トム・クルーズ、初のオスカー獲得あるか アカデミー賞候補を徹底解説 変革した部分と変わらないもの:【第95回アカデミー賞】(2/3 ページ)
ノミネートの顔ぶれに見る今年の注目ポイント。
トム・クルーズは主演男優賞ならずも作品賞で
クァンやフレイザーとはスケールや状況が異なるものの、2022年のカムバック・ストーリーを「トップガン マーヴェリック」とトム・クルーズ抜きに語ることはできません。1986年の自身の出世作にして代表作「トップガン」を約35年ぶりによみがえらせたのみならず、自身でアクションを操り当時のファンを熱狂させ、新たなファンを取り込み、何よりパンデミックに苦しんだ世界中の映画館を蘇生させた偉業は、トムの実力と情熱、カリスマの大きさを証明しています。
まだ、映画業界に配信が普及する前、1人の名前で興行を稼げる“現代の世界的スター”と呼ばれていたブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオ、ウィル・スミスが全員オスカーを手にしたなか、唯一まだオスカーを手にしていないのがトム。そのトムが主演男優賞候補入りしなかったことを、今オスカーにおける最大の残念な結果と位置付ける声もありますが、自身が製作を務めた同作は作品賞にノミネートされており、トムには作品賞受賞の可能性が残されています。バラエティー豊かな作品がライバルとして名を連ねる中で「トムにオスカーを!」と望むハリウッド関係者も多く、今後のキャンペーン次第では「トップガン〜」にも受賞チャンスがありそうです。
エキサイティングすぎる主演女優部門
最もエキサイティングな部門として注目を集めているのは主演女優部門。前哨戦では、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のミシェル・ヨーがゴールデングローブ賞、「TAR ター」のケイト・ブランシェットが放送映画批評家協会賞をそれぞれ得ていて、オスカーを占う指標とされるアワードを二分しリードしていますが、「フェイブルマンズ」で圧倒的な眩さを放つミシェル・ウィリアムズ、「ブロンド」でマリリン・モンロー役を体当たりで演じたアナ・デ・アルマス、今回一番のサプライズノミネーション(詳しくは後述)となった「To Leslie」のアンドレア・ライズボローと、素晴らしい顔ぶれです。
ヨーは、1月中旬のゴールデングローブ賞授賞式で、アジア人女優として活躍の場を見つけることに苦労したキャリア初期を振り返り、アジア人としても女性としても60歳としても「まだまだこれから!」と感じさせる力強いスピーチが感動的でした。今回のオスカーノミネーション発表後も、米業界紙「デッドライン」に「私のノミネーションによって、全てのアジア系俳優に『ほら見て。彼女にできるなら、私にだってできるはず』と思ってもらえることが、一番意味のあることです。私はとても普通の人間。ただ、とても努力をしています。たくさんの素晴らしい俳優たちに、自分の活躍の場があると知ってほしい」と語っています。
同じく有力なのは、アカデミー賞ノミネート歴7回、受賞歴2回のケイト・ブランシェット。「#Me Too」、キャンセル文化、芸術家の苦悩とさまざまなテーマを含んだ「TAR ター」(5月12日公開)で見せた天才指揮者リディア・ター役のブランシェットの表現は、1人の俳優がここまで幅広く奥深い演技ができるのかとため息が出るほどです。
“ライズボロー・サプライズ”を実現したセレブたちの強力なキャンペーンとは?
そのエキサイティングな主演女優部門で、最大のサプライズノミネーションとなったのが、アルコール依存症と闘い、人生を立て直そうとする主人公を演じた「To Leslie」(日本公開未定)の英国女優アンドレア・ライズボロー。オスカーに向けた賞レースは2022年の秋口に始まりましたが、当初は批評家や業界人の多くが作品名になじみがない状態でした。ノミネート直前まで予測を繰り広げていたアワード専門家たちも、「いったいどこから!?」とライズボローの突然の出現に驚きを隠せない様子です。
実はこのサプライズの裏には、“同僚”俳優たちによる強力なキャンペーンがありました。パンデミックさ中にわずか19日間で撮影されたという同作が初お目見えしたのは、2022年3月にテキサス州オースティンで行われたサウス・バイ・サウスウエスト映画祭でのこと。その後、同年秋の映画公開時に、米ラジオパーソナリティーのハワード・スターンが自身の番組で同作について語ったことでバズが起こり、シャーリーズ・セロンやリーアム・ニーソン、ジェーン・フォンダ、ローラ・ダーン、キャサリン・キーナー、ジーナ・デイビスら有名俳優がソーシャルメディアで賛辞を贈ったり、ハリウッド各所で試写会を主催したりと強力なサポートを得ました。
グウィネス・パルトローやデミ・ムーア、コートニー・コックス、エドワード・ノートンらも試写会を開催。ケイト・ウィンスレットとエイミー・アダムスは、ライズボローの質疑応答イベントで司会を務めました。さらには、結果的に主演女優賞候補として肩を並べることになったケイト・ブランシェットまでもが、1月中旬の放送映画批評家協会賞の受賞スピーチで、ライズボローに賛辞を贈ったのです。異例の展開のあまり、米アカデミーがPRキャンペーンにおける規則違反がなかったかを調査する事態にもなりましたが、ライズボローのノミネーションが取り消されることはなく、授賞式までにさらに注目が高まりそうです。
アカデミー賞の大切な存在価値
賞レースと称して芸術作品における勝敗を決めることについては、常に賛否両論があります。それでも、アワードがなければ埋もれていたかもしれないライズボローのような存在に脚光が当たることこそ、アカデミー賞の一番の魅力ではないでしょうか。「To Leslie」の日本公開は本記事執筆時点で未定ですが、今回のノミネーションを受けて世界でどれだけの人が観ることになるのかを想像するとワクワクせずにはいられません。
第95回アカデミー賞授賞式は、ジミー・キンメルの司会で米現地時間3月12日に開催されます。
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