しかも、「謎解き」という若者から人気を得ている要素を中心に据えている。例えば「なぜ呪いのビデオを見てから24時間で死ぬのか?」といった問いに対して、論理的な思考を持って立ち向かう様が面白いし、その先に導き出した答えは思いの外「なるほど!」納得できるものになっていた。そういえば、もともとの「リング」も呪いを解くために情報を集めて奔走する、謎解きものだったではないか。そういう意味では、この点は新機軸ではなく今までのシリーズの面白さを踏襲しているのだ。
何より、冷静沈着に謎を解こうとする小芝風花と、ボケボケだが助手的に彼女に付き添う川村壱馬との、ホームズとワトソン的な探偵コンビの活躍そのものが楽しい。そもそものホラーと謎解きとコメディーという組み合わせを成功させたのも、医療とゲームという全く混ざらなさそうな題材をしっかり融合させた「仮面ライダー エグゼイド」を手掛けた高橋悠也の手腕によるところが大きかったのではないか。
ちなみに、二宮直彦プロデューサーは脚本開発のポイントについて、「いわゆるZ世代の若い人たちが貞子に遭遇したらどういう反応をし、どういう会話をするだろうという想定のもとに開発を進めた」「怖い部分は怖く、やりとりではコミカルな部分もあるという、新たな貞子映画を目指した」と語っている。小芝風花と川村壱馬による漫才的なやりとりも、やはり若い世代を意識したものなのだろう。
さらに余談だが、1998年の「リング」ではビデオを見てから死ぬまでの期間は1週間だったが、2016年の「貞子VS伽耶子」では2日だった。そして、今回の「貞子DX」では1日と、時代を経て短くなっていて、それは「ネット社会においてはたった1日で世界中に情報が広がっていく」ことも反映した設定だという。
その時短テクニックに沿うように、今回の「貞子DX」がタイムリミットが刻一刻と迫る中でテンポ良く展開する、見せ場満載の内容になっていたのも、娯楽のタイパ(時間的効率)を気にする若者のニーズに合わせた結果なのかもしれない。
貞子以外でちゃんと怖かった
ここまでコメディー成分や仮面ライダーっぽさや謎解き要素を紹介してきたが、肝心の「貞子」要素が気になっている方も多いだろう。
正直に言って、貞子の存在感は前述した主人公チームのキャラが濃すぎるせいもあって、薄くなっていると言わざるを得ない。だが、個人的にはそれも肯定的に捉えている。それは、路線変更された要素それぞれがちゃんと面白かったということはもちろん、「貞子以外」でしっかり怖いシーンがあることだ。
ネタバレ厳禁のサプライズもあるので詳細は伏せておくが、「呪いのビデオの映像」と「死ぬ前に見えるもの」に本気で戦慄したのだ。シリーズの中でも新機軸のアイデアであるし、斬新な恐怖を演出していることを素直に称賛したい。ちゃんと貞子が活躍するシーンもあるし、良い意味で笑うべきか怖がるべきか分からなくなる「笑いと恐怖が紙一重」なシーンも好みだった。呪いのビデオがSNSで不特定多数に拡散され、誰もが日常的に加害者にも被害者にもなり得るというのも今ならではの恐怖だろう。
何より、これだけアイコニックな存在になり、あれだけ怖かった「リング」のクライマックスはパロディーの対象となり、今ではTwitterで地震のたびにみんなを心配してくれたり、YouTuberデビューも果たしたりしと、もはや萌えキャラ化している貞子を、令和の今に純粋な恐怖の対象としてみることは不可能ともいえる。だからこそ、コメディー成分マシマシの路線変更ぶりも、貞子以外でしっかり怖いシーンを作り出したことも、ある種の開き直りとしてものすごく「正しい」と思えるのだ。
とはいえ、それなりに「おいおい」と思う部分もあったりする。例えばキャラクターたちは「科学的」な見地に基づいて謎解きをしているはずなのだが、その推論そのものが「別にそれ科学じゃなくね」と思う場面もあった。そもそもの論拠もまあまあフワっとしていたり、不確定すぎることを不用意にSNSへ書き込んだりするので「本当にIQ200かよ」と思う一幕もあった。
しかし、それらにツッコむのも野暮ではあるだろう。今回の「貞子DX」は小中学生も大好きな謎解きや仮面ライダーっぽさへと舵を切った内容なのだから、大人も童心に帰ったつもりで無邪気に楽しむことをおすすめする。なお、エンドロール後に遊び心というよりも良い意味でのちょっとした悪意も込められたおまけもあるので、お見逃しなく。
(ヒナタカ)
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