本作は恋愛映画というよりもコメディ映画要素が強調されており、実写とアニメーション映像を組み合わせる手法がふんだんに用いられています。
さらに全編にわたり「一風変わった」オリジナルギャグを展開しています。例えば、ナレーションに佐藤二朗を本人としてそのまま登場させたことは、観客の印象に強く残ったでしょう。試み自体は茶目っ気あふれるものでした。しかし、そのギャグの根底にあるジェンダー感が前時代的でした。
藤原書記が水着になるシーンに対して入るナレーションが「ボインちゃん」です。1000000歩譲って、男子高校生が女子高校生の胸のサイズをどうとか言うならまだ許せなくはないけど(本当は嫌だ)、成人男性が若い女性の身体的特徴を性的に茶化してそれを「面白いギャグ」とする感覚には疑問を拭えません。昭和のバラエティではなく現代の若い層に向けた映画でこのジェンダー感覚とは……。それともおじさんにとっては今でも面白いのでしょうか。ボインが。ティーン向け作品を幅広い層にも楽しんでもらうためには必要なのでしょうか。ボインが。
アイドル主演のティーン向け映画には、大きな存在意義がある
筆者がアイドル主演のティーン向け映画を好んで観ているのは、「女は本当のファンじゃない」「女の趣味は男の影響だ」など、エンタメの消費者として女性を軽んじる風潮に疲れたとき、ティーン向け映画こそが安心して楽しめる「癒やし」だからです。
2018年の世界経済フォーラム(WEF)が示した男女格差の度合い「ジェンダー・ギャップ指数」において、調査対象149カ国のうち110位の日本。女性やティーンエイジャーなど、社会的立場の弱い人をメインターゲットとするジャンルだからこそ、ジェンダーについての問題意識がほしいと思います。
本作には小学生レベルの下ネタも出てきますが、こちらは好みの範疇(はんちゅう)です。しかし、超えてはならない線引きがあります。平野紫耀や橋本環奈を応援するために駆けつけた若い観客に、古いジェンダー観を無意識に刷り込むような描写を入れるべきではないでしょう。
「壁ダァン」あと五億回見たい
え、じゃあ観なきゃいいって? いや、出演陣の演技ははすごくよかったんですって!
演技だけでクスッと笑えるシーンもあったのだから、オリジナルギャグを詰め込み過ぎず、もっと若い演者を信じてもいいのではないでしょうか。そのくらい、若手の演技は力にあふれていて、惹きつけられました。
主演の平野の愛嬌(あいきょう)のある素直な人柄がにじみ出ることにより、会長・白銀御行はより魅力的なキャラになっていました。あの手この手の策略を巡らせつつも、懸命で誠実な行動の数々によって周囲に良い影響を与えている彼の姿に励まされる人もいるでしょう。
豪快な「壁ダァン」は特に印象的で、必見です。暴力性をはらむ壁ドンですが、豪快さと愛嬌を併せ持つ平野だからこそ心ときめく仕上がりとなっています。彼にはこれからも勢いのまま突っ走ってほしいですね。
出演者の頑張り、原作へのリスペクト、キンプリ及び原作ファンへの細かなサービス精神など、製作側のやる気は伝わってきました。時代感覚をアップデートした次回作に期待です!
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