「小学1年生が4割増えるかも」「卒業式が体育館で行えない学校が出てくる」 現役教員に聞く「9月入学制導入」の“多過ぎる課題”(4/4 ページ)
「もしも今年度から9月入学制が導入されることになったら……」を聞いてみました。
8:日本社会が9月入学制に移行することは並大抵のことではない
そもそも9月入学制への移行って、昔から議論されているテーマなんだよね。
昔、「臨時教育審議会」というのがあって。要は“教育に関する有識者が「今後の学校運営はこうあるべきじゃないか」と提言する会議”的なものなんだけど、昭和62(1987)年、第四次答申のなかで「秋季入学に切り替えると、こういうメリットがあるよ」と挙げつつ、「我が国の学校教育を秋季移入学生に移行すべく、関連する諸条件の整備に努めるべきである」としている。
こういう提言が社会に反映されるには10年くらいかかるものなんだけど、30年以上たった現代はどうだろう? 大学に関しては、平成11(1999)年に学校教育法施行規則が改正されて、9月入学制を取り入れやすくなった(※)けど、社会全体で見ると……。
※昭和51(1976)年の改正で「大学は、特別の必要があり、かつ、教育上支障がないときは」という条件付きで9月入学が可能に。上述の平成11(1999)年の改正では、その条件が削除された
―― 進んでないからこそ、議題に上がるわけだよね。
これってつまり「日本社会が9月入学制に移行することは並大抵のことではない」ということだと思う。
中学校運営を中心に話してきたけど、「大学などの場合、空白になった5カ月分の学費はどうするのか。学生側はタダのほうがありがたいけど、学校側は大丈夫なのか」とか「企業では新入社員の入社が4月→9月に後ろ倒しになって、人手不足が発生するかもしれない」とか、ここでは取り上げきらないほどの課題がある。
入学時期の変更は学校だけでなく社会全体に、授業だけでなく個々人の生活に影響する問題だと思う。
9:「現状が良くないからとにかく変えたい」という感情論
―― 君は9月入学制に反対?
いや、賛成でも反対でもない。政府がちゃんと議論・検討した結果、入学が4月になろうと9月になろうと教員として働くだけだよ。ただ、9月まであと4カ月しかないでしょ? 学校側にも準備するための時間が必要だし、“ちゃんと議論・検討”できるだけの猶予が残されているのかどうか。
俺も、海外と同じ9月入学制を導入することにはメリットがあると思う。このタイミングでの導入に賛成している人の中には、感情論に陥っている人もいるんじゃないかな。「今ある世の中の閉塞感を何とかしたい」「現状が良くないからとにかく変えたい」だけで、リスクにまで頭が回っていないというか。
そんな見切り発車で動いていいような問題じゃないよ、これは。
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「残念ながら、こういう人たちは『あなたから部活を取ったら、何が残るんですか』というタイプが少なくない」。