2022年末で廃業しようとしていた書店が「皆様からの温かいお言葉をいただき」経営継続を決意した――そんな店頭の張り紙がTwitterで話題になっています。経営が苦しい中、なぜそのような思いに至ったのか店主に聞きました。
Twitterで話題になっているのは、滋賀県立美術館館長のkenjiro hosaka(@kenjirohosaka)さんの投稿。横浜市南区の商店街にある弘明堂書店の店頭に張り出された一枚の「ごあいさつ」という画像が投稿に、がんばってほしいというメッセージが添えられています。投稿には約3万5000件の「いいね」が寄せられ、リプライ欄には「馴染みの本屋が廃業してしまうほど胸がかきむしられる思いをすることは無い」「電子がどんどん進出しても、街の本屋さん、残って欲しいですね」と街の書店を応援する声であふれました。
張り紙には弘明堂書店を2022年末で廃業しようとしていたところ、「皆様からの温かいお言葉をいただき、出来るところまで本屋を続けさせていただこうと思います」という言葉があります。
出版不況もあり書店は全国で廃業が相次いでいますが、なぜ経営の継続を決意したのかそのいきさつについて店主の天野日出雄さんに聞きました。
―― なぜ当時廃業を予定していたのでしょうか?
天野さん レジのPOSシステムの更新があり、その経費が数百万円かかることが分かりました。コロナ禍で売り上げの減少もあり、私も高齢のためもう引退の潮時かと思い廃業を考えました。家族経営の小さな書店ですが、50年近く地域の皆さんに愛されて続けてきました。しかし、インターネット販売の影響もあり売り上げも落ちていますのでそろそろ限界かなと思いました。
―― お客さんからどのような言葉をかけられたのでしょうか?
天野さん やはり常連の方からは「残念です」というお言葉を多くいただきました。でも、漫画本をお小遣いで買いに来た小学生に「やめるんだよ」と話したところ、すごく残念そうに「やめないで」と言われたんです。その悲しそうな表情を見たときに、この子は自転車しか移動手段もないのだろう、ネットもまだ使えないのだろうと思ったのです。廃業に際して大人のお客様のお言葉は心配やねぎらいでありがたっかたのですが、小学生の本当に残念そうな表情を見て、この子から楽しみを奪うのかと思うと涙が出てきました。
―― そこで廃業を考え直したのですね?
天野さん やはり書店は地域の文化を提供するシンボリックな存在であると思いますし、そういった自負で経営してきました。確かにレジシステムの更新には多額の経費が必要でした。経営環境は私とパート1人で経営せざるを得ない大変厳しい状況ですが、教科書の取り扱いなどでまだ「ある程度食っていける」と思います。街の文化を守るとまでいえば大袈裟かもしれませんが、廃業をやめたのは子どもたちの喜びを守る「本屋の意地」ですね。
商売は売り上げを作ることが確かに重要なことですが、店主は取材中「心でやっている」という言葉を何度も述べていました。書店経営は全国的に厳しい状況にありますが、商いの本質は何かを弘明堂書店のこの張り紙は語っているのではないでしょうか。
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