漫画家になるために博物館で働いていた
斉藤: こないだ上野で開催していた大哺乳類展2に行きました。今までは博物館ってぱって見て「ふーん」「なるほどね」という感じだったんですが、『へんなものみっけ!』を読んだ後だとじっくり見てしまって。仕事終わりのめちゃめちゃ疲れた状態だったのに、すごく楽しかったです。
早良: なにかお役に立てている……!
加納: 早良さんはずっと博物館の中の人だったんです。
斉藤: そうなんですね! そこから漫画家になったということですか?
早良: 大学時代に動物の研究室にいて、そこで調査や解剖などをやっていました。漫画家になろうという夢はありつつも、面白さもあり科博や研究所でバイトを続けながら漫画を描いていました。
斉藤: 作品を読んでいて「知識量がハンパない」「なんでこんなに知ってるんだろう」と思ってましたが、そういうウラがあったんですね。
早良: それもありますし、連載中にも新たな取材をさせていただいています。
――大学時代にはアザラシの観察、調査を行うサークルに入っていたと聞きました。
早良: サークルではいろいろと活動をしました。1週間くらい無人島に5〜6人で泊まり込んで、朝からアザラシを監視する合宿とか(笑)。400頭くらいいるアザラシたちを1時間交代でずーっと数えて5分毎くらいに「3頭水に入った」等と報告するんです。
斉藤: すごーい。
早良: アザラシを観察するか、お酒を飲むか、食べるかしかやることがなくて。
斉藤: めちゃめちゃ最高ですね。自分の好きなことをやって、さらにお酒を飲んでってとっても楽しいことですよ。
――そのサークルの方々が現在では各所で活躍されている。
早良: 意外と動物系のいろんな組織に入っていますね。取材ではお世話になっています。
――作中のキャラクターが個性的なのはサークルの影響も?
早良: それもありますし、バイト先の科博の先生たちもかなり個性的なので。私自身は慣れちゃったからか、特に変だとは思わないですが、マニアックな人ばっかりといえばそうかもしれないです。
斉藤: 全員が全員個性的すぎですよ。研究者って本でも描かれてましたが、一つのものに対してずーっと話せるのがすごいなと。自分も同じように熱く語りたい。さまざまな知識はあるのはそれはそれで素晴らしいけれど、一つのものについてもっと喋れるように勉強しなければ。
――主人公の清棲(キヨス)みたいな人と仕事したら面白そうです。
斉藤: 楽しそう!
早良: キヨスみたいな人たちは実在します。異常に感覚が鋭くて、一緒に調査に行くとすぐ鳥の巣とか発見するんです。野生動物なのかな? と思ってしまうくらい。
――斉藤さんは本作から「やりたいことをやってもいいんだ」と教わったと『ダ・ヴィンチ』で述べていました。早良先生はそうしたメッセージを意識して盛り込んだんですか。
早良: 意図的に込めたというほどではないです。ただ、自分が科博でバイトしていたとき「やりたいことやってていいなぁ」と思いながら接していて楽しかったんですね。だから、そういうものを肯定したいという気持ちは入っています。
なぜ博物館のウラ側がテーマなのか?
斉藤: そもそもなぜ「博物館のウラ側」をテーマにしたんですか?
早良: ウラ側が全然知られていないと思っていたんです。自分がしている面白い体験と世間の認識にギャップがある気がして。研究者って本当はとてもアクティブなんです。すごい崖を登ってたり(笑)。そういう一面も交えて描いたら、博物館に興味を持ってくれる人が増えるんじゃないかと。あとは自分に何が描けるかを考えたら、これくらいしか武器がないので。
斉藤: ウラ側を垣間見ることで、もっともっと知りたいという欲がでました。この先にはさらに知らない世界があるはず! もう一人の主人公の薄井もとても人間味があります。大人になるにつれて、お金を稼いで食べていかないといけないからこそ、やりたいことができなくなることがあるのですが、これを読むと小さい頃の感情がよみがえります。もっと自由にやっていたな、と。「これをやりたい」「続けたい」という意志は自分の中にあっていいんですね。
早良: いろいろな感じ方をしてくれていて、すごくうれしいです。あと博物館は本物を見られるのが重要だと思っています。映像だけより「この生き物を大事にしたい」という感情がより強く湧いてくる気がします。実物があるというのは全然違います。
斉藤: 博物館は大きさがわかるのがいいですね。動物って小さいものは小さくて、でっかいものは本当にでっかい。めちゃめちゃ不思議だなと。同じ種でこんなに差があるの? と。実際のサイズを見られるのはありがたいことです。
早良: そのセリフを漫画に使いたいです(笑)。
クジラが砂浜に埋まっている話
――漫画で印象に残っているエピソードはなんですか?
斉藤: 漂着したクジラの話が一番衝撃的でした。海の砂浜に埋まっている……え、うそーって。今まで私が遊んでた浜にも埋まってるかもしれないと思ったら、めちゃめちゃテンション上がりました。同時にクジラ踏んじゃってるのかな? と申し訳ない気持ちもありつつ。クジラはとても大きくて想像を超えていますね。
――クジラ編の裏話ってありますか?
早良: 発掘には実際に行きました。クジラに直接触ることはなく作業を手伝っただけでしたが、帰りの電車で周りから人がいなくなってチラチラ見られて。におうんだろうなと思って、帰宅してお風呂に入るじゃないですか。上がったら脱いだ服が大変なことになっていて。現場では慣れるから平気だったんですけど……。これが巨大な生き物が土に還る瞬間のにおいなんだって思いました。
加納: 僕も取材同行したんですが、当日着ていた服はにおいが染み付いてました。
早良: クジラの解剖について印象に残っていることがあります。解剖する施設が最寄り駅から徒歩10分くらいだったんですが、駅から5分くらいのところで「何かにおうな」と。残り5分はどんどん強烈になって、近づいていったらその施設があって。
斉藤: そんなにすごいんですね。だから埋めないといけない……。砂浜にはまだ回収しきれていないクジラはたくさんいるんですよね。
早良: 数えきれないくらいいます。また潮の満ち引きで砂が動くから、あとで発掘しようと思って埋める際にはGPSが必要だったりします。
漫画に助けられることはたくさんある!
早良: ソロデビュー(※)ってどんな気持ちなんですか?
※2019年8月14日(水)にミニアルバム「くつひも」発売。10月13日(日)には初のワンマンライブを開催する。
斉藤: 今までキャラクターを背負っていた分、私個人としてステージに立つのは緊張しますね。たくさん練習して積み重ねていても怖い部分はあって。いざステージに立っちゃえば楽しくなるんですが、緊張感は常にありますね。
早良: 不安になって悩む夜とか「どうしよう」みたいなときも。
斉藤: めちゃめちゃありますよ。人間ですもん。性格上、「悩みなさそう」と言われたりするんですけど、そんなわけないですよ。ただ、自分は元気を与える側……と思っているから、悩みを外に出したりはしないですね。一人で悩んで一人で解決して、「これでいっか」って。そのときに漫画に助けられることはたくさんあります。
――『へんなものみっけ!』もそうした作品の一つなんですね。
斉藤: 漫画家さんって本当にすごいですよ、絵もストーリーも描ける。そして言葉を丁寧に扱っている。私は言葉に敏感で、よく漫画のセリフや文字を自分の中でかみ締めて答えを出しています。早良先生も言葉選びがどれもステキで胸にきました。
早良: 光栄です。ありがとうございます。
――最後に、最新4巻が8月9日に登場します。期待する展開などありますか?
斉藤: 動物だったら何が出てもテンションが上っちゃいます。早良先生が一番描きたいものを描いてほしいですね。それを受け止めるのが読者というか、早良先生の好きなようにリアリティーのあるものを描き続けてくれたらうれしいです!
(カエルDX)
(C)早良朋/小学館
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