「エルヴィスって誰?」 プレスリーを知らない若者にムーラン・ルージュ監督最新作が刺さる理由 バズ・ラーマン来日インタビュー(2/2 ページ)
パンデミック以降、フランチャイズ映画ばかりだったハリウッドに一石を投じる。
「親戚のおじさんの裏の顔を知ったときのような」 “全米の父”トム・ハンクスが演じる初の悪役
プレスリーの生涯を描きながら、同作を「伝記映画ではなく、50年代から70年代までのアメリカを描きたかった」と話すバズ。語り手としてストーリーの中心に添えたエルヴィスのマネージャーだったトム・パーカー大佐は黒いうわさの絶えない人物で、エルヴィスの稼ぎのうち5割が彼の取り分という事実が明るみに出て「搾取」として法的にも問題となり、“エルヴィス・プレスリーを殺した男”の悪評は現在まで付きまとっています。
―― 映画はエルヴィスではなく、彼のマネージャーだった“トム・パーカー”の視点で進んでいきます。彼にフォーカスした意図は?
バズ トム・ハンクスが演じるトム・パーカー大佐……実のところ彼はトムという名前でも、パーカーでも大佐でもないという偽りだらけの人物だったけれど、何かを売ることに関しては天才的で常にそれだけを考え、クリエイティブや魂の部分はアーティスト任せだった。マネジャーとアーティスト、両者の関係がうまく機能すればいいのだけれど、ひとたびマネージャーが搾取を始めればアーティストはとらわれたも同然で、悲劇的なエンディングを迎えかねない。
いまや有名なマネジャーとアーティストのタッグはあちこちに存在するし、中には支配、搾取され窒息しそうなアーティストがいることをわれわれは理解している。それでもアイドルはたくさんお金を持っていて、ジェットで移動しいい生活をしているという幻想も同時に存在するんだ。
エルヴィスは生前「作り上げられたイメージ通りに生きていくことは難しい」と言っていた。現代の多くの若いアイドルも同じだ。かなりのプレッシャーにさらされ、ときに負けてしまう姿が見て取れる。彼らがファンタジーの世界を生きているという夢をファンに見させ続け、人間的な面を隠し常に完璧でいることは不可能だ。そのことをさらして、エモーショナルでカラフルなミュージカル映画を作りたかった。
―― そのパーカー大佐役にはトム・ハンクスを抜てき。いわば“ハリウッドの良心”と長らく目されてきたオスカー常連俳優で、悪役を演じることがこれまでほぼありませんでしたが、キャスティングの意図は?
バズ 全ての俳優は、「自分はもっと幅広い役を演じられるんだ」と示したいものなんだ。トムが楽器だとしたら「もっと別の音程も出るんだぞ」と証明したがっていた。彼自身、ダークな役を演じることにワクワクしていたよ。
―― “いい人”というイメージがあるからこそ、スマイルが不気味に見えました……。
バズ キモいってことでしょ(笑)。何が面白いって、アメリカでトム・ハンクスといえば“全米の父”とでもいうべき存在。だからこそただの悪役というより、観客は不安な気持ちになったみたいだね。面白くていつもいい人の親戚のおじさんが、実はろくでなしだったと知ったときのような。トム・ハンクスに関してはみんなそういう気持ちになるみたい。
―― ところでトム・ハンクスといえば、代表作「フォレスト・ガンプ/一期一会」でエルヴィスにちょっとした縁が。エルヴィスに独特のムーブを思い付くヒントを与えたのは、幼少期の彼だというシーンがあるのですがご存じでしたか?
バズ トム・ハンクスともなれば、どんな事象にも過去の作品から結び付いちゃうものなんだよ。記者会見で誰かがメンフィスを話題にしたときにも、(同地に拠点を置く運送会社)FedExに話が及んだら「うーん、僕はFedExについてはちょっと詳しいんだよね。『キャスト・アウェイ』に出ていたからさ」と答えてくれた。あの映画でトムはFedExの従業員役を演じていたからね!
監督自ら役になりきることでスタートする バズ・ラーマン流映画製作
―― ファッションのこだわりについて聞かせてください。今日もおしゃれなジャケットですね。
バズ ありがとう。これはパイソン(ヘビ皮)のジャケット。僕が殺したヘビじゃないからそこのところはよろしく(笑)。
ミウッチャ・プラダと妻(キャサリン・マーティン)が今回の作品のファッションには大きく寄与してくれた。「ロミオ+ジュリエット」でディカプリオが最初に着ていたスーツは、ミウッチャが初めて手掛けたメンズウェア。「華麗なるギャツビー」でもミウッチャは非常に協力的だった。
―― エルヴィスの衣装だけでも90着を用意されたそうですね。撮影現場でも監督は毎日おしゃれだったとのスタッフ証言を拝見しましたが、スクリーン内外で着るものにこだわる理由は?
バズ 「ギャツビー」も映画製作にとりかかる4年前からその世界に身を置いていたんだ。キャラクターの衣装を自分で着ることで、その心情が理解できる。「エルヴィス」の衣装も早い段階から着ていたよ。妻が優れたデザイナーでね。現場でも衣装を着るのは同じ理由から。もうすぐエルヴィスの衣装からは卒業するんだけどね。
今日の衣装はエルヴィスというより1970年代風。ネックレスは「Taking Care of Business(エルヴィスのモットー)」の略で、オーストラリアのパールを使っているんだ。「Paspaley」はシャネルも買い付けているブランドだよ。
タイトル:『エルヴィス』
公開表記:7月1日(金)ROADSHOW
配給表記:ワーナー・ブラザース映画
監督:バズ・ラーマン『ムーラン・ルージュ』
出演:オースティン・バトラー(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』/2度のアカデミー賞受賞俳優トム・ハンクス『フォレスト・ガンプ/一期一会』/オリヴィア・デヨング(『ヴィジット』)/コディ・スミット=マクフィー(アカデミー賞助演男優賞ノミネート 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)
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