“子ども時代に、大切なものを奪われてはいけない” 「屋根裏のラジャー」西村義明 1万4000字インタビュー(5/10 ページ)
プロデューサー自らが脚本を手掛けた理由と、本編で描ききれなかったキャラクターの背景とは。
庵野秀明「ジブリの児童文学的なアニメを絶やしたくない」
――スタジオポノックの長編第1作「メアリと魔女の花」も、ジブリ在籍時代に携わった「思い出のマーニー」もやはり子どもに向けた小説が原作で、一貫して子どものための映画を届けようとしている印象を受けます。
それはポノック設立のときから変わりませんね。ジブリで「思い出のマーニー」と「かぐや姫の物語」が同時に進んでいたときに、ジブリの制作部門の解散については内々に鈴木(敏夫)さんから聞いていたんです。聞いたときは、「そうですか」程度の反応をした記憶があります。ただ後日、鈴木さんがいる部屋に呼び出されて、そこには庵野秀明さんとドワンゴの川上量生さんもいて、初めは何か怒られるのかと思ったんですよ。そしたら、庵野さんからジブリの解散については寂しいことだと思っている、と告げられて、「西村さん、会社を作りませんか」と提案されたんですね。
それまで僕は庵野さんとほとんど面識がなくて、ジブリの階段ですれ違って1回ごあいさつをした程度だったんですが、「かぐや姫」と「マーニー」を同時並行でプロデュースしているときだったし、「かぐや姫」なんて相当大変な状況だったから、無性に腹が立ったんです。そんな会社うんぬんのために僕は呼ばれたのかって。即座に「お断りします」と伝えて。
でも、庵野さんは「僕はジブリを絶やしたくないと思ってるんです。1つはジブリの画で、もう1つは、児童文学的な流れです」とおっしゃった。「それなら庵野さんが残せばいいじゃないですか」と生意気に進言したんですが、庵野さんは「ぼくが通ってきたのは違う道です」と。それで、どこで聞いたのかは分からないのですが、庵野さんは僕が児童文学を愛好していることをご存じだったんですね。で、「西村さんがスタジオを作れば、ジブリは残ると思っている」と。
ただ、何しろ、僕はそのときにはまだジブリで映画を1本も作り終えてもいなかったので、1本の映画も完成させていない人間が立ち上がっても、誰も協力なり応援してくれない。まずは、「かぐや」そして、「思い出のマーニー」を作り上げてからでないと、何も考えられませんから。ただ、そのときの庵野さんの悲しみや焦りは、とてもうれしかった。それは僕が感じていたことでもあったから。少子化の中で難しくなっていくけれど、子どもと共にある映画を作り続けるアニメーションの作り手は残るべきだと思っていたし。
無くなってからしか価値が分からないものって、世の中にはありますよね。それまでは当たり前だったから気にも留めないけど、無くしちゃいけないものもある。それが何かと言えば、僕の場合は分かりやすく言えば、子どもと共にある映画だった。歓びもそうだけど、誰にも言えない悲しみや寂しさを抱えている子どもに寄り添う作品がもしもなくなるんだったら、自分がやろうとも思っていたことだし、そのためにジブリに入ったわけですし。
ただ、ジブリの後に続くなんて、火中の栗を拾うようなものですからね。怖さもあった。でも、誰も拾わなければ終わりますから。高畑さんも期待してくれていたし、庵野さんまでもが同じ期待をかけてくれるなら、火中の栗は拾うというか、当時は責務に近いものがあった。
その後に、美術会社の「でほぎゃらりー」の設立を発起した際も、庵野さんと川上さんは快く協力してくれて。1作目の「メアリ」とか「ラジャー」だけじゃなくて、最近だと「君たちはどう生きるか」の背景美術にもつながっていく。あのとき、庵野さんと川上さんが協力していなかったら、これらの作品の美しい背景美術を描けるクリエイターは散り散りになっていた可能性が高い。今でも本当に感謝しています。無くなってからだと遅いものが世の中にはあるのを庵野さんも川上さんも僕より先に考えていたわけだから。
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