ローカルテレビ局の仕事をリアルに描いた名作『チャンネルはそのまま!』が北海道テレビ放送開局50周年記念ドラマとして実写化、3月18日〜22日に5夜連続放送されている。このドラマ、仕事や仕事での自分の存在意義に悩んでいる人にメチャクチャしみる作品だ。
原作は同名漫画で、2008年から2013年にわたって『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載。作者は『動物のお医者さん』でも知られる北海道札幌市在住の漫画家・佐々木倫子さんだ。北海道テレビ放送の全面協力のもと、佐々木さんの世界観が二次元から三次元になっている。
舞台はHTB(北海道テレビ放送)……をモデルにしたHHTV(北海道★テレビ)。主人公の雪丸花子は「バカ枠」として採用された新人記者だ。HHTVでは、時折「バカはエースストライカーになるかもしれない」との思いから「バカ枠」採用を行っていた。雪丸はその枠にふさわしく、天然ボケでおっちょこちょいなドタバタっぷり。
雪丸を演じるのは、ドラマ「表参道高校合唱部!」や映画「累-かさね-」での演技も印象的な芳根京子さん。猪突猛進で、何度も失敗するが、不思議と周囲を巻き込む魅力をもった雪丸を好演している。
The・新人の雪丸だけでなく、雪丸の世話係として奮闘する記者・山根や、放送の枠組みを決める責任に悩む編成・北上にもスポットライトが当たる。それぞれが任された仕事に悩み、自分なりにブレイクスルーする――という“お仕事もの”だ。
“壁を乗り越える力になる”雪丸の魅力
1話は、同期のアナウンサー・花枝まきがぶつかった“壁”を、期せずして雪丸が壊すことになるエピソードだった。新人アナウンサーの登竜門「初ニュース」を控えた花枝は、「フレッシュさが足りない」という壁にぶつかる。そつがない彼女は、先輩からなかなかアドバイスを受けられず、また新人の典型のような雪丸を見習うこともできない。
ついに初ニュース直前。読む予定だった2本目の原稿が手元に来ず、花枝は焦る。実は2本目の原稿は、ギリギリまで取材していた雪丸の原稿だった。結局雪丸の書いた原稿が手元に渡ったのは、生放送のニュース番組がスタートしてから。誤字脱字だらけで、しかも北海道独特の難読地名にミスで一切ルビが振られていない雪丸の原稿を、初見で読まなければいけない……。緊張で手が震える花枝は、カメラに映らないテーブルの下で足を開いて踏ん張る。「ここからが勝負!」
次から次へと出てくる難読文、誤変換、わかりにくい表現、字が汚くて読みにくい書き入れを、花枝はクリアしていく。ひとつ乗り越えるたびに、花枝は“覚醒”していく。最後の最後で起こる“あるトラブル”も機転で乗り切り、初ニュースをノーミスで伝えきった。拍手が響き渡る局内、ガッツポーズを決める花枝。花枝に試練を与えたともいえる雪丸が、感動して花枝に駆け寄る。花枝はのちに「(壁を乗り越えられたのは)意外と、雪丸さんのおかげだったりして」と語るのだった。
「自分はバカだ」と悩んだことがある人へ
雪丸はバカだが、ただのバカではない。花枝だけではなく、誰かが壁を乗り越えるきっかけを与えていく。しかし、雪丸本人はそれに気づいていない。彼女はただ目の前の仕事に一生懸命で、自分が人にきっかけを与えているなどとみじんも思っていない。
ドラマの世界だけでなく、実際の世界でもそうだ。きっと誰しもが、他人に影響を与えている。何かを突破するきっかけになったり、ちょっとしたことで他人を救ったりする。雪丸のように、それに本人は気付かない。
「仕事のできなさ」や「自分の存在意義」に悩むことは、社会人なら誰にでもあるだろう。周囲に迷惑を掛けて落ちこんだり、情けなくなったりすることもある。自分がどうやって仕事と向き合っていくべきか自覚することは、ベテラン社会人でも難しいことだ。「今日目の前の仕事に取り組むことで精いっぱい」だという人は多く、それを気に病むこともあるだろう。
でもきっと、優秀な人間だけに存在意義があるわけではない。雪丸は優秀ではないし、落ち込み、しょぼくれることはある。でも、すぐに次の仕事へ向かって全力で駆け出していく。人に助けられてなんとか頑張っている。「できません」「わかりません」と人の助けを借りて、少しずつ成長していく。
一番大切なことは、委縮しないことなのかもしれない。「できない」「わからない」自分に落ち込むだけではなく、そんな自分がどうすればできる、わかるようになるのか考えること。雪丸は「人の助けを借りる」という方法で前に進み、時に信じられないような活躍を見せる。
誰もが雪丸のようにあっけらかんとしていられるわけではない。けれど、必要以上に気に病んでも何も生まれない。バカにも新人にも存在意義はある。「バカは時々きっかけをくれる」という作中のセリフは、「自分はバカだ」と悩んだことがある人の心に染みる。フレッシュマンでも、ベテランでも。
今夜HTBで最終話放送!
今日3月22日の23時10分から北海道テレビで放送される最終話では、物語のクライマックスとして、雪丸が前代未聞の生中継に挑む。「TEAM NACS」の大泉洋演じるNPO団体代表・蒲原と雪丸が語り合うシーンは、まさに今生中継を見ているかのような緊迫感。雪丸は蒲原の思いを引き出すことができるのか? それを放送することができるのか――?
「チャンネルはそのまま!」は、Netflixで全5話が独占配信中。3月21日からは、全5話同時に190カ国以上でのグローバル配信もスタートしている。メ〜テレ、テレビ埼玉等の放送局でも順次放送予定だ。
ちなみに、北海道テレビ放送は2018年9月に社屋移転を行ったが、ドラマでは旧社屋をそのままセットとして撮影した。撮影の直前まで社員が働いていたというだけあって、建物、設備の雰囲気は抜群だ。半世紀にわたって北海道の報道を支えてきたテレビ局の社屋が、この記念ドラマ撮影をもって役目を終えるというのも感慨深い……。建物にも注目してみてほしい。
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