いのしし 僕も、どうやってコンタクト取るんだ? って半信半疑でした(笑)。
カミチ 血眼になって連絡方法を探しました。そんな中、あるサイトの投稿フォームから事実そのままに「書籍化したい作品があるんですけど、どうやって作者本人に連絡とれますかね……」と相談してみたら「そもそもあなたは本物のKADOKAWAの社員ですか?」って疑われたり(笑)。
――おつらい……。
カミチ でも、丁寧に本名と社名付きで連絡を入れたらとても良い方で、その方にいろいろな作法といいますか、こういう感じで連絡すると良いですよとご教示いただきました。作家さんによっては個人サイトの投稿フォームがあったりして、そこからやはり個別連絡をしてみた感じです。
「やる夫スレ」から「小説」へ
――連絡は手探りかつ地道な作業だったんですね。しかし作者を見つけたとしても、スレと小説では表現がかなり違うと思うのですが、その編の翻案はスムーズにいきましたか?
カミチ 大変失礼ですが、最初は小説が書けるのか、半信半疑でした。そこでまず、それぞれ1章分くらいを文章にしてほしいとお願いしてみました。すると、みなさん書けてしまったんですよね。
いのしし 何年も創作を続けられてる方って言うのはクリエイターとして「強い」なと、今回あらためて思いました。お金がもらえるわけではないのに5年、10年と地道に連載をして、そこに付いてきている読者がいてという環境を経験してきている人たちなので。
カミチ よくよく考えてみると、やる夫スレ界隈って、その道に詳しい方なんかも集まっていらっしゃるじゃないですか。面白さがきちんと伝わらなければ、途中で淘汰されてしまうはずで、文章力がある方々の作品が生き残っていたのだなと。
いのしし 読者の反応も、スレだと鋭い意見がより参照されて、議論の土台になったりしますよね。スレ民はその議論を踏まえて読んでいくので、手軽に深い読解ができてしまう。さらに作者もそれを踏まえて続きを書きますから、すごい相乗効果が生まれるんだと思うんです。
――やる夫スレでは二次創作要素も大きな特徴です。二次創作まわりは翻案する際、特に難しかったのでは?
カミチ そこは作品を選ぶ際に、そもそもオリジナルの小説に落とし込めるかを考えながら選定していきました。
いのしし 『アキトはカードを引くようです』(編注:やる夫スレ版は「やる夫はカードを引くようです」)なんて、僕が読んでいたときはスレ版でちょうど某超有名キャラが登場して盛り上がっていたところだったので、「書籍化するには○○出版さんにキャラの使用許可取ってこないといけないのか……?」って、頭が真っ白になりましたよ。
カミチ 当然それはできませんから(笑)。あくまでもオリジナル作品として作り直す作業は必要でした。
――「やる夫はカードを引くようです」は特に既存キャラが大量に登場するので、「一体どうやって小説化するんだ?」と、ファンもSNSでざわついてました。
カミチ スレ版だと、知っているキャラが活躍するから楽しいという部分も確実にありますよね。でも物語を分解していくとオリジナリティーが詰まっていて、二次創作以外の部分もめちゃくちゃ面白い作品です。川田両悟先生はバトル描写が抜群にうまく、小説ではスレ版とはまた違った展開も盛り込みつつ再構築してくれてます。
――皆さん小説を書かれた経験はあったんでしょうか?
カミチ 『朝比奈若葉と○○な彼氏』(編注:やる夫スレ版は「翠星石と白饅頭な彼氏」)の間孝史先生は、もともと小説賞への投稿歴もあった方で、青春小説的な、詩的できれいな文体でした。『クレイジー・キッチン』の荻原数馬先生も「カクヨム」で作品を発表されていて、ギャグセンスが突き抜けてましたね。
いのしし 僕は『君は死ねない灰かぶりの魔女』(編注:やる夫スレ版は「白頭と灰かぶりの魔女」)を担当したんですが、ハイヌミ先生は大量のキャラの処理がとてもうまかったです。やる夫スレだと既存キャラが出せるので、10人姉妹がドンっと一気に登場しても比較的簡単にさばけてしまうんですが……。
――確かに、キャラのプロフィールが事前に読者と共有できてますね。
いのしし キャラが20人も30人もいると、途中で誰が死んだかとか忘れてしまいますよね。「このキャラを立たせたい」というときに、口癖とかの小手先だとどうにもならないんです。そこはきちんとエピソードやモノローグの厚みを加えて、小説として面白く仕上げていただきました。
――「やる夫はカードを引くようです」と「白頭と灰かぶりの魔女」はスレ版がまだ連載中ですが、書籍版との兼ね合いはどうなっていくのでしょうか?
カミチ やる夫スレ版は別モノですので、基本的には著者さんにおまかせしてます。これまで趣味としてずっと続けてこられたものを、商業化するから終了してくださいというのも違うと思いますので。
いのしし ハイヌミ先生からは執筆中に、むしろ「早くスレを更新したいんです」って言われたりもしました(笑)。
カミチ 『カード』の川田先生もスレの更新にすごい使命感を持たれていて、本が出ることによって更新頻度が落ちるというのはできるだけ避けたいとおっしゃってました。
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