東急Qシート 「一部指定」の利点
Qシートは関東大手私鉄としては珍しい「一部車両有料指定席」です。
他の地域では前例があります。名古屋鉄道は1964年に座席指定列車を運行開始。1990年から特急電車の一部に有料指定座席車両を設置しています。1999年から「特別車」という名で呼ばれ、料金は1乗車につき360円。リクライニングシートの快適な車両です。ほとんどの特急列車にこの特別車が組み込まれていますが、同じ列車に通常の通勤タイプの車両も連結しています。
京阪電鉄は2017年から特急電車8000系の一部に「プレミアムカー」という有料指定席車両を連結しています(関連記事)。横3列のリクライニングシートで、テーブルも備える上等な仕様です。
また、8000系を全車指定席にした「ライナー」も平日朝に運行しています。8000系は日中も運行しているため、プレミアムカーは通勤客だけではなく、大阪と京都を移動する観光客やビジネス客にも便利に使えます。筆者も先日、京都、鞍馬電鉄の取材のあと、大阪へ行くために利用しました。快適でした。
有料座席という意味では、JR東日本の「グリーン車」も一部車両の運用ですね。前述したプレミアムカー、特別車、そして東急のQシートは「グリーン車の指定席版」といえます。JR西日本は2019年春から新快速に「Aシート」(関連記事)を導入します。料金は1乗車につき500円。指定席ではなく、定員制です。座席の数だけ乗車整理券を販売し、好きな席に座れます。毎日2往復の運転です。
この流れを追うと、全車指定席列車の増加は落ち着き、「一部指定列車が増えている」ように見えます。この一部指定列車はどのような利点があるのでしょうか。
【メリット1】少ない投資で多数の列車に導入できる
もっとも大きなメリットは「少ない投資で多数の列車に導入できる」です。
2019年2月現在、Qシート車両を連結している列車(以下、Qシート列車)は2編成が稼働しています。1本目が長津田駅に到着し、大井町駅に戻るまでの間に急行は6本。この中に2本目のQシート列車があります。19時台から23時台まで、急行電車は全部で14本。このうちの5本がQシート列車です。全列車にQシートを導入するには、あと5両のQシート車両が必要です。合計で7両。実際には、電車の安全検査期間中に走らせる数台の予備車両も必要です。
では、1編成が全てQシート車両である、いわゆる「Qトレイン」を作るとしたらどうなるでしょうか。急行は7両編成ですから、7倍の製造費用が掛かります。現在のように「1時間ごとに1日5本を運行」するならば、2編成14両ぶんの新造費用が掛かります。鉄道車両は定期的に複数日に渡る検査が必要になるため、検査による運休を避けるには予備も7両1本が必要です。
さらに、全ての急行列車をQトレインにするならば、7編成分が必要です。7両×7編成で計49両の新造が必要になります。
それに対して、19時台から23時台の全ての急行列車で1両だけQシート車両にするくらいならば、7両分の新造コストで済みます。
【メリット2】輸送力の減少度を抑えられる
もう1つの利点は「輸送力の減少度を抑えられる」です。
東急大井町線7両編成の急行電車を全て有料座席指定列車に置き換えた場合、1列車当たりの乗車人数は約340人になります。しかし、本来なら立ち席含めて混雑率140パーセントとして、1500人以上の輸送力があります。つまり、そのまま急行を座席指定列車に置き換えると、1000人分以上も積み残しが出ることになります。
その1000人はホームに残留して次の電車を待ちます。すると次の電車も混雑して、また積み残しが出ます。このように混雑のスパイラルが続いてしまいます。
実際、京急電鉄が京急ウィングの運行を始めたときも「次に発車する特急が大混雑」という事態になりました。そこで京急は混雑対策のために、ウィングの後に快特を続行運転しています。
今後、Qシートの人気が高まり「Qトレイン」を走らせるならば、続行する急行も必要でしょう。現時点、東急大井町線のダイヤはまだゆとりがありそうなので、急行の続行運転はできそうです。ただ、今のところは1車両だけでも空席があります。一部有料指定席に留めておくのが得策なようです。
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