「傑作やる夫スレ4作が一挙にラノベ化」との発表に、5月、インターネットの一部で激震が走った。
“やる夫スレ”とはインターネット掲示板でAA(アスキーアート)と文章を組み合わせ、物語を展開していくのが特徴のスレ群。2002年には2ちゃんねる上に「AA長編板」が誕生。2007年〜2008年ごろから“やる夫”のAAを駆使した作品が多数投稿されるようになり、次第に「やる夫スレ」という総称が定着していった。
現在では「小説家になろう」(ヒナプロジェクト)や「カクヨム」など、手軽な作品投稿サイトが存在するが、そうしたネットインフラが整備されていなかった00年代、ネット発の面白いテキストが大量に生まれたのがやる夫スレだった。
AAには2chキャラのみならず、漫画やアニメなどのキャラも使用された。そうして二次創作的なクリエイティブも飲み込み、スレ上の読者の反応を相乗効果に数々の名作が誕生していった。本格的に作品に触れたことがなくとも「やる夫で学ぶ○○」シリーズや、「やる夫は○○するようです」といった印象的な定形タイトルに、なんとなく見覚えがある人もいるはずだ。
現在でもやる夫スレは存在しているが、「なろう」をはじめ手軽な創作手段が多数存在する昨今では、スレ人口が少なくなってしまった感が否めない。そんな中、やる夫スレから4作品を一挙に小説化する企画「スレ発ラノベ4」が突然発表された。中には約10年前の作品が元となった作品も存在する。何故、いま……!?
このインタビューでは、企画の仕掛人、MF文庫J編集部のカミチ氏と、カドカワBOOKS編集部のいのしし氏に直撃。何故やる夫スレなのか? 2ちゃんねる上の作家にどうやってコンタクトを取ったのか? そもそもやる夫スレを小説に変換するのは難しくないのか? ……次々と湧いてくる疑問に答えてもらった。
会議中にこっそり読んで、どハマりした
――やる夫スレから書籍を出すと聞いて正直驚きました。
カミチ 他社さんだと『ゴブリンスレイヤー』とか、もちろん前例があるんですけどね(笑)。ラノベ界にはこれまでPCゲームや「小説家になろう」など、外の世界から血を入れて大きくなってきた歴史があるので、「では、『なろう』の次にどこかないか?」と考えたときに、「やる夫スレがあったぞ!」と。
――発表後の反響はすごかったですね。
いのしし 当初togetterのまとめが4〜5万の閲覧数になっていて、反響としては十分かなと思ってたんですが、少し経ってから見てみると30万以上になっていて驚きました。
※参考:「傑作やる夫スレ4作が一挙にラノベ化の発表へ」 - togetter
――もともとやる夫スレはよく読んでいたんですか?
カミチ 存在は知っていましたが、本格的に読んだのは昨秋からです。読み始めたらハマりこんでしまい、「キッチンやらないO」「翠星石と白饅頭な彼氏」などは会議中にこっそり読んで、気付いたら泣きそうになったりしてました。ファミレスで22時ごろに読み始めた「やる夫はカードを引くようです」も、気付けば夜中の3時とかになっていたり……。
――読者目線で面白かったと。
カミチ 編集者として10年間エンタメの洗礼を受け続けてきましたが、5時間意識を丸ごと飛ばされるのはなかなかないんです。編集として、売れそうだから企画を立てるのは当たり前ですけど、今回とにかく面白いものにもっと日が当たって欲しいという思いでやってるところがあります。
――いのししさんとの分担はどのようなものだったのでしょうか。
カミチ 私が担当しているMF文庫Jは主に中高生や大学生向けのレーベルなので、高校生や大学生くらいの主人公が多いんです。ところが『クレイジーキッチン』(編注:やる夫スレ版は「キッチンやらないO」)はどうしても主人公がアラサー以上になってしまうなあ……と。
いのしし カドカワBOOKSだともっと大人の読者さんも多いということで、突然LINEで「カドカワBOOKSで出したいやる夫スレがある」と相談が来ました。そこで挙がったタイトルが「キッチンやらないO」で、僕としてはその時点で衝撃ですよ。めちゃくちゃ有名なやつじゃないですか! って。
――いのししさんはもともと作品のファンだったんですね。
いのしし いつか本にしたいなとは思ってたんですけど、単発で書籍化しても、本当に読者に届くのかな? という懸念がありました。でも、カミチがいきなり大作を持ってきたので、「じゃあ俺もやりたいのがあるから、まとめて出しましょう!」と。
――作家さんへのコンタクトはスムーズに行ったんですか?
カミチ 全くスムーズではなかったですね(笑)。
――スレ上だとトリップで作者だと判別できますが、皆さんTwitterアカウントにトリップが紐付いてる状態ではなかった……?
カミチ なかったんですよね。
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