それを象徴するのがカキン王族だ。14人の王子、8人の王妃をはじめ、各王子につき15人までの従者という異常な人数が登場する。従者には私設兵(王子が独自の人脈で集めた兵)、王妃所属兵(国王軍の中から各王妃に割り当てられた兵)、H協会員(各王子が単独で身辺警護を依頼したハンター)、従事者(身の回りの世話をするもの。非戦闘員含む)など種類があり、374話には250人を超える王族関係者の状況が描かれている。さらに王族とつながりがある3大マフィアも登場していて、現時点で少なくとも300人以上のキャラが船内で行動している。
王位継承戦の行方
祝福の一人御子は誕生するのか
「今回の渡航で生き残った1名を次期国王とする」――カキン王族が丸ごと乗船していた理由は次の王様を決めるためで、同国は先祖代々王族同士で「壺中卵の儀」なる念能力を用いたサバイバルで強い王を選んできたという。その“王位継承戦”がブラックホエール号で行われており、第1王子ベンジャミンの参謀は「船の中では節度を保て 本格的な祭は2カ月後 上陸のセレモニーが終わった後だ」と言っていたが、どうも主戦場は船内になる気配だ。
カキン王は「後方支援に長けた霊獣が深謀遠慮の才溢れる王に憑く事で灼たかとなるホイコーロ一族の運命!! 20万の贄積む箱舟で存分に切り拓くが良いホ!! 祝福の一人御子となるまで……!!」として、今回の乗客を生贄とみなしている。もっともただの暗君ではなく、第9王子ハルケンブルグに「残すべきは国!! 国民の命に決まってるホ!!」「業を負わねば王にはなれぬ」と信念を語る場面もある。そんな王はすでに儀式の一部で役割があり、それが終わるまでは死なないという。逆にいえば役割が済んだ後は……?
ちなみに、ビヨンドは一般人を新大陸に連れて行くところまでカキンと契約しているが、H協会の任務に一般人の安全を守ることは含まれていない。3〜5層の一般渡航者には「船内労働 奉仕 実験体 臓器提供 降船後契約等あらゆる方法で国に搾取され残った雀の涙をマフィアに巻き上げられる」というハードな裏設定がある。
注目すべきは371話にでてきた大掛かりな装置。中央にポッドがあり、その周りに14基の棺が配置されている。1つには最初の犠牲者となった第12王子モモゼが入っていて、明かりが灯っている。「娘はカキン大樹の礎となり、生前よりも力強く輝き息づいているホ」「娘は今も生きているホ…」という王のセリフからは、戦線離脱した王子は棺に収容され、カキンのエネルギーになることが伺える。生き残った王子1人に祝福が与えられるなら、棺は13基でよさそうだが、14基となると今の王も含まれるのだろうか。疑問点はほかにもある。それは第10王子カチョウの遺体が人知れず救命ボートで海を漂っていることだ。カチョウ抜きで装置が正常に動作するのか、はたまた回収されるのか。
第4王子ツェリードニヒと第9王子ハルケンブルグ
王位継承戦におけるキーパソンといえばこの2人だろう。乗船前の力関係でいえば、部下に慕われ、念能力者でもある第1王子ベンジャミンと第2王子カミーラが圧倒的優勢だったと思われるが、ことポテンシャルでは第4王子ツェリードニヒと第9王子ハルケンブルグが卓越している。
ツェリードニヒは表向きは博識な好青年だが、その本性は悪そのもので他の王子を「腐った糞ゴミ」「豚屑」呼ばわりし、王になったら先ず国民を「使えるゴミ」と「使えないゴミ」に分けると主張している。必然的に人望は薄く、部下からも「決して念など会得してはいけない人間」と警戒されているが、いざ念を学びだすとゴンやキルアを上回る才能を発揮し、予知&幻術(刹那の10秒)に謎の念獣というラスボス級の力を手にしつつある。「嘘つく女」をこの世で一番嫌いと語っていたが、念の習得過程で「裏表のある女って可愛いよな」と心境が変化している。人体収集家でもあり、349話には数々の異形な身体と緋の眼(パイロの頭部含む)を所持する姿が描かれている。
ハルケンブルグは文武に優れ、スペックの高さはピカ一。高潔にして自分にも他人にも厳しいが、カキンの王族政治を根本から変えようとしていて、忠誠心の強い部下を持つ。王位継承戦の中止を求めて決死の覚悟で父に迫ったが失敗し、王の言葉を受けて全力で継承戦に挑むことになった。念能力はチームのサポートが必要だが、一度攻撃準備が整えば「対個人の戦闘において必勝の能力」。覚醒したことでベンジャミンから最優先の排除対象とされ、部下との分断工作を受けて今はカキン司法局に拘束されている。第1回公判にベンジャミン陣営が襲撃を予定しており、その危機を回避できるか。
ハルケンブルグは過去に「王子の中で唯一認めるのはツェリードニヒだけ」と主張したという。あの本性を知った上でなのか詳細は不明だが、2人に因縁がありそうなことは絵によって表現されている。それは、2人の母親だ。公式設定ではツェリードニヒは第1王妃ウンマの第2子、ハルケンブルグは第2王妃ドゥアズルの第4子だが、どうも不自然だ。375話に顕著なように、ベンジャミンとハルケンブルグの顔はそっくりで、それは第1王妃ウンマも同じだ。逆にツェリードニヒにはドゥアズルの面影があり、彼の守護霊獣の顔はカミーラに似ている。母親が入れ替わっていて、それがツェリードニヒの人格形成に著しい影響を与えた可能性がある。なお、カミーラは「最初にベンジャミンで次にハルケンブルグを殺すけど いいわね?」とウンマのことを含ませるかのようにドゥアズルと会話している。
モレナはどこまでかき乱すか
最新37巻の表紙に抜てきされたのがモレナだ。3大マフィアの一角、エイ=イ一家の組長におきてやぶりで就任した女性で、「私は私を含めてこの世の全てがどうでもいい」「だから壊しましょう 何となく」と破滅を望んでいる。他者に念能力を授けて成長を促す能力があり、22人の部下と世界を壊そうと企んでいる。パリストンやツェリードニヒと同等以上にヤバいやつで、どこまで事態を混乱させるかが大きなポイントになる。
3大マフィアの組長はいずれも二線者(正統な後継者になれない国王の子孫)で、王権に従順でいる限り、裏社会での十分な待遇が約束されている。しかし、モレナはそれを無視してケツモチであるツェリードニヒを激怒させ、ひいてはカキンという国家全体を敵に回した。さらに諸事情から幻影旅団の実行部隊(ノブナガ、フィンクス、フェイタン)にも狙われるなど厳しい状況にある。
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