1990年から特急電車の一部に有料指定座席車両を設置しています。1999年から「特別車」という名で呼ばれ、料金は1乗車につき360円。リクライニングシートの快適な車両です。ほとんどの特急列車にこの特別車が組み込まれていますが、同じ列車に通常の通勤タイプの車両も連結しています。

Qシート 有料座席指定 通勤電車
名古屋鉄道の「特別車」、「パノラマsuper」こと1000系。普通車の1200系と連結して走る。なお、空港特急「ミュースカイ」は全車特別車である

 京阪電鉄は2017年から特急電車8000系の一部に「プレミアムカー」という有料指定席車両を連結しています(関連記事)。横3列のリクライニングシートで、テーブルも備える上等な仕様です。

Qシート 有料座席指定 通勤電車
京阪電鉄特急電車8000系
Qシート 有料座席指定 通勤電車
京阪電鉄特急電車8000系に連結された「プレミアムカー」

 また、8000系を全車指定席にした「ライナー」も平日朝に運行しています。8000系は日中も運行しているため、プレミアムカーは通勤客だけではなく、大阪と京都を移動する観光客やビジネス客にも便利に使えます。筆者も先日、京都、鞍馬電鉄の取材のあと、大阪へ行くために利用しました。快適でした。

Qシート 有料座席指定 通勤電車
京阪電鉄プレミアムカーに備わるゆったりリクライニングシート。テーブル付きでまさにプレミアム。プラス500円の価値はある
Qシート 有料座席指定 通勤電車
手前から3両目の6号車がプレミアムカー。ちなみに4号車は2階建て車両で、こちらは特別料金なしで乗車できる。いろいろ選べて京阪電車スバラシイ

 有料座席という意味では、JR東日本の「グリーン車」も一部車両の運用ですね。前述したプレミアムカー、特別車、そして東急のQシートは「グリーン車の指定席版」といえます。JR西日本は2019年春から新快速に「Aシート」(関連記事)を導入します。料金は1乗車につき500円。指定席ではなく、定員制です。座席の数だけ乗車整理券を販売し、好きな席に座れます。毎日2往復の運転です。

 この流れを追うと、全車指定席列車の増加は落ち着き、「一部指定列車が増えている」ように見えます。この一部指定列車はどのような利点があるのでしょうか。

Qシート 有料座席指定 通勤電車
Qシートの座席は座席は手動で回転できるらしい。4人で乗れば向かい合わせも可能か

【メリット1】少ない投資で多数の列車に導入できる

 もっとも大きなメリットは「少ない投資で多数の列車に導入できる」です。

 2019年2月現在、Qシート車両を連結している列車(以下、Qシート列車)は2編成が稼働しています。1本目が長津田駅に到着し、大井町駅に戻るまでの間に急行は6本。この中に2本目のQシート列車があります。19時台から23時台まで、急行電車は全部で14本。このうちの5本がQシート列車です。全列車にQシートを導入するには、あと5両のQシート車両が必要です。合計で7両。実際には、電車の安全検査期間中に走らせる数台の予備車両も必要です。

Qシート 有料座席指定 通勤電車
1時間あたり4本の急行が走っているとします
Qシート 有料座席指定 通勤電車
この運行を維持するために必要な車両編成は7本です

 では、1編成が全てQシート車両である、いわゆる「Qトレイン」を作るとしたらどうなるでしょうか。急行は7両編成ですから、7倍の製造費用が掛かります。現在のように「1時間ごとに1日5本を運行」するならば、2編成14両ぶんの新造費用が掛かります。鉄道車両は定期的に複数日に渡る検査が必要になるため、検査による運休を避けるには予備も7両1本が必要です。

 さらに、全ての急行列車をQトレインにするならば、7編成分が必要です。7両×7編成で計49両の新造が必要になります。

 それに対して、19時台から23時台の全ての急行列車で1両だけQシート車両にするくらいならば、7両分の新造コストで済みます。

Qシート 有料座席指定 通勤電車
「Qシート」7両を全部使って「Qトレイン」を編成すると、運行本数は片道3本です
Qシート 有料座席指定 通勤電車
「Qシート」7両を分散して7編成にすると、全ての急行に「Qシート」を連結できます

【メリット2】輸送力の減少度を抑えられる

 もう1つの利点は「輸送力の減少度を抑えられる」です。

 東急大井町線7両編成の急行電車を全て有料座席指定列車に置き換えた場合、1列車当たりの乗車人数は約340人になります。しかし、本来なら立ち席含めて混雑率140パーセントとして、1500人以上の輸送力があります。つまり、そのまま急行を座席指定列車に置き換えると、1000人分以上も積み残しが出ることになります。

 その1000人はホームに残留して次の電車を待ちます。すると次の電車も混雑して、また積み残しが出ます。このように混雑のスパイラルが続いてしまいます。

 実際、京急電鉄が京急ウィングの運行を始めたときも「次に発車する特急が大混雑」という事態になりました。そこで京急は混雑対策のために、ウィングの後に快特を続行運転しています。

 今後、Qシートの人気が高まり「Qトレイン」を走らせるならば、続行する急行も必要でしょう。現時点、東急大井町線のダイヤはまだゆとりがありそうなので、急行の続行運転はできそうです。ただ、今のところは1車両だけでも空席があります。一部有料指定席に留めておくのが得策なようです。

photophoto 会員登録(無料)すればスマホでチケットを買える。画面はシートマップで席を選んでいるところちなみに6番、9番、12番は窓側を選んでも戸袋窓部分で窓なしなので注意。筆者はこれまで3回乗ったけど、通路側の方が何となく開放感があって好き

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